PICK UP!│「地震」って何だ?地震大国の日本で暮らすということ【東日本大震災編】<前編>
津波でどれだけの被害があった?
まず、津波被害について大まかにデータを把握しておきましょう。国土交通省の調査(*1)によると津波による浸水が確認されたのは青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉の6県62市町村。浸水の総面積は約535㎢。これは東京23区の面積(627㎢)の85%以上であり、東京ドームで表すと11,442個分(*2)です。このうち4割超は水の深さが2メートル以上に達しており、全壊した建物約12万棟のうち約7万8千棟は完全に流されています。15,000人を超える死者数のうち90%以上が溺死であったことからも津波の深刻さがうかがえます。
【図1】東日本大震災による津波の浸水範囲(宮城県に限る)
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/singi/items/h23_shingi/01/1-4/07.pdf
【図2】東日本大震災における死因(*3)
――津波の恐ろしさがもっと知られていれば、もっと多くの人が助かったのかもしれませんね。ところで、阪神・淡路大震災の際は、地震の揺れによる被害がほとんどだったと思いますが、東日本大震災では揺れによって亡くなった方はいなかったのでしょうか?
黒田:はっきりと分かりません。【図2】の死因のうち「圧死等」が4%とありますが、これが建物倒壊や家具転倒によるものなのか、津波によって流される際のものか……。ただ、最近の研究(*4)(宮城県内の死者9,527人に限った検証)では死因がより詳細に分類されていて、溺死と原因不明の死(合計96%)を除く方々の死因の内訳は、火災による死者が81人(22.44%)、溺死を除く窒息死が63人(17.45%)、頭部外傷49人(13.57%)等と判明しているそうです。今後揺れによる直接的な被害が明確になる日が来るかもしれませんね。
東日本大震災では震度6弱以上で激しく揺れた地域はとても広く、地震観測点の数で表すと、なんと8県200カ所(*5)(2016年熊本地震本震の際は2県40カ所(*6))に及んでおり、建物被害も広範囲に表れており多様です(*7)。地震ザブトン(*8)等で体験してみるとよく分かりますが、揺れによる被害で直接亡くならなかったとしても、室内に居て転倒した家具類で怪我をしたり、閉じ込めに遭って津波から逃げ遅れてしまい、結果的に溺死等につながるケースもあった可能性は否定できないと思います。
――助かるはずの命が失われてしまうのは、何としても避けたいですね。
黒田:そのとおりですね。今後、高い確率で起こると言われている南海トラフ巨大地震は東日本大震災と同じ海溝型地震ですから、実際に学んでさまざまな教訓をきちんと活かさなければいけません。
未曾有の災害と言われた東日本大震災。その数字からも、いかに大きな被害であったかが窺えます。インタビューは後編に続きます。
後編では、将来発生すると予測されている南海トラフ巨大地震について、引き続き黒田さんに教えていただきました。
「地震」って何だ?地震大国の日本で暮らすということ【東日本大震災編】<後編>
参考文献
(*1):国土交通省 東日本大震災による被災現況調査結果について(第1次報告)
https://www.mlit.go.jp/common/000162533.pdf
(*2):東京ドームの建築面積=46,755m2
https://www.tokyo-dome.co.jp/faq/dome/
(*3):警察庁 平成24年度警察白書 特集コラム③図4 東日本大震災における死因(平成24年3月11日現在)
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h24/honbun/pdf/05_tokushu.pdf
(*4):Seto, S., & Imamura, F. (2020). Classification of tsunami deaths by modifying ICD-10 categories in the 2011 Tohoku earthquake tsunami-A case study in Miyagi prefecture. International Journal of Disaster Risk Reduction, 50, 101743.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212420919315742
(*5):気象庁 平成 24 年 12 月 地震・火山月報(防災編) 付録5.「平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震」による各地の震度から計算
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/gaikyo/monthly/201212/monthly201212.pdf
(*6):気象庁 平成 28 年4月 地震・火山月報(防災編) 付録1.震度1以上を観測した地震の表から計算
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/gaikyo/monthly/201604/201604monthly.pdf
(*7):国土交通省国土技術政策総合研究所 独立行政法人建築研究所 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震被害調査報告
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/topics/20110311/pdf/report/0311report_31.pdf
(*8):白山工業株式会社製 地震ザブトン
https://www.hakusan.co.jp/solution/zabuton/
プロフィール
1980 年生まれ。熊本県水俣市出身。広島大学文学部卒。人事・組織開発コンサルティング会社に新卒入社後、2009年に地震計測機器メーカーの白山工業株式会社へ。計測記録を使って地震の揺れを再現する「地震ザブトン」の製品化を牽引し、入社翌年から防災の訓練・研修現場で揺れ体験を核にして専門的な知見を平たく伝える「防災教室」を展開中。運営実績は400回以上、2万人以上との対話を重ね、地域安全学会技術賞やジャパン・レジリエンス・アワード優秀賞を受賞。地震ザブトンとともに防災特集番組等へ多く出演し、広報も兼任した。2021年9月に独立し現職。白山工業とはパートナー契約を結び協業を継続している。