日本人の優しさ アプリで始める「みまもりあい」


2007年に超高齢社会を迎えた日本。
 
これからも高齢者人口の割合は増加し続け、「老後2000万円問題」などでも話題になったように、これまでの既存の行政主体の仕組みではケアを補いきれなくなることが懸念されています。
 
この問題を対処するためには「地域包括ケアシステム」に代表されるような、地域の互助の力がこれからより重要になっていくとされています。一方で、こうした互助を支える地域の絆やつながりは年々希薄化しているのではないかとも指摘されており、QOL*1 が低下することが考えられます。
 
そのような現代社会の中で、人生の晩年も心豊かに生きることのできる社会の実現に向けて、僧侶にはどのようなことができるのでしょうか。地域において人々の互助の精神的支柱である寺院が、これからもそのようにあり続けていくためには、どのような仕組みが必要となるのでしょうか。
 
 
突然ですが、拾われた現金が年間いくら交番に届けられるかご存知ですか?
 
その額およそ 186億円!
そのうちの 約70% が落とした本人の元に返ってきているそうです。
(平成30年警察白書「拾得物・遺失届の取扱い状況の推移(平成25~29年))
 
「困っている人がいれば助ける」
 
日本には昔から「互助」の精神が根付いている……このことに注目され、「みまもりあいプロジェクト」という新たな試みを開始された方がいます。
 
今回は、社団法人セーフティネットリンゲージ「みまもりあいプロジェクト」代表 高原達也さんにお話を伺いました。
 
 
「みまもりあいプロジェクト」?
 
――まず「みまもりあいプロジェクト」とはどういったプロジェクトなのでしょうか?
 
高原達也さん(以下、高原):大切な人の迷子や一人歩き、事故などの緊急事態、落とし物、また災害時に、捜索のお手伝いをしてくれる協力者を増やす地域型のプロジェクトです。
 
特別な機材はいりません。当社団が提供するアプリケーション(以下、アプリ)をスマートフォン(以下、スマホ)にダウンロードすることで、誰でも簡単に捜索依頼と捜索協力が可能です。「〇〇を探してほしい!」と困っている人と「それを探すお手伝いしますよ!」という協力意思を持った人とを繋ぐアプリなんです。もちろん、ダウンロードは無料です。
 

みまもりあいアプリ アイコン
 
このアプリをスマホにダウンロードすることでこのアイコンが表示され、タップすることで誰でも簡単に捜索依頼や協力をすることができるようになります。
 
また、「みまもりあいステッカー」を大切な人の持ち物や、なくすと困る物に貼っておけば、万が一のとき発見者と直接連絡を取ることができます。
 

みまもりあいステッカー
 
ステッカーに記載されている緊急連絡転送ID(以下、ID)を使うことで、依頼者と協力者が連絡を取ります。両人の携帯番号が非表示のかたちで、個人情報を保護した状態で直接通話ができます。IDはアプリにも活用することが可能です。IDとフリーダイヤルにより個人情報が守られた仕組みになっているので、安心してご利用いただけます。
アプリについては、特別に緊急の場合を考えて、IDがない方にも、捜索依頼をする依頼者側の判断で、電話番号を使って捜索依頼ができるようにしています。これによりアプリはすべての人が緊急事態発生時には使える状態にしております。
 
またセキュリティとして、ID経由による電話は、つながった時点で録音をすることを伝達して実際に録音する仕掛けになっております。オレオレ詐欺で録音されることが伝わるとほぼ電話が切られるという話もあり、安全性は高いと思われます。
 


 
■アプリのダウンロードはこちらから可能です。
 
 
 
「困っている人がいたら助けよう」という気持ちがある日本
 
――この事業を始めたきっかけを教えていただけますか?
 
