暖かな空気に包まれたグループホーム。その中心にある◯◯
スタッフの方々の努力と知恵のもと、暖かな空気に包まれるグループホーム「むつみ庵」。施設を支えているのはスタッフだけではありません。今回は、施設を支える地域や医療についてお伺いしました。また、施設の特徴にして原点でもある「お仏壇」についてもお話しいただきました。
<インタビューを最初から読む>
むちゃくちゃ急な階段があるグループホームのお話。
日髙 明さん
地域で見守るグループホーム
ーー 一般的な施設だと扉を施錠していますが、それはされてないのでしょうか?
日髙 明さん(以下、日髙):基本的には施錠はしていません。ですがその分注意をしておかないと入居者さんが失踪してしまいます。ただ、そうしたトラブルを地域の方に助けていただくこともありますね。
例えば、帰宅願望の強い入居者さんが「出ていく」と何度も外に出ようとすることがあります。もちろん私たちは静止するのですが、本人から「警察を呼ぶよ!」と脅されるくらい関係がピリピリすることもあるんですね。すると、近くに住んでいる方が寄ってきて、入居者さんをなだめたり、説得してくれます。誰か別の方が入ることで場の雰囲気が変わり、本人もすんなりと施設へ戻ってくれるんです。
ーーご近所の方からもご理解を頂いているようですね。
日髙:ここにグループホームがあることは皆さん知っておられますし、散歩の途中で挨拶も頻繁にしますし、そこは田舎ならではの関係性があるのだと思います。
あとは、寺院が運営しているということも理解につながっているのではないでしょうか。お寺へお参りに行った時も、ご近所の方とお会いしますから。
ーー多くのご縁に支えられているむつみ庵さんですが、ここからは各業種の連携についてお尋ね出来ればと思います。まず、医療の方々とはどのように連携されているのでしょうか?
日髙:医療面では、歯科医と内科医の方による定期検診、訪問看護ステーションによる週1回のサービス提供です。定期検診で対応できないものは病院に行って問診を受けています。
訪問看護ステーションはもともと契約をしていませんでしたが、数年前に看取りを行ったときに医療ケアが必要だと考え追加契約しました。
ーー近くに保育園もありますが、保育園との連携もされているのでしょうか?
日髙:近くには保育園と児童館がありますが、今の時点では具体的な連携はまだ出来ていません。ですが、今後は検討しても良いかもしれませんね。国全体の方針として、地域全体でのケアが必要とされてきていますし、何よりおじいちゃんおばあちゃんは子どもたちが来るとすごく喜びますから。
むつみ庵に安置されているお仏壇
お仏壇の前で
ーーなんといいますか、地域で見守っているグループホームなのですね。数年前に、看取りをご経験されたとのことですが、どのような様子でしたか?
日髙:先ほど申しあげたような、食欲が落ちてきたとか立てなくなったといった細かな変化がどんどん続いて、状態が悪くなると内科医の先生に診てもらいます。その先生があとどれくらいなのかを判断された後、看取りの体制に入っていきます。
ただ、そのような状態でもできる限りは食堂や居間で過ごしていただいてますが、座っている状態も辛くなるとベッド生活になります。そして、だんだんと死期が近づいてきたら訪問看護の方に随時来ていただき、看取っていきます。大抵、水分が摂れなくなった日の2〜3日後に亡くなられますね。
ーーその後、葬儀をこちらでされることも?
日髙:そうですね。看取り自体がめったにありませんが、2012年頃に亡くなられた方はこちらで葬儀を行いました。本人がここを自宅だと思っており、かつ、お仏壇もあったので出来たことですね。
ーーお仏壇があるグループホーム…まさにお寺が運営する施設ですね。お仏壇があることで、他にはどんな違いが生まれますか?
