「市長をやりませんか?」課題解決型ではない、鯖江の未来を創るまちづくりコンテスト


夕方のニュースを見ていると、空き家問題や若者への伝統の継承を促す「まちづくり」や「地域活性化」の様子が取り上げられている。
そんなニュースを見ながら「私の町はどうだろう?」とふと、考える⋯⋯。
 
人口減少、高齢化、若者がいない、空き家など課題が山積みだといわれる地域。そんな、暗い印象をもつような言葉で、楽しく、ワクワクしながら街について、考えられるだろうか。
 
福井県鯖江市では、「市長をやりませんか?」という驚きのキャッチコピーのもと「鯖江市地域活性化プランコンテスト」を開催し、毎年全国から鯖江に学生たちが集まっています。今回はその取り組みの立役者でもある、特定非営利活動法人 エル・コミュニティの代表、竹部美樹(たけべ みき)さんにお話を伺いました。
 
若者が提案する地域活性化のプロジェクトを支援し、地域の活性化に寄与することを目的に2012年に設立されたNPO法人エル・コミュニティでは、若者とまちをつなぐ企画がもりだくさん。インタビュー第1回では、鯖江市地域活性化プランコンテストについておたずねします。
 

<竹部 美樹さん>
NPO法人エル・コミュニティ代表
東京のITベンチャー企業で働いた後、2008年より鯖江市地域活性化プランコンテストを開催。2010年より地元鯖江に戻り、地域を担う人材を育成するとともに、若者が活躍するフィールドを鯖江に作るべく地元学生と共に活動。
2015年からはSAPジャパン等賛同企業の支援を受けながら、ITものづくりの拠点「Hana道場」を運営。鯖江、日本、そして世界で活躍するITものづくりの担い手育成と、伝統の“ものづくり”と“最先端のIT”を掛けあわせ、イノベーションを起こす場所を創造中。
 
鯖江の若者に知ってほしかったこと
 
ーー「市長をやりませんか?」というキャッチフレーズは非常にインパクトがありますよね!鯖江モデルと呼ばれる、まちづくりについて教えてください。
 
竹部美樹さん(以下、竹部):最初は単純に鯖江を何とかしたい、と思っていました。そこで、鯖江が望んでいることや、自分ができることを掛け合わせたのが、「鯖江市地域活性化プランコンテスト」でした。プランコンテストの参加者は全国から募集し、実際に鯖江に来てもらい、様々なまちづくりのプランを考えてもらいます。
 
この企画では、全国の学生に鯖江を知ってもらうことも大事ですが、地元の学生に、全国各地の学生が実費で鯖江まで来て、鯖江のために一生懸命プランを考えている人がいるんだ!アクティブな学生がいるんだ!ということを知ってほしいと思ったんです。
 

鯖江では、大人も学生も、そんなアクティブな学生たちがいることを知りません。
正直に言えば、私も、学生というと、やる気がなくて、なんとなくバイトして、街や社会のことにも特に興味がないだろうというイメージでした。
 
しかし東京で働いている時に、ビジネスプランコンテスト等に出ている学生に沢山出会い、印象が変わりました。
本気で「世界を変えるんだ!そのためにこのビジネスを起こすんだ!」と、語る学生たちを見て、感動しました。「あぁ、こういう学生が日本を変えていくんだな」と。そんな学生たちの姿を福井の人にも見てほしい、知ってほしいと思ったんですよね。
 
最初、このプランコンテストの提案をした時は、交通費も出ないのに鯖江のために来てくれる学生がいるの?と街の人に言われましたが、蓋を開けてみるとたくさんのエントリーがありました。スタッフ集めも、鯖江の学生にたくさん声をかけて集めましたね(笑)
 
エントリーしてくれた学生たちは事前に鯖江に来て、自分たちだけで街の人にヒアリングに行ったりしていました。そして、最後にレベルの高いプレゼンテーションもやってみせてくれました。
その様子を見ていたスタッフである鯖江の学生たちが、「この人たち大学生ですか!?すごい!!」と驚いていましたね。
 
そして、鯖江の学生が刺激を受けて、今度は自分たちも何かやりたい!と、「学生団体with」を立ち上げることになりました。今は、学生と一緒に地域活動をやっています。
 

 
面白くなくなった時が変革の時
 
ーー今年で13回目ですが、長く開催される間に変化はありましたか?
 