高原:きっかけは私が大学生の頃に発生した阪神淡路大震災です。
 
歴史的大惨事の中で、地域の方が助け合う姿やボランティアに来てくださる方を見て、互助に対する関心が生まれました。そして、新たな社会貢献事業をしたいという想いで株式会社ベネッセホールディングスに入社し、様々なプロジェクトを起こしてきました。
そんな中、祖父が認知症になり、そこから認知症についても少しずつ考えるようになりましたね。その頃はまだ「認知症」という言葉もなかったので、認知症の方が行方不明になるといった問題も深刻視されていませんでした。
 
――高原さんご自身が色々な経験をされたことで、この互助を基盤としたみまもりあいプロジェクトがスタートしたということですね。
 
高原:はい。しかし日本は「互助が安定しない」と言われています。
 
例えば、スタート時にはたくさん集まったボランティアが、時間が経つとどんどん減っていき、人も寄付も集まらなくなる、とか。だから日本の企業等は、安定しない互助というものを基盤に新たな事業開発をするという発想が全くなかったんです。
それでも、なぜか交番に毎年落とし物として安定的に現金が届けられ、持ち主に返される……つまり「困っている人がいたら助けよう」という気持ちが日本人の心には厳然としてあるんですよ。
 

この統計は、まず他国では見られないことだと思います。
 
――確かに、海外で落とし物が戻ってくるケースは少ないイメージがあるかもしれません……。
 
高原:私は世界にも類を見ない日本人の互助精神を基盤に、ICT(情報通信技術)がサポートする見守り合いの仕組みが作れたらいいなと思いました。迷子や落とし物、高齢者の徘徊問題を、GPS(位置情報特定サービス)の機能だけでなく住民の「互助の精神」を活かすかたちで解決する仕組みです。
 
――大切な人の持ち物にステッカーを貼り、スマホにはアプリをダウンロードするだけで「みまもりあいプロジェクト」への参加ができるんですね。また、「地域の住民がみんなで見守る仕組み」には安心感があります。
 
では、このプロジェクトの立ち上げにおいて大変だったことや悩んだことはありますか?

 
高原:当然ですが事業を継続していくためには、運用資金を得ないといけません。ここがうまくいくかどうか心配でしたね。助け合いの気持ちがあり、かつアプリをダウンロードしてこのシステムを利用してもらわなければ、このプロジェクトは成り立ちません。この事業を立ち上げるにあたって、そもそも娯楽性もなく、お得なポイントがつくわけでもない「人を救うためのアプリ」を人々はダウンロードするのか?という懸念の声もありました。
 
――「みまもりあいステッカー」の利益だけで運用していかなければならず、また困っている人をお手伝いしたいという気持ちとアプリを活用するというアクションがないと、このプロジェクトは成り立たない……それはすいぶん難しい課題だったのでは?
 
高原:そうなんです。ところが蓋を開けてみたら、開始から3年でおよそ60万ダウンロード。(2020年4月現在)100か所でみまもりあい訓練も実施し、総数約1万5000人に参加していただいております。
このアプリの活用で、東京都八王子市では、アプリのダウンロード数が約1万件、捜索依頼が約700件、発見連絡が約200件(2018年度調べ)あり、こういった発見保護の報告から実用性も認められ、事業のほうもなんとか維持できています。
 
――データからも、日本には助け合いの文化があることが示されているんですね!
このみまもりあい訓練とは具体的にどういったものなのでしょうか?

 
高原:地域団体と住民が、このアプリを使って「かくれんぼ」をする、という訓練イベントがあります。探す側の参加者がスマホにアプリをダウンロードして、アプリの中で見つけてもらう方の特徴を知り、そして商店街等特定の範囲内にいる対象者を見つけるとスタンプをもらうことができる。こういう流れですね。
 
――子どもさんも楽しみながら訓練ができそうですね。お寺のイベントでやってみてもいいかもしれません!
 
 
「みまもりあいアプリ」と「みまもりあいステッカー」という技術を活用し地域の見守り合いを促進していく高原さんの「みまもりあいプロジェクト」。それは、日本人に根付く助け合い、互助の精神を根幹として社会に働きかけるものでした。
 
次回は、この「みまもりあいプロジェクト」を活用した、寺院と互助の未来についてお話を伺います。
 
 
*1 QOL……Quality Of Lifeの略。一人ひとりの生活の質。ある人がどれだけその人らしく生活できるかの尺度。
   

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掲載日: 2020.07.22

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