文化をビジネスに?京都から伝統を見つめなおす

皆さんは「京都」と聞いて何を連想しますか?
 
工芸品、神社仏閣、芸事やお祭りなど、今も伝統を語り継ぐ街としてのイメージが強いのではないでしょうか。
実際に、京都には創業100年以上の伝統ある会社がとても多いんです。
 
伝統とは。
文化とは。
 
それは、これまで人類が築いてきたものであり、できればこれからものこしていきたいものです。
しかし同時に、時代にあわせて変化していくものでもあるのではないでしょうか?
これは宗教にも言えることなのかもしれません。
 
今回インタビューするのは、京都の伝統や文化を活かし、社会を盛り上げる取り組みをされているCOS KYOTO株式会社代表取締役/文化ビジネスコーディネーター 北林功さん
 

伝統や文化を扱う北林さんの視点から、宗教はどう考えられるのか、お話を伺っていきます。
 
 
――はじめに簡単な自己紹介をお願いします。
 
北林功さん(以下、北林):今は主に京都で活動していますが、出身は奈良県です。
大学で政治学や環境政策を勉強した後、その学びを活かし、環境やエネルギーにかかわりたいと考えて大阪ガスに就職しました。ただ大阪ガスといっても配属されたのは京都事業所で、それが僕と京都とのご縁のきっかけです。
 
その後、環境問題をはじめとした世の中の社会問題の原因は「人」であることに気づき、少しでも人が良い方向に変わることに携わりたいと考え、グロービスという人材育成の会社に転職しました。そこで、東京で金融・証券等の顧客を担当した際にリーマン・ショックを経験したことから、本当に持続可能なビジネスとは何か、人はどうやったら良い方向に変わっていくのか、といったことについてより考えたいと思い、京都に戻って同志社大学の大学院で「文化ビジネス」を研究しました。
 
もともと10歳くらいの頃からずっと、自律・循環・継続可能な社会の実現を人生の目標の一つとしてきました。そして、ここまでの人生経験から、その目標の実現に、地域に根付いた地場産業……つまり工芸が重要になってくると考えました。地場産業の仕組みには、僕の考える自律・循環・継続のエッセンスがあると感じたんです。
 
そして、文化という楽しくて心を豊かにするものを広げていくことで自然と人が変わり、それによって世の中を良い方向へ変えていきたいと思い、地場産業と文化交流、地域活性を支援する会社としてCOS KYOTOを立ちあげました。
 

COS KYOTOのホームページはこちら
 
 
――COS KYOTOさんは主にどのようなことをされているのでしょうか?
 
北林:基本的には地場産業の企業のビジネスのサポートをし、地場産業の持つエッセンスを世の中に広げていくお手伝いをしています。
京都を選んだ理由は、社会人の第一歩を踏み出した地であり、創業100年を超える会社が多く、その長期的な視野を活用したいと考えたからです。ところが実際仕事を始めると、京都の方々から「こういうことに詳しい京都の人知りませんか?」とか「こういう会社は京都にありませんか?」と聞かれることがよくあって。それを、当時京都で事業を開始してあまり間もない僕が仲介をしていることに違和感がありました。
 
例えば僕が企画した地域の交流会で、ある二社の代表がお話していました。双方とても近い場所にあり、100年以上続いている会社同士でしたが、その交流会で初めて名刺を交換していたんですよ。
 
――代々交流がありそうだと思うのですが、そうでもなかったんですね。
 
北林:そうなんです。先代に交流があっても当代ではなくなることも多い。京都にはたくさん会社もあるし人もいるのに、さっきの例のような現状がありました。それだともったいないですよね。だから京都に存在する多種多様な人たちが自然と交流し、互いに高め合っていくお手伝いがしたいと考え、「DESIGN WEEK KYOTO(第4回記事で紹介)」を始めたんです。
 
 
文化を伝えていくビジネス
 
――先ほどお話に出てきた「文化ビジネス」とはそもそもどういうものなのでしょうか?
 
北林:大事なところですね。他であまり言われない言葉なので説明は必要です。
まず文化ビジネスと似ているものとして「伝統産業」があるんですが、日本では昭和49年に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」という法律で決まっているものをそう呼ぶんです。
 
伝統的工芸品に関する法律についてはこちら
 
――「伝統産業」と呼ぶものはその法律に準じている必要があるということですね。
 
北林:はい。正直なところ僕はそこに少し疑問を抱いていまして。もちろんその法律によって伝統産業は支えられています。しかしやっぱり制定されたのが昭和ということもあり、時代にあわない部分も出てきているんです。*1
 
この問題を知り、変化をしなければ伝統産業業界は危ないと思いました。
例えば、伝統工芸品は伝統的な技術を使って作られます。しかし実際は、伝統的な技術にその時代の新しい技術や感性、素材などがミックスされ、受け継がれ、発展してきたものです。京都の伝統産業も同じです。
 
――実際の伝統工芸品は伝統的な技術とその時代ごとの新たな技術のミックスである、ということでしょうか?
 
北林:そうです。しかし今、職人さんたちが自分の作品を法律に準じて伝統工芸品と認定されることを目指すと、その発展や進化が妨げられる側面もあるのではと感じるようになりました。
 
時代、技術、人々の生活環境はどんどん進化するので、工芸品も進化させていくことが重要になります。しかし、進化してもそこに込められた自然観、風土等の本質的なものが維持されていれば、それは日本の文化だと僕は思っています。その文化を具現化する方法は、時代にあわせてどんどん変わっていくべきであり、そういった姿勢こそが受け継がれるべき伝統であると考えています。それを規則で制限されてしまうことを問題視しています。
だからこそ規則に制限されず自由な工芸品を作ってもらえる、文化を核にしたビジネスということで、「文化ビジネス」と呼んでいます。
 

 
――発展と規則はどちらも大切ですね。その発展の部分を「文化ビジネスコーディネート」というかたちでビジネスサポートされているのがCOS KYOTOさんということでしょうか?
 
北林:僕は、「もの」とは文化を人に伝える手段と考えていて、職人さんが培ってきた文化の部分をいかに多くの人に伝えられるかを考えてサポートしています。そのためには交流イベントや商品の販売なども手段として必要です。そういったイベントや商品企画等を実現するために、いろんな分野の専門家が集まってサポートチームを結成するんです。そうして人と人、人と文化をつないで、目的を実現させる企画を立てます。戦略やビジョンを考えるだけでなく実行するところまで一緒にやる。これが僕の仕事で、チームメンバー、そしてビジネスの全体をコーディネートするということで「コーディネーター」と定義しています。
 
先ほど工芸などの手段も時代に合わせて変わるべきという話をしましたが、この仕事をしていて常々「残すべき大事な本質は絶対にある」と感じます。何を残すべきか?という問いは続けていくべきですが、この姿勢は忘れないでおきたいですね。
 
――変化するなかにも変わらない部分はあるということですね。
 
 
 
「文化ビジネス」のお仕事を通して本質を捉え直す。そんなインタビュー第1回でした。
次回は、コロナの時代に問われる「本当に必要なもの」、そして北林さんの考えるこれからの時代の宗教の役割について伺っていきます。
 
 
*1 平成4年、平成13年に一部改正されています。
 
 
<インタビューのつづきはこちら>
第2回「宗教の役割って何だっけ?私たちに本当に必要なものを問い続ける」
   

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掲載日: 2020.08.28

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