紙媒体から広がる地域の輪|地域情報誌「あさぶじかん」―北海道覚王寺
地域情報誌を通して得られるもの
(画像提供:内平さん)
――制作される中で大変なことは何ですか?
内平:麻生はそんなに大きな地域ではないので、どうしても情報が限られてしまいます。そんな中でいかに地元の魅力を見出していくか、毎回編集会議で難儀していますね。
同じような内容を何度も掲載するわけにもいきませんので、一つのことを深掘りしたり、視点を変えてみたりしています。大変な作業ですが、その過程を通して地域の新たな魅力に気づける時間でもありますね。
――発行して良かったことは何でしょうか?
内平:一番の成果はつながりが広がったことです。冊子を通して取材先や読者と繋がることが出来ました。また、冊子が仕上がると、取材先の店舗に手渡しでお届けしています。その際、子育てといったお互いのプライベートのことを話す機会も生まれました。こうした会話は、なかなか表面上のつきあいではできませんよね。
お寺の中だと「住職」としての関係になりますが、外に出れば「一人の人間」として付き合えることに気づかせていただきました。
――他には、どんな気づきがありましたか?
内平:お寺の人間だけでなく、地域の方と一緒に制作するからこそ見えてくるものがありました。お寺以外の事を知るきっかけにもなりますし、お寺へのフィードバックを得ることが出来ます。細かいことで言えば、言葉選びでも世間とお寺で全然違うことがあり、そこに気づかされることもありました。
言葉に関しては、仏教の専門用語を当たり前のように使ってしまうことがありますので、そこに気づかせてくれるのが良いですね。これは、寺報ではなかなか得られない事だと思います。地域情報紙は専門用語をみんなが知らないという前提で作らないといけませんから。
――読者からの感想で印象に残っていることはありますか?
内平:「灯台下暗し」とはよく言ったもので、住んでいても意外と地元を知らない人は多く、改めて地元を知ることが出来たという声をいただいたときは嬉しかったですね。また、仏教色が薄い冊子であるにもかかわらず、住職法話のコーナーを楽しみにしているという声があり、それが印象に残っています。
お寺の魅力とは?
――「あさぶじかん」の制作を通して、見えてきたお寺の姿はありましたか?
内平:お寺は安心感を与える存在だということでしょうか。取材の際も、お寺が地域情報紙を発行することに対する疑問の声はあったものの、覚王寺さんだからと安心して取材を受けてくれるケースもありました。昔から地域にあるお寺だからこそ、安心してお話しいただけると感じています。
――地域の中で、お寺はどういった存在になれば良いと思われますか?
内平:よく、お寺は地域の中心だと言われますが、逆に中心ではない方が良いと思っています。というのは、お寺が中心だとお寺と繋がらない限り、関係が広がらないからです。コミュニティのハブになるのではなく、あくまでたくさんあるコミュニティのうちの一つであることが大事ではないでしょうか。
その意味で「あさぶじかん」が、地域の方の生活で少しでもお寺や仏教というコミュニティとご縁を結ぶきっかけになれれば良いですよね。
――内平さんにとって、お寺の魅力ってなんだと思いますか?
内平:お寺の魅力って、なんとも言えないんですよね(笑)。
あえて言語化するならば、「歴史」や「安心」でしょうか。普段お寺とご縁のない方でも、お寺は歴史を感じるし安心だとおっしゃってくださります。
もしかすると、魅力はお寺から発信するよりも、みなさんに発見してもらうものなのかもしれません。そのためにも外の人と繋がることで、いろんな方にいろんな魅力を引き出してもらうのが大事ではないでしょうか。
――ありがとうございました。
編集後記
今回は、覚王寺の内平さんに地域情報誌「あさぶじかん」の活動について教えていただきました。紙媒体という、古くからお寺に定着している情報伝達手段でありながら、その内容を地域の情報にしているところが斬新ですね。そして、制作する過程で地域の魅力を再発見したり、地域とのつながりを構築したり、地域から見たお寺の姿を教えていただいたりと、得られるものが多いのも大きなポイントでしょう。お寺発の地域情報誌には多くの可能性が秘められているのではないでしょうか。内平さん、ありがとうございました。