お寺の研究をして、まちの見え方が変わったハナシ(前編)
6月11日、兵庫県尼崎市にある西正寺さんにて、ある大学生の卒業論文研究発表会が行われました。大阪大学の大学院生である、井口奏子(いぐちかなこ)さんは昨年の5月より西正寺さんをフィールドに、卒業研究を行なっていました。その研究で明らかになったことを発表をするとともに、お世話になった方々に感謝の気持ちを伝えるべく、研究発表会を開かれたそうです。以前より、西正寺さんではお寺でカレーを食べるイベント「カリー寺」(http://currytemple.com/)や社会問題を取り上げ、参加者同士で話し合い、考えるイベント「寺からはじまるこれからのハナシ(通称テラハ)」等、地域に向けたイベントを積極的に開催しておられました。
井口さんの研究は、そのようなイベントを通して、どのような「場」が形成されたか、またどのようなコミュニティが形成されたかを明らかにしようとするものです。
こうした研究は、今後の寺院運営のヒントとなるのではないでしょうか。彼女の研究について取材をさせていただきました。
研究のきっかけは?
都市計画の研究をされているゼミに所属される井口さん。以前よりお寺に限らず、独特なデザインが施されているものが多い宗教建築に興味を持っておられたそうです。そして、宗教建築が人々の思想にどのような影響があるのだろう、という問いが今回の研究の出発点となりました。研究の一環で参考書籍を読んだところ、日本の寺院では様々な活動をしていることを知った井口さん。研究をより深めるべく、寺院へのフィールドワーク(現地調査)をすることに決めました。数あるお寺の中でも、西正寺さんが研究対象となったのは、やはり数多くイベントを開かれているというところが決め手でした。また、他の寺院よりも地域に密着している、という印象が彼女の中にはあったそうです。
その後、彼女は「とりあえず西正寺に行ってみよう」とお寺へ向かったそうです。西正寺の中平住職は、突然の訪問に少々慌てつつも現地調査を快諾し、彼女の研究は始まりました。
お寺を取り巻く2つのコミュニティ
こうして西正寺さんと関わることになった井口さん。お寺では様々なイベントを行っており、その場を通して色々な人と出会うことができる。一方で、「檀家/門徒」と呼ばれる存在があるということを知り、多くの人々が出会えるお寺というのは貴重と感じたそう。
みんなと関われるお寺の価値を見出さねばと感じられたそうです。そこから、お寺に集まる「お寺でできること」や「お寺にあつまる人」を焦点に研究を始めます。
彼女はお寺を中心に形成されるコミュニティに着目しました。彼女によるとお寺には「檀家コミュニティ」と「参加型コミュニティ」があるといいます。
西正寺では「カリー寺」をはじめとする地域の方々に向けたイベントを行なっています。そのようなイベントをきっかけとして、もともと西正寺さんにご縁のなかった人で形成されるコミュニティを「参加型コミュニティ」と定義づけました。
一方で、檀家制度は今なお寺院において存続する基礎的なシステムであり、本研究では それらによって形成されるコミュニティを「檀家コミュニティ」と定義しました。性質の違う2つのコミュニティが混在していることが鍵となるようです。
イベントをするお寺とキーパーソンの存在
改めて、調査対象の選定理由を述べた井口さん。訪問先を選定した理由は
・檀家を抱えている寺院である点
・寺院関係者と寺院関係者ではない人物が共同で活動を主催している点
の3つを挙げました。
西正寺さんにおいて特筆するべき点は、活動の主催者が中平住職だけではなく、尼崎市内でイベンターとして活躍しておられる藤本さんの2人がいらっしゃること。先ほどの「カリー寺」もこの2人が主となって運営されています。
続けて、井口さんは西正寺さんとその周辺地域で行われたイベントを時系列順にリストアップされました。もともとは近くにある商業施設の一角を間借りした場所で、多くのイベントが行われていました。しかし2017年秋にそこが閉鎖してしまいます。それとともに西正寺さんでのイベントの開催が増加したことが調査で明らかに。また、「みんなの尼崎大学」という行政プロジェクトの発足によって、一市民が西正寺さんを間借りしてイベントの主催をするようになりました。このことから、前身と位置付けられるイベントスペースと自治体のプロジェクトが影響を及ぼしていることが推察されます。
大阪大学大学院修士課程前期・尼崎ENGAWA化計画インターン生。
建築・都市計画を学びながら、尼崎にてまちに関わる体験をきっかけに、「まちのおもしろさを引き出したい」と思うようになる。