僧職図鑑06ー渡邊和憲(わたなべかずのり)ー《前編》

僧職図鑑06ー渡邊和憲(わたなべかずのり)ー《前編》

 

僧侶・渡邊和憲さんは、大学院まで理系の道を進み、在学中に企業の※ICT活用をサポートする会社、渡邊コーポレーションを起ち上げた。ICTと仏教の関わり、社長と僧侶の両立など、お話をうかがった。

 

※ICTとは

ICT(Information and Communication Technology)とは「情報通信技術」の略であり、ITとほぼ同義の意味を持つが、コンピューター関連の技術をIT、その技術の活用に着目する場合をICTと、区別して用いる場合もある。日本でも近年ICTがITに代わる言葉として広まりつつある。

―お坊さんでありながら、ICT会社の社長というのはめずらしいですよね。

意外と僧侶がやっているICT関係の会社はいくつかあるんですよ。結構ICT坊主はいます。趣味の域を脱して、ビジネスにしている人は限られるかも知れませんが。

 

―大学時代に起業されたとうかがいました。

大学4回生の時に起業し、登記して会社にしました。

もともと、大学・大学院では物質化学を専攻していました。毎日白衣を着て、いろんな試薬を混ぜたり、反応を見たりとか、いわゆる化学実験をしていました。電子工学・情報工学とか、そんなのは全くといっっていいほどなかったです。

ただ実験をして、それを最終的に分析する機械はコンピューターなんですが、古くて、すぐにトラブルを起こしてたんです。当時は、5インチフロッピーのPCを使っていました。何をするにも基本はコマンド入力。プリントもコマンド入力のものもありました。古いPCは部品取りで保管し、壊れたら差し替えるとか、「(PCが)立ち上がらない!」とか。マシンのトラブルも日常的にありました。

大学入って間もなくWindows98が発売されましたが、大学においてある分析機のPCは、一つ前のWindows95でさえなかったんです。今でこそ、いろんなところにPCルームがありますが、当時の研究環境では一般的ではなかったんですよ。

 

―3~4年でICT関係の環境はまったくちがいますよね。

僕らの理工学部のパソコンルームは、UNIXでした。ウインドウズなんてまったくありませんでしたよ。

そんな中で、古いPCのトラブル解決は、実際に困っている人がいるので、ニーズがあるって気がつきました。PCはこれから世の中に必要になるし、僕自身、PCに触れて、こんなにおもしろいものなんだ、こんなに便利なものを、使える人がふえたら、世の中が変わると思っていました。

ちょうど、国としても「大学発ベンチャー1000社」を打ち出して、ベンチャーを支援し、産業を発展させていこうという時期で、さらに、大学の産学連携の担当者が、母の先輩で、いろいろとお話を聞かせてもらえたことも大きかったですね。

 

―会社の現状は?

会社は、規模でいうと零細企業ですよ。ぼちぼちやっている感じ。ただ、僕の経営方針は、「無理をしない」。会社経営の目的には、収益を上げるというのはもちろんあるんですが、仕事を取りに行くというよりも、望まれて仕事をすることを大事にしたいと思っています。

僕自身が、自ら営業することもありますが、ほとんど今取引のある仕事先から、紹介いただいて、仕事をさせてもらっています。紹介していただいたところの仕事をしっかりと行うという形です。

人とのつながりがベースになっているから、そうやって紹介していただけているんだろうと思います。言葉だけではなく、「ご縁」や「つながり」、本当に、そういうなかで生きていると感じます。

―「ご縁」や「つながり」。仏教につながる心のように思います。

実際に仕事をする上で、一番大事なのものは「人」なんです。大きな設備投資をしたり、大きなデータセンターを1から立ち上げるということなら話は変わってきますが、基本的に、知識と技術さえあれば、パソコン一台で仕事をすることは可能です。だから、やっぱり人が一番大事なんです。

ICTの仕事も、機械相手に仕事をしていると思われることが多いのですが、結局のところ使うのも、作るのも人なんです。人に大きく関わる仕事なんです。自動的になんでもやってくれるものではないので。人間の考えがあって、作る人がいて、扱うのは人間であって、ICTはあくまでも、道具でしかないんです。

 

― 人を大事にされている。人が一番で、ICTは道具。

道具をいかに使うかというのは、ICTの世界でも、必要だと思います。特にICT、ネット、バーチャルな世界は、顔が見えないことが多い。相手の顔が見えないからこそ、そこに携わる人間には、そういうつながりを感じたり、「宗教的情操」とか、「道徳心」といわれるような感覚が絶対に必要なのだと思います。

サイバーテロや、ネット犯罪など、ICTと関わる問題がありますが、そういう感覚の欠如が要因なんだと思います。

 

《後編に続く》

 

掲載日: 2013.07.12