1杯のコーヒーから、いっぱいのご縁を|寺Café SARA―島根県蓮敬寺
冨金原 真慈さん(写真提供:冨金原さん)
海と山に挟まれた自然豊かな街に、カフェが併設されているお寺があります。
島根県江津市の蓮敬寺(れんきょうじ)にある「寺 Café SARA」。そこは、いったいどんなところなのでしょうか?
カフェを運営する、蓮敬寺住職の冨金原真慈(ふきんばら・しんじ)さんにお話を伺いました。
「やらない後悔よりやる後悔」批判を押しのけて始めた寺カフェ活動
店内の様子(写真提供:冨金原さん)
ーーはじめに、「寺Café SARA」とはどういったご活動か、教えていただけますか?
冨金原真慈(以下:冨金原)さん:「寺Café SARA」とは、お寺に併設されている席数15席の小さなカフェです。お一人で、あるいはご友人やご家族とゆっくりできるような場を提供しています。
ーーお寺でカフェをされているわけですね。そのご活動は、どういったきっかけで始められたのでしょうか?
冨金原:僕自身が京都から蓮敬寺に帰ってきたのが、親鸞聖人750大遠忌法要(*1)の少し前の時期でした。当時、法要にちなみ色んなイベントが行われていたのですが、大規模なイベントが一回限り、というようなものが多くて、今後継続して行うような活動が足りていないと感じていました。
(参考:https://www.hongwanji.or.jp/daionki/about/index.html)
また、ご門徒以外の方との接点を増やしたいという思いもありました。島根県は過疎化が急速にすすんでいて、このままではお寺の維持ができなくなるという危機感がありました。お寺を維持するには、もっと多くの方との接点を作る必要があると思ったんです。
ご門徒の方以外が継続的にお寺へ来てもらうにはどうすればよいか?と考え、当初はお寺の倉庫を活用して、サロンをやっていました。ところが不評で、全然人が来なかったんですね。
その頃、他の寺院で「お寺カフェ」をされている様子を見て、自分もやってみようと。
カフェという形であれば、継続的に活動が出来ますし、来ていただいた方に1対1で会話できるなと思ったんですよね。大規模なイベントでは来ていただいた方一人ひとりとお話することは難しいので、それができるのはカフェという活動ならではだと思い、構想を始めたんです。
ーー構想からオープンまでのお話をお聞かせください。
冨金原:親鸞聖人750回大遠忌法要の直後から構想を始め、オープンまでに3年程度かかりました。カフェを開くことへの反対意見が多くて、僕自身がなかなか踏み切れなかったのと、お寺にある倉庫を自分で改装したので、結構時間がかかってしまったんです。
ーーそれはそれは……大変だったんですね。カフェを開くにあたって、どんな反対意見があったのですか?
冨金原:やっぱり「そんなの無理だ」とか「やめたほうがいいよ」といった意見が多かったですね。また「失敗して借金を返せなかったらどうするんだ」といった意見もありました。あとはお寺に不特定多数の人を受け入れることへの抵抗感も大きかったようですね。とにかく、数を上げればきりがないくらい、多くの批判を頂いたのですが、「やらないで後悔するぐらいだったらやって後悔したほうがいいな」という単純な思いと、家族の後押しもあり、カフェを開くことを決意しました。
自費で製作し、運営に失敗したら元の状態に戻すことを条件に、なんとかご門徒の方々の了承も頂き、製作をはじめました。
とにかく資金がなかったので、自分でデザインして、近くのホームセンターで機材を買ってきて、大工の友達に技術を教えてもらったり、時には手伝ってもらいながら製作を進めました。
今振り返ると、製作そのものよりも、失敗したらどうしようと悩んでる期間が一番長かったように思います。
ーー確かに、一度改装してしまうと元の状態に戻すのは大変そうですね。
冨金原:間違ったところを壊してしまえば、元の状態に戻すのは相当難しいですからね(笑)。
ハンマーを叩く決心をするまでに、相当時間がかかりました。
ーーカフェにはどんなコンセプトがあるのですか?
冨金原:お客さんと1対1で会話ができるカフェ、でしょうか。大手チェーンのカフェに通い慣れているとイメージが湧きにくいかもしれませんが、僕の目指すカフェはカウンター席が中心で、マスターと喋るために行くようなイメージなんです。
僕が京都にいた頃、大学の近所にお気に入りの喫茶店があったんです。そこのマスターが親しみやすくて、すごく居心地が良かったんです。なので、朝の10時から夜の6時ぐらいまで、ずっとマスターと喋り続けた日もありました。