竹部:毎年開催するうちに、学生たちが変わってきてました。みんな、すごくいい学生ですが、悪く言うと面白くない(笑)。なんとなくですが、ぼやっとしてるんですよ。世の中を変えたいとか、仲良くしたいとか、全ての人たちが幸せであってほしいとか、すごい抽象的でした。
「⋯⋯だからどうすんの?」と思うことも多かったです。
 
国も学校も「地域活性」「地方創生」をさかんに掲げているので、興味を持つ学生が増えています。けれど、大人が言ったことをそのままやっていても世の中は何も変わらないと思っています。厳しい表現ですが⋯⋯。
 
それよりも、せっかく遠くからこの鯖江に来ているので、もっと地域の人に切り込んで「全然駄目ですよ!」とか「みんな、やる気あるんですか?」とか、そういうのをズバッと言ってほしい。「それを実現させるためにはこんな事をやっていたらだめ!だからこうしましょう!」と提案してほしいんです。若者にしかできない発想を求めているんですよ。
 
ーー「ドバイで気づいた『ゼロスタート』のまちづくり」でもそういったことを書かれていましたね。あの記事には驚きました。学生が地域の課題に寄りすぎてるというか、大人たちを気にしすぎているというか。
 
竹部:その姿勢は、決して悪くはないんです。ただ、地域プランコンテストでいうと本当に面白くなくなっちゃったんで、第10回でやめようと思っていて……。
私自身が面白いと思わなかったし、やる気もなくなってきたので「やめる!」って言っていたんですよ。
 

ーーそれは!?スタッフさんもきっと驚かれたでしょう。
 
竹部:私が必死でやっているので、学生スタッフは私がそんなことを言うと思っていなかったようで、驚いていましたね。
 
いまは、運営のほとんどを地元の学生がやってくれています。
地元の学生はコンテストを通じて、京都・大阪や東京から来る優秀な学生に刺激を毎回受け、自分たちが自主的に活動するようにもなっています。
そういったコミュニティがせっかくあるのに、それを私の判断で止めるのはだめだ!とも思いました。
そこで、学生としっかりと話し合い、私の考えもちゃんと伝えた結果「じゃあ、これまでのはぶっ壊そう!ゼロベースから考え直してみよう!」となりました。
 
ゼロベースといっても勿論、キャッチコピーなど今までと同じところもあります。
新しくひらめいたのは、「地元の高校生を仲間に入れること」や、「課題解決型から未来創造型」ということをはっきりと伝える、ということでした。
 
地域の課題を作ったのは、大人たち。解決は若者にでいいの!?
 
ーー課題解決型から未来創造型とは具体的にはどういうことですか?
 
竹部:これまでも「あなたは鯖江市の市長です。鯖江をどのような街にしたいですか?」を学生に投げかけてたんですよ。当初からテーマはずっと同じでしたが、面白くなくなった原因を考えると、出てくるプランが「課題解決型」ばかりだと気がつきました。
みんな本当にいい学生なので、いろんな人に話を聞きに行ったりします。
そうすると、その人たちが困っていることを聞いて学生がその問題を解決するためのプランを作り始めていったんです。
 
一見、それは課題解決ができるから良いように思えますが、飛躍をしないんですよね。大人が考えるような、当たり前のようなプランばかり出てきてしまっていたんです。
 
ーー「課題解決」は、良いように聞こえますが実際は違うんですね。
 

竹部:そもそも地域課題は誰がつくったのでしょうか?若者ですか?
 
若者は関係ないじゃないですか。
 
商店街が衰退したのも、空き家がたくさんあるのも、高齢化率が上がっているのも、大人の政策の失敗で、若者は関係ありませんよね。
 
それを今、若者に解決しろ!って大学も国も様々なところがやらせている。
 
幼い子どもって葉っぱ一枚でいろんなことを想像して遊ぶじゃないですか。
私自身、幼い時に親の働いている電器店が誠照寺(福井県鯖江市にある、真宗誠照寺派の本山)の近くにあって、境内でよく遊んでいたんです。お寺って石とか草くらいしかないじゃないですか。それでも、それだけでもずっと遊んでたんですよね。
自分で世界を作って遊んで楽しんでいた。それが、だんだん大人になるにつれてやらなくなるし、できなくなる。
 
結局、受験のための勉強をずっとさせられて、ずっとずっとインプットだけなんですよね。そういう勉強だと、自分で創造・想像することが全然できなくなる。
 
そこが日本の教育の問題だと思い、「課題解決型ではなくて、未来創造型」と言い切りました。もともと課題解決型を目指していたわけではないですけど、改めて言い切った方が、そのプランを出さなきゃいけない!と思考も変化しますよね。
 
未来を作るコンテストにしよう!大人が作った課題や勝手なことはどうでもいい!そんなこと考えなくていい!自分たちがどういう街に住みたいのか?どういう未来をつくりたいのか?と、全部ゼロスタートにしました。
 
このコンテストから世の中に問題提起じゃないですけど⋯⋯。
せめてこのプランコンテストに参加する高校生・大学生には自分たちで未来を想像してほしいなぁと思っています。
 

 
ーーまちづくりから、教育的な側面も感じられました。
 
竹部:そうですね。高校生を入れたことによって、大学生だけの団体だった「with」の活動に継続的に参加してくれる学生が出てきました。
 

ーー印象的なプランはありましたか?
 
