地域の大人が先生。地産地消・循環型のIT教育

NPO法人エル・コミュニティ竹部美樹さんへのインタビュー第2回。
地域活性化のための企画を支援し、若者の地域活動への参加を促進して地域の活性化に寄与することを目的に2012年に設立されたNPO法人 エル・コミュニティでは、若者とまちをつなぐ企画が盛りだくさんです。
 
鯖江発のこどもパソコンだけではなく・3Dプリンターやレーザーカッターなど、「ものづくり」のための機材を揃えている「Hana道場」
インタビュー第2回は、4歳〜72歳の幅広い世代が通うITものづくり道場の「Hana道場」について、NPO法人 エル・コミュニティ代表の竹部 美樹さんにお話を聞かせていただきます。眼鏡、繊維、漆器を三大地場産業とするものづくりや、オープンデータをはじめとしたIT技術の導入などが積極的な鯖江の街での活動はどのようなものなのでしょうか?

 
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「市長をやりませんか?」課題解決型ではない、鯖江の未来を創るまちづくりコンテスト
 
Hana道場ってどんなところ?
 

(Hana道場WEBサイトより)
 
ーーITとものづくりということですが、Hana道場について教えてください。
 
竹部美樹さん(以下、竹部):まず、鯖江市が ITの推進にとても力を入れています。
オープンデータなど、鯖江のITを牽引している株式会社jig.jpの取締役会長である福野 泰介さんを通して、SAPジャパン株式会社 という、コンピュータソフトウェアの開発販売や教育など地域に対して長期的な視野で取り組みをされている会社の方と知り合いました。その際、地域プランコンテスト(前回記事)のこともお話をさせていただき、こっちもおもしろいね!と言ってくださり、協賛してもらいました。
 
それをきっかけにSAPジャパンの方が何度か鯖江に来てくれました。そんな中、福野さんが、「IchigoJam」(イチゴジャム)という、手のひらにのせられる大きさの、プログラミング専用のこども向けパソコンを開発されました。
 

SAPさんがそれを見て、「凄い事やってるんだからちゃんとプログラム化した方がいいですよ。支援するのでやりましょうよ!」と言ってくださったので、これをプログラム化しました。
そして、今度は発信拠点も作りましょう!となり、この「Hana道場」をSAPさんのご支援のもとで作ったんです。
 
地域の大人が先生。地産地消・循環型の教育の仕組み
 
ーー4歳から74歳まで通うのはすごいですね。ITが本当に盛んなんだと感じました。
 
竹部:いろんな世代の方が来れる場所を作りたい、と最初から考えていました。
そのために、街中にあるこの場所を借りて、主に子どもたちにプログラミングの教育をしています。
 
(Hana道場のある建物)
 
そんな感じでいろいろ進めていると、鯖江の行政の方が「せっかく、鯖江で生まれた“IchigoJam”を学校でもやろう!」と声をかけてくれたので、プログラミングクラブという形で、全ての小中学校でプログラミングができる機会も作りました。
 
ーーすべての学校でですか!それはすごい。先生は竹部さんとスタッフの方で?
 
竹部:いえいえ!そうなると、教える先生が足りなくなりますよね。なので、私たちが先生を育成するようになりました。育成後は、学校に行って子どもたちに教えられる仕組みも作りました。
 
「地産地消・循環型」と言っています。地域の中で教える人材もつくり、その人が学校に出向いて、子どもに教える。給与や受講料という形で、お金も地域で回せます。
 
そこに、KDDIさんも地方創生をやっていきたいと考えておられたので、この仕組みに興味を持ってくれました。今は業務提携を結んでいます。
 
子どもたちに教えるだけではなく、民間で教える側の人材も育成していく。その人たちが各学校に教える人材として、学校にも出向いていく。地域の大人が先生なんです。
今では鯖江の全小学4年生に総合学習としてプログラミングを教えています。
 

ーーみなさんの受講料や給与はどうされているのでしょうか?
 
