お葬式って何だろう。そんな疑問から始まったNPO|NPO法人 葬送を考える市民の会

お葬式って何なんだろう?
遺族が本当に悲しめる場じゃないの?
そんな疑問から始まったNPOが北海道にあります。
 
「葬送を考える市民の会」は生と死・葬送に関するさまざまな問題について関心を持つ市民が集まり、「納得のいく送り方・送られ方」を学習し、慣習や習俗にとらわれない故人と送る人の思いを大切にした旅立ちの実現をめざして活動する認定NPO法人です。
その成り立ちや取り組みについて、代表理事を務められる澤知里(さわ・ちさと)さんからお話をお聞きしました。
(「葬送を考える市民の会」ホームページはこちら
 
友人とのおしゃべり。祖父の葬儀。そこからスタートした「葬送を考える市民の会」。
 
――この「葬送を考える市民の会」を立ち上げられた経緯からお教えいただけますでしょうか?
 
澤知里さん(以下:澤):「葬送を考える市民の会」の立ち上げ自体は1997年です。私や友人達が、30代、40代だった頃、親の葬儀とかお墓のこととかを話す機会があったんです。私はその2年くらい前に祖父を亡くしました。
 
――1995年くらいでしょうか?
 
澤:そうですね。私が小さいころに亡くなった祖母の葬儀は全部祖父が仕切っていたのですが、祖父が亡くなったときには、何もわからない母と妹と私でやらなければならなくて大変だったんです。
お坊さんがお経をあげていても全然聞いてなくって、後ろを振り向きながら○○さんの顔が見えないけれど連絡しただろうか、△△さんが来ているから今晩泊まる布団がいるなとかそんなことばかり気をとられて、全然悲しむ余裕もありませんでした。
 
祖父は商売をしていたので、参列者の方も4~500人いらしたし、費用もかなりかかりました。それがたった二時間ぐらいの打ち合わせの中でバタバタと内容が決められていくのがとても嫌でした。しばらくしてから、「事前に葬儀のやり方や喪主がしなければいけないことを知って、できることは準備しておくことはできないのだろうか」と思ったんです。
 
他にも葬送に関することに疑問とか不満とかを持った仲間がいたので10名くらいで勉強会を始めました。
 
――なるほど。お祖父様のお葬儀が最初にあって、その後にご友人達と勉強会を始められた、という事ですね。
 
澤:とにかく、悲しむ時間がありませんでした。お通夜葬儀全部終わったあとに、実家に帰ってお茶を飲みながら。祖父のことを思い出してそのときにはじめて涙が出てきたんですよね。この三日、四日バタバタしていたのはなんだったんだろうと思いました。
お葬式って何だろう、遺族が本当に悲しめる場じゃないの?って。
 

(旅立ちの衣装ファッションショーの様子)

 
最初に話を聞いたのはお坊さん
 
――勉強会は定期的に続けられたんですか?
 
澤:そうですね、一か月か二か月に一度、行いました。最初、お坊さんの話を聞いたんですよ。
「皆さん坊さん呼ぶのが当たり前と思っているけれども、別に宗教を信仰していなければ宗教者を呼ばなくってもいいんだよ」「仏教ではこうしないといけないんじゃないかと思い込んでいる部分がたくさんあると思うけど、葬儀社さんが決めたこととか、昔からの慣習とか、そういうことがすごくいっぱいあって、仏教はわりと自由なんだよ」っていうことを教えてくださったんです。
 
――はじめにお会いされたのが別の方だったら、またモチベーションも変わったかもしれませんね。
 
澤:そうですよね。「こうしなければダメ」みたいな方だったらちょっと違ったかもしれません。
そうして、2回目に今度は葬儀社さんに来てもらってお話を聞いたんです。「本当はじっくりと話をして、喪主さんの方からこういう葬儀にしたいと言われたらそれを用意して行くのがベストなんだけれども」と、いろいろ話してくれました。
 
――葬儀社の方からお話を聞かせていただいたあとは、どのようにして展開されたんですか?
 
澤:地元の北海道新聞社さんが「一般市民が葬儀の勉強会をしている」と大きく記事にしてくれたんです。それで「そういう勉強会をしているなら入りたい」「自分も常々葬儀に疑問を持っていた」「悩んでいる」そういう問い合わせが北海道中から殺到しました。
 
私達は勉強会でいろんなお話を聞いてストンと腑に落ちました。けれども、一般の方は知らないことはいっぱいあるよね、ということで、会費制にして皆さんに情報提供していこうと、その次の年に会を作ったんです。
 

(初期の会報と議案書)

 
――その頃は葬送に関するテーマの勉強会だったんですか?
 
澤:最初は葬送に関することでしたが、事前に考えるなら遺言も必要だから遺言の書き方講座とか、公正証書遺言はどんなものだとか、ほかの専門家の方にも講師をお願いしていろいろな講座を始めました。宗教講座では仏教だけではなくキリスト教も知りたいということで、牧師さんにも関わっていただきました。
 
――多くの方によいご縁を頂いている印象がありますが、これも澤さんをはじめとする皆さんの人徳かもしれませんね。今、「葬送を考える市民の会」の規模はどのくらいなのでしょうか?
 
澤:今会員さんは400人くらいです。本州にも何人かいらっしゃいますね。情報だけを求めて会員になられる方もいらっしゃいます。出入り自由なので、通算ではもう数千人になると思います。
 
――そうですか。やはり、多くの方に必要とされる活動なんですね。
 

<編集後記>

 
前に生ずるものは後を導き、後に去かんものは前を訪ひ、連続無窮にして願はくは休止せざらしめんと欲す。(「安楽集」『浄土真宗聖典 七祖篇』185頁)
 
誰もが誰かを見送り、そして誰かに見送られていきます。
それはひとりで亡くなる方も例外ではありません。
澤さんのような活動をされている方や、警察の方、役所の方、葬儀社の方、火葬師の方など、さまざまな方の関わりの中で見送られていきます。
ですがわたしたちは、そうしたことを当たり前のことのように思いすぎて、少し無防備が過ぎるのかもしれません。
事前に少しでも知っておけば。少しでも準備しておけば。
後悔を、してしまう前に。
 
「葬送を考える市民の会」
人生の最期の時間を大切にするために始めた勉強会が、今では認定NPO法人として多くの人たちを支えています。
 
<インタビューのつづきはこちら>
第2回「大切な人を送る人への支援を考える」

   

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掲載日: 2020.12.02

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