日髙:一般の施設ではレクリエーションや散歩といった気持ちのリフレッシュはあっても、日常とは違った神聖な空間に立ち入ることはあまりないと思います。
ですが、お仏壇という仏教的な空間が持つ力は確かにあります。自身の息子さんの顔も判別できない認知症の入居者さんが、お仏壇の前で熱心にお勤めする姿を見ると、仏教が持つ文化的な力は認知症の高齢者の方にも響くんだなと思いますね。
合掌や礼拝という身体に染み込む習慣は記憶に残りやすいですし、お勤め自体はすぐに忘れてしまっても、心は落ち着いておられます。
グループホームはあくまでも公共施設ですのでお仏壇の設置には一工夫要りますが、それでも絶対にあると良いと思います。
ーーお寺のグループホームがどんどん拡大すると良いですね。最後に、お寺がグループホームを開設するにあたってのアドバイスを教えて下さい!
日髙:まず、設備に関しては火災の予防が一番大変です。2013年に発生した長崎県のグループホームの火災を受けて、スプリンクラーの設置が義務付けられています。古民家を活用する場合、改修は避けて通れませんね。
また、グループホームは公共施設ですので、普段は御簾をかけるなどしてお仏壇を隠す必要があります。儀礼のときだけ開くという運用が求められますね。
組織に関しては、宗教法人で運営するよりもNPOを設立するほうがやりやすいです。スタッフは、寺院の持つネットワークを活用すると効率的です。一人で進めるのは大変なので、介護の事情に詳しい協力者を探して、一緒に進めていくと良いのではないでしょうか。
<インタビューを終えて>
つい、「おじゃまします」と言って立ち入ってしまったむつみ庵。見かけや雰囲気こそ「昔ながらの家」ですが、そこはきちんと認可の下りたグループホームです。
古民家を活用したグループホームは、日本はおろか世界で見ても例がほとんど無く、その設立や運営には多くの壁があったのではないでしょうか。
それらの壁を乗り越えられたのは、釋先生や谷口さんをはじめ、集まったスタッフの方々の強い意志と数多の知恵があったからこそです。そして、その根底にあったのは寺院が持つコミュニティ、つまりは仏さまのご縁でした。日髙さん、ありがとうございました。(終)
むつみ庵についてはこちら(公式ホームページ)もご覧ください。
<インタビューを最初から読む>
むちゃくちゃ急な階段があるグループホームのお話。
日髙 明さん
地域で見守るグループホーム
ーー 一般的な施設だと扉を施錠していますが、それはされてないのでしょうか?
日髙 明さん(以下、日髙):基本的には施錠はしていません。ですがその分注意をしておかないと入居者さんが失踪してしまいます。ただ、そうしたトラブルを地域の方に助けていただくこともありますね。
例えば、帰宅願望の強い入居者さんが「出ていく」と何度も外に出ようとすることがあります。もちろん私たちは静止するのですが、本人から「警察を呼ぶよ!」と脅されるくらい関係がピリピリすることもあるんですね。すると、近くに住んでいる方が寄ってきて、入居者さんをなだめたり、説得してくれます。誰か別の方が入ることで場の雰囲気が変わり、本人もすんなりと施設へ戻ってくれるんです。
ーーご近所の方からもご理解を頂いているようですね。
日髙:ここにグループホームがあることは皆さん知っておられますし、散歩の途中で挨拶も頻繁にしますし、そこは田舎ならではの関係性があるのだと思います。
あとは、寺院が運営しているということも理解につながっているのではないでしょうか。お寺へお参りに行った時も、ご近所の方とお会いしますから。
ーー多くのご縁に支えられているむつみ庵さんですが、ここからは各業種の連携についてお尋ね出来ればと思います。まず、医療の方々とはどのように連携されているのでしょうか?
日髙:医療面では、歯科医と内科医の方による定期検診、訪問看護ステーションによる週1回のサービス提供です。定期検診で対応できないものは病院に行って問診を受けています。
訪問看護ステーションはもともと契約をしていませんでしたが、数年前に看取りを行ったときに医療ケアが必要だと考え追加契約しました。
ーー近くに保育園もありますが、保育園との連携もされているのでしょうか?
