迷惑ってかけてはいけないものですか?「現場の声」から老いをみる<後編>

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――迷惑をかけたっていいじゃないか!
 
そこから理学療法士や介護士といった「老いに直面する現場」で活躍されている方々が「老い」についてのお考えをお話しくださいました。
 
介護士
「人に迷惑をかけてはいけないんだと思ってしまうが故に、老いることに対して怖くなってしまうことってあると思います。例えば、人に迷惑をかけないというポリシーで生きてきた人が、いざ認知症とかになった時に、自分の価値観のせいで自身を苦しめることとなってしまうのではないのでしょうか。そうなると「なぜ迷惑をかけることがダメなこととなっているのか」と思うんですね。
例えば、ある地域において、若い方が老いた方のケアをしたとき、若い方にとってはその経験が自身の老いについて考えるきっかけになりますよね。ですが、迷惑をかけてはいけないと思い退いていってしまう高齢者の方々もおられますし、若い人は老いや死に触れる経験が減ってしまい、結果として両者の間に溝が出来てしまっている。もっと迷惑をかけてもいいのではないのでしょうか。」

 
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理学療法士
「〈介護予防〉という用語がありますが、それってつまり、介護を予防することを国が進めているということですよね。しかし、介護されることがダメだという流れは違うと思うんですね。介護予防のために、体の衰えがないようにと言われているが、衰えることはあたりまえなので、うまく衰えていく方向性の方へ考え方を変えて行った方が良いのではないでしょうか。」
 
現場で活躍されている方々のお話を伺うと、「人に迷惑をかけることが決して悪いことではない」ということがよく分かります。「迷惑をかけざるをえない者同士」だからこそ生まれる新たな繋がりや価値観に、私たちは目を向ける必要があるようです。
 
議論は「医療と宗教」の問題へと発展します。
 
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作業療法士
「リハビリテーションというのは西洋から来た医学モデルです。医学モデルでは、老いないようにとか病気を直すといったことが中心となります。しかし、老いることは止められないし、治らない病気の方が多い、ということは自明です。
そんな中で、治す事ばかりを考えていると、生きづらくなってしまいますよね。西洋医学とは、身体にとって悪いものを切ってしまうように、白黒はっきりさせようとする気質がある。しかし、それだけではいい生き方はできない。そこには宗教的な問題がある。つまり、科学と宗教の接点となりうるものがそこにはあるのではないでしょうか。」

 
30代僧侶
「仏教は『老い』や『病』などといった自分にとって不都合な事実を受け止めるための知恵だと思います。ただ、なんでも受け入れようといった現状肯定だけではなく、〈病気に対して備える姿勢〉と〈究極的に死を受け入れるような構え〉という両方の態度が大切になるのではないでしょうか。というのも、死を受け入れるという仏教的なあり方は長い時間かけて身についていくようなものであり、その中で薬などを摂取したりするような短期的な処置を繰り返し、生きていくことも大切だと思うんです。受け入れるんだけど、どこかで抗うことも大事。」
 
ここでは、 悪いものを取り除いて“治そう”とする〈西洋医学〉と自身の病気や死を引き受けるための〈仏教〉との関係性が話題となりました。医療と宗教との関係には非常に難しい問題を抱えていることがうかがえます。「老いの価値を考える」うえでも、この問題は今後の議論において重要なテーマとなりうるでしょう。

常識のカベ実行委員会スタッフ 足利大輔

 
 
<次回の常識のカベ>
2019年9月2日(月)18時半〜21時
場所:龍谷大学大宮学舎
参加費:無料
詳細・お問い合わせ:
メール:zyoushikinokabe@gmail.com
facebookページはこちら
 
・参加対象
テーマに興味がある方・高齢者支援に関わる方・終活関連の企画に関わる方・今後の生き方へ不安がある方・まちづくり/地域包括ケアについて考えたい方など
 
常識のカベは、2017年より京都市下京区で活動を開始。世の中で問われないような、そもそも論を展開し、少し立ち止まって見ながら今ある”常識”を考え直すような時間をつくっています。昨年までに、20名以上の各種分野の専門家をお招きして、様々な視点をいただきました。(医療・自然農・東洋医学・環境問題・エネルギー問題・AI・介護・仏教など)
今年は「老」をテーマに議論を進めていきます。
 
どうすれば幸せに生きられるのか?幸福度、QOL等、新たな豊かさのモノサシが議論されています。経済成長や物質的豊かさの果てしない追求。
の先に本当の幸せがないことに、多くの人が気づきはじめています。「常識」とは一体何なのでしょうか。
共に語り合い、学び合う中で、混迷をきわめる社会において、一人ひとりの「常識」とは一体何なのでしょうか?
一人ひとりにしずかな革命がおこるような時間となれば嬉しいです。
 

主催:常識のカベ実行委員会・龍谷大学実践真宗学大学院生有志メンバー

 


 

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常識のカベ7月3

 
老いとお金。経済発展がもたらしたものと無くしたもの。お互いさまから創る社会
 
 
 


 

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掲載日: 2019.08.31

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