竹部:うちで受講する場合は受講料を頂いています。
大人の場合、うちで受講されて、一定の基準に至った方はその後、学校に教えに行ってもらっています。学校に行って教える場合は、市の事業となるので、市の税金でお給料をお支払いしています。市からの委託業務という形ですね。
 
ーーなるほど⋯⋯。でもどうしてスムーズに業務委託が進められているのでしょうか?
 
竹部:鯖江市では平成23年から「市民主役条例」が定められており、主体はあくまで市民なんです。自分たちの街は自分たちがつくる。
鯖江市では、市民主役のまちづくりを進めています。だからこそ、こういった業務委託が上手く成立しているのだと思います。
 
ーー前回からのお話でもそうですが、市長さんをはじめ、市民の方のパワーがすごいですが、鯖江の長所ってなんだと思いますか?
 
竹部:行政も民間もスピードが速いことでしょうか。あとは、税金に頼るのではなく、自分たちでちゃんと稼ぐという意識を持った人たちが多いです。
 
そして、先ほどもお話しした市民主役条例ですね。その条例を遂行していくための鯖江市民主役条例推進委員会という市民の方々で構成されている団体もあります。
 
そこでも「自分たちでなんとかやってかなきゃいけないよね!」「行政に頼ってちゃだめだよね!」ってみんな言っています。私もその方たちに影響されてると思いますね。みんなで何とかしていこう!という意識を持った人たちが多いんです。
 
鯖江に来たら、学生も企業も新しい何かを一緒に挑戦できる
 
ーー昔からそうなんでしょうか?
 
竹部:ここは眼鏡の街として有名ですが、他にも繊維、漆器を三大地場産業とするものづくりが盛んです。
鯖江には、中小企業がたくさんあり、社長が一番多いところとも言われています。つまり、様々な問題を自分ごととして考えられる人が多いということなんです。
社長さんたちは時代の流れや、街がどうなってるかが、密接に自分の商売と関係してきます。そういう意味で、自分ごととして考えて動くようになりますよね。私もそうだし、私の父もそうです。
 

ーー多数の企業のロゴが壁にかかっていますが、パートナー企業はHana道場やプランコンテストのどういうところに賛同されたと思われますか?
 
竹部:課題に真剣に向き合って、且つそれを私たちではなく、優秀な学生や地元の学生たちに、遠慮なく考えさせて、実行しているのがすごいと言われたことありますね。
 
それと、大人が本気で向き合っていることも響いていると思います。
三保の松原でも同じようにコンテストがありましたが、その時に私が学生と議論している様子をインテルの副社長がたまたま見られて感動されていた、と聞きしました。
大人が学生に向かって、意見をぶつけたり、議論できるのは、本当に地域を良くしようと思っているからこそ、できる!と。
 
何より、みんなが鯖江に可能性を感じてくれています。一緒に新しいものを作れるかもしれない、という期待はあると思うんですよ。実験場ですね。
お金はないけど、実験場として使ってください。私たちも動きます、というスタンスですかね。
 

 
竹部さんの街への本気が、多くの企業の方の心を動かし、鯖江の発展につながっています。鯖江市の方たちが主体的に関わり、自分たちの街を自分たちでなんとかしよう!という雰囲気が、街や行政をも動かしているのかもしれません。
 
次回は、鯖江に限らず地域が大切にしていくべきこと。何を見据えて未来を考えていかなくてはならないかをお聞きします。

 
<インタビューの続きを読む>
「そこにしかないもの」こそが根幹になる。歴史と文化、経済の融合へ
 

<竹部 美樹さん>
NPO法人エル・コミュニティ代表
東京のITベンチャー企業で働いた後、2008年より鯖江市地域活性化プランコンテストを開催。2010年より地元鯖江に戻り、地域を担う人材を育成するとともに、若者が活躍するフィールドを鯖江に作るべく地元学生と共に活動。
2015年からはSAPジャパン等賛同企業の支援を受けながら、ITものづくりの拠点「Hana道場」を運営。鯖江、日本、そして世界で活躍するITものづくりの担い手育成と、伝統の“ものづくり”と“最先端のIT”を掛けあわせ、イノベーションを起こす場所を創造中。

   

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掲載日: 2020.10.07

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