日髙:近くには保育園と児童館がありますが、今の時点では具体的な連携はまだ出来ていません。ですが、今後は検討しても良いかもしれませんね。国全体の方針として、地域全体でのケアが必要とされてきていますし、何よりおじいちゃんおばあちゃんは子どもたちが来るとすごく喜びますから。
むつみ庵に安置されているお仏壇
お仏壇の前で
ーーなんといいますか、地域で見守っているグループホームなのですね。数年前に、看取りをご経験されたとのことですが、どのような様子でしたか?
日髙:先ほど申しあげたような、食欲が落ちてきたとか立てなくなったといった細かな変化がどんどん続いて、状態が悪くなると内科医の先生に診てもらいます。その先生があとどれくらいなのかを判断された後、看取りの体制に入っていきます。
ただ、そのような状態でもできる限りは食堂や居間で過ごしていただいてますが、座っている状態も辛くなるとベッド生活になります。そして、だんだんと死期が近づいてきたら訪問看護の方に随時来ていただき、看取っていきます。大抵、水分が摂れなくなった日の2〜3日後に亡くなられますね。
ーーその後、葬儀をこちらでされることも?
日髙:そうですね。看取り自体がめったにありませんが、2012年頃に亡くなられた方はこちらで葬儀を行いました。本人がここを自宅だと思っており、かつ、お仏壇もあったので出来たことですね。
ーーお仏壇があるグループホーム…まさにお寺が運営する施設ですね。お仏壇があることで、他にはどんな違いが生まれますか?
日髙:一般の施設ではレクリエーションや散歩といった気持ちのリフレッシュはあっても、日常とは違った神聖な空間に立ち入ることはあまりないと思います。
ですが、お仏壇という仏教的な空間が持つ力は確かにあります。自身の息子さんの顔も判別できない認知症の入居者さんが、お仏壇の前で熱心にお勤めする姿を見ると、仏教が持つ文化的な力は認知症の高齢者の方にも響くんだなと思いますね。
合掌や礼拝という身体に染み込む習慣は記憶に残りやすいですし、お勤め自体はすぐに忘れてしまっても、心は落ち着いておられます。
グループホームはあくまでも公共施設ですのでお仏壇の設置には一工夫要りますが、それでも絶対にあると良いと思います。
ーーお寺のグループホームがどんどん拡大すると良いですね。最後に、お寺がグループホームを開設するにあたってのアドバイスを教えて下さい!
日髙:まず、設備に関しては火災の予防が一番大変です。2013年に発生した長崎県のグループホームの火災を受けて、スプリンクラーの設置が義務付けられています。古民家を活用する場合、改修は避けて通れませんね。
また、グループホームは公共施設ですので、普段は御簾をかけるなどしてお仏壇を隠す必要があります。儀礼のときだけ開くという運用が求められますね。
組織に関しては、宗教法人で運営するよりもNPOを設立するほうがやりやすいです。スタッフは、寺院の持つネットワークを活用すると効率的です。一人で進めるのは大変なので、介護の事情に詳しい協力者を探して、一緒に進めていくと良いのではないでしょうか。
つい、「おじゃまします」と言って立ち入ってしまったむつみ庵。見かけや雰囲気こそ「昔ながらの家」ですが、そこはきちんと認可の下りたグループホームです。
古民家を活用したグループホームは、日本はおろか世界で見ても例がほとんど無く、その設立や運営には多くの壁があったのではないでしょうか。
それらの壁を乗り越えられたのは、釋先生や谷口さんをはじめ、集まったスタッフの方々の強い意志と数多の知恵があったからこそです。そして、その根底にあったのは寺院が持つコミュニティ、つまりは仏さまのご縁でした。日髙さん、ありがとうございました。(終)
むつみ庵についてはこちら(公式ホームページ)もご覧ください。