【レポ】「治す」ことをあきらめ、「癒す・抱えて生きる」医療への方向転換。

常識のカベ1
12月の「常識のカベ」は、10月の会にもお越しいただいた、龍谷大学大学院 実践真宗学研究科教授の中村陽子先生をゲストに迎え、「最期のこと」と題し、看護・医療者の経験を通して私たちが向き合う「生と死」の新しい課題といのち・生活に学び、仏教と医療・福祉・介護の協働を模索するような提言をいただきました。続けて、参加者の皆さんで講義の内容に応じたディスカッションを行いました。(10月の会の様子→ 【イベントレポ】養うべきは「老人力」?2025年問題から学ぶ「老い」との付き合い方
 
中村先生は、もともと看護師をされており、その後、仏教に興味を持ち実践真宗学研究科大学院生を経て、教授となられました。
 
今回はその様子を2回にわたってお届けします!
 
 
地域医療構想のメリット・デメリット


 
 
1963年にフランス哲学者ミシェルフーコーは、『臨床医学の誕生』において、医者と患者の関係性の変化について、このように語っています。
 
かつて医者は患者に「どうしたのですか?」尋ねました。しかし、18世紀末ごろ(医学の進歩)から医者は患者に「どこが悪いですか?」と尋ねるようになった。
 
医者と患者の関係の変化の原因は何なのでしょうか?
中村先生は、人間は死ぬことを忘れてしまった。死ぬことを忘れた人は生きることが当たり前となってきているのではいでしょうか。そのように始めにご提言されました。
 
皆さんは「地域医療構想」というものをご存知でしょうか?
 
2014年(平成26年)6月より、超高齢社会にも耐えうる医療提供体制を構築するため、「医療介護総合確保推進法」によって、「地域医療構想」というものが制度化されました。
 
2025年問題による医療介護問題の拡大( 【イベントレポ】養うべきは「老人力」?2025年問題から学ぶ「老い」との付き合い方)等に伴う、対策の一つとして、全国各地の医療組織が、行政レベルでの統合がはかられています。
(参考資料: 地域医療構想 厚生労働省医政局地域医療計画課資料
 
 
中村先生は、この制度は地域において反対意見が出ていることを教えてくださいました。
医療の統合とはどういうことなのでしょうか?
 
例えば、400床の市民病院と400床の総合病院が統合することになるとします。その2つの病院が統合されると、単純に足して病床数が800床になるわけでなく、600~700床となり、病床数が減っての統合になるそうです。
 
また、今まで地域の近くにあった病院が統合されることにより、地域によっては遠くなったり、今まで簡単に手に入れていた医療が簡単に受けられなくなる状況が生まれてしまいます。
 
常識のカベ2
 
国民皆保険制度の崩壊と介護保険も10兆円を超え、医療がやっていけない状況がうまれています。地域医療構想により、病院が統合されると、過疎地域では病床数の維持ができず、人がいないところでは医療の平等化を担保できない状況に発展してしまうということです。
 
 
中村先生は、「効率的にはなるけれども、一人ひとりの命の質をみていないのでは?」と疑問を投げかけておられます。
確かに、病院に行けば診断してもらえ、薬ももらえる。病院・医療は体の困りごとをなんでも解決してくれると思っているところもあるのは事実です。
 
 
「治す・救う」から、「癒す、抱えて生きる・支えること、看取ること」へ


 
 
アドバンスケアプランニング(ACP)通称、人生会議ということがニュースでも話題になっています(厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
 
「自らが希望する医療・ケアを受けるために、大切にしていることや望んでいること、どこで、どのような医療・ケアを望むかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人たちと話し合い、共有することが重要です。」と厚生労働省では言われています。
 
どうやって死ぬか。それを元気なうちに計画しておこう、話し合っていこう、とも言えます。
今をどう暮らすのか?どう生きるのか?死に様をどう決めていくのか?これが、政府の方針でも明らかになり、政策によって決められてきています。
 
枯れる花
 
しかし、話し合った結果「家で死にたいなぁ」「病院で死にたいなぁ」など、自分の希望する最期が見えてきたとしても、病床数の減少、医療費の削減もあり、地域のサービス、医療がどうあるべきかなどが整わないままに、政策が決まっていく⋯⋯。という状況に置かれています。
 
 
中村先生は、興味深い資料を出してくださいました。
 
地域医療構想について
 
(厚生労働省の資料 地域医療構想厚生労働省医政会平成元年6月7日)
 
この資料を見ると、今後は「治すこと・救うこと」ではなく、「癒すこと・抱えて生きること・支えること・看取ること」がメインになるとデータで表しています。医学モデルにおいても、お金を費やしても、救う・治すことは「もう無理です!」っていうことを言っている。医療界は方向転換をしているんだ、と中村先生は強く言われていました。
 
人生100年時代なんて言われており、100歳まで生きることは語られるけど、日本に充満している孤独死、看取りの課題をあまり語られないのが現状だと中村先生は言われました。朝日新聞によると、全国の孤独死は推計2.7万人に及ぶと考えられています。
 
 
次回は、アドバンスケアプランニング(ACP)人生会議と看取りについてのお話とディスカッションについてお届けします。
 
 
<常識のカベ>
メール:zyoushikinokabe@gmail.com
facebookページはこちら「常識のカベ」
 
常識のカベは、2017年より京都市下京区で活動を開始。世の中で問われないような、そもそも論を展開し、少し立ち止まって見ながら今ある”常識”を考え直すような時間をつくっています。昨年までに、20名以上の各種分野の専門家をお招きして、様々な視点をいただきました。(医療・自然農・東洋医学・環境問題・エネルギー問題・AI・介護・仏教など)
今年は「老」をテーマに議論を進めていきます。
 
どうすれば幸せに生きられるのか?幸福度、QOL等、新たな豊かさのモノサシが議論されています。経済成長や物質的豊かさの果てしない追求。
の先に本当の幸せがないことに、多くの人が気づきはじめています。「常識」とは一体何なのでしょうか。
 
共に語り合い、学び合う中で、混迷をきわめる社会において、一人ひとりの「常識」とは一体何なのでしょうか?
一人ひとりにしずかな革命がおこるような時間となれば嬉しいです。

   

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掲載日: 2019.12.20

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