第1回の時に出された「さばえ・めがねギネス」というプランでしょうか。2011年にめがねを、2万2千個以上集めて、めがねを2011 メートルにつなげる世界記録に挑戦して、見事達成したんです。2011年にやったので、「2011メートル」ですね。
 
提案した学生が鯖江の人にもう一度、眼鏡に対する誇りをもってほしいのと、ギネス世界記録はインパクトがあるので、「鯖江は眼鏡だ!」ということを世界中に発信しようという。この二つの目的でやったんですけど、それは当たりましたよね「やっぱり、めがねは鯖江」って!
 
大人の本気が伝わる。市長が本気のまちづくり
 
ーープランから実行へ移すのはとても大変だったと思うのですが、実現できるのはやはり、全国からやる気のある学生たちが集まっているからですか?
 
竹部:市長が本気だからじゃないでしょうか。市長をはじめ審査員が本気なので、本気と本気でぶつかると、見ている方も、「本当にこれ実現する気のプランだ」っていうやる気が伝わるんですよね。私もそのつもりでやってますしね!
 
それは、役所の方にも伝わっていると思います。最初は多分、義務感でやっていたかもしれませんが、現場を担当した方々は毎回、学生の熱量に巻き込まれてハマっていきますね 。
それに、鯖江の商店街の方たちも実行委員として最初から面白がって関わってくれています。
 
あと、やはり核となる人がいるという事がとても重要だと思います。
私自身が、誰よりも本気です。一年中このコンテストについて考えています。そんな人は他にいないんじゃないでしょうか。
 

ちょっと不便だけど、お寺が醸し出す美しさ
 
ーープランコンテストの会場は、真宗誠照寺派の本山・誠照寺さまですが、何かきっかけがあったのですか?
 
竹部:最初は、寺町の商店街の方に「学生をどこに泊めたらいいですかね?」と相談に行ったら、その方がたまたまお寺の檀家(門徒)さんで、「ご本山でやったらどう?頼んであげるよ」と言ってくれて、そこからでしょうか。
 
実は、誠照寺のお上(誠照寺派の御法主/住職)は私の同級生なので、身近な感じがしていたんです。私が小学生のときも境内でよく遊んでましたしね。本山なので、一般的に考えるとすごい格式が高いですけど、私からすると、いつも遊びに行ってたお寺みたいな感じだったんです。
それと、祖父が亡くなった時にご本山で葬儀をつとめてもらったんです。祖父はお寺の斜め前に電器店を構えていて、交流も深かったようです。当時でも本山での葬儀は珍しかったと聞いています。
 
ーーそんな繋がりがあったんですね!コンテスト会場がお寺でよかったことはありますか?
 
竹部:めちゃくちゃ美しい。写真が全然違う。
 
ただ、運営がめちゃくちゃ大変です。暑いし、椅子を並べてスクリーンとプロジェクターを用意して、全部自分たちでやらないといけないです。
普通のホールであったら色々と揃っているので楽ですが⋯⋯それでもお寺がいいですね。
 
何より、来てくれる方たちがすごく感動してくださいます。「すごく美しい!」「お寺でやるって良いね!」と言われます。
休憩時間や審査中とか待ち時間が長いのですが、皆さんお寺の境内や外で涼みながらお話しをされたりしています。もう⋯⋯空気が違いますよ。
それをお寺さんにももっと知ってほしいですけどね(笑)
 
それに鯖江も誠照寺、ご本山から発展してきたという、歴史も知ってもらえます。そういった意味でも、お寺での開催はインパクトも違うし、みんなの意識も変わってくると思います。
 
ーーお寺でやることとホールでやることの違いってありますか?
 
竹部:荘厳な雰囲気があるので、そこで発表するとなると、発表者はとても緊張しますね。一般的な会場で行うのとはまるで重みが違います。
 

ーー
 
鯖江を活性化させたキーパーソン、竹部さんからまちづくりだけではなく、教育の視点も聞かせていただきました。
また、お寺の荘厳さや美しさだけではなく、鯖江の文化・歴史を知っていただいたり、感じていただくためにお寺を会場にすることは、大切な視点だと教わりました。
 
参加された方が、休憩時間に縁側で休んだり、庭を眺めたりする光景が、思い浮かびます。歴史書や観光ガイドを読むだけではなく、鯖江の街の中心にあるお寺からの風景や建物、雰囲気を感じることで、街とお寺の歴史・文化が味わえるのかもしれません。
 
次回は、NPO法人エル・コミュニティの、IT×ものづくりを進めている「Hana道場」についてです。IT×ものづくりが、まちの活性化に一役も二役もかっているようです!
 
<インタビューの続きを読む>
地域の大人が先生。地産地消・循環型のIT教育
 
掲載日: 2020.10.02