ひとりで旅立つことへの支援、「はっぴいえんど事業」|NPO法人 葬送を考える市民の会③

誰にも看取られることなく、旅立たなければならない人がいます。
誰もが家族を持てるわけではありませんし、死に別れてしまうこともあるでしょう。
そんな危機に対して手をさしのべる支援、認定NPO法人「葬送を考える市民の会」の「はっぴいえんど事業」について、代表理事を務められる澤知里(さわ・ちさと)さんからお話をお聞きしました。
 
インタビュー記事
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第3回(今回)
 
週に2回の連絡で安否を確認する「元気コール」
 
――安否確認の「元気コール」、生活支援契約、任意後見契約、死後事務委任契約の四つの事業からなるこの「はっぴいえんど事業」ですが、まず、この「元気コール」からお話を聞かせてください。これは週2回、契約者さんの方から連絡を頂くことになるんでしょうか?
 
澤知里さん(以下:澤):そうです。契約者さんの方から、「葬送を考える市民の会」の留守番電話に連絡を頂いて、安否確認をしています。
 
たとえば、月曜日に連絡が来るはずなのに連絡が無かった場合、火曜日にこちらから連絡をします。朝から連絡をして、大概その日の夕方や夜には連絡がつきます。
それでも連絡がつかなかったら、その翌日、水曜日に警察と一緒にその方のお宅に入ります。緊急連絡先を登録してある方はその緊急連絡先の方に連絡して、家の中に入ってもらいます。
 
――それは大変ですね。何か印象的なエピソードはありますか?
 
澤:留守番電話に入っていた声がろれつが回らない喋り方なので、変だと感じたスタッフが「すぐ病院に行ってください」と電話をして、本人も変だと感じて病院に行ったところ、軽い脳梗塞だったということがありました。
 
――大事になる前に発見できたのはなによりですね。次は日常生活支援契約についてですが、具体的にはどのような支援をされるのでしょうか?
 
澤:例えば、ケアマネージャーさんが計画を立てるときに、一緒にいて欲しいという依頼が来ることがあります。また、「病院に行ったときに先生の話がよくわからなくて、家に帰ってから困ることがあるので、一緒に行って話を聞いてほしい」ということで、一緒に先生の話を聞き、家に帰ってから一つずつ確認したりもしました。他にも、突然入院した時は家から荷物を運んだり、留守中の郵便物の管理をしたりなども。いずれのケースでも皆さん心強いと言ってくださいます。
 

「はっぴいえんど事業」のパンフレット

 
人を守る、任意後見契約
 
――次に、任意後見契約ですが、こちらは契約に際して何か専門の方が同席される必要があるのでしょうか?
 
澤:任意後見契約は認知症などで判断力が衰えてきたときに、身上監護や財産の保全を行うために、成年後見制度による任意後見を引き受けるものです。後見人自体は専門家でなくても引き受けられますが、その際は後見監督人が必要になります。家庭裁判所に後見監督人の申し立てをすると、大体弁護士さんや司法書士さんが後見監督人になることが多いそうです。そこから後見が始まって、私たちは現場に出ながら、半年に一度、この後見監督人に報告書を提出することになります。
 
――今、どのくらいの方がこの任意後見契約を利用しておられますか?
 
澤:契約されているのは17名ですが、今実際に後見が必要な方はお一人だけです。
 
――17名の方全員が後見を必要になったら大変なのでは?
 
澤:90歳を超えた方もいらっしゃれば、まだ60代の方もいらっしゃいますし、全ての方が認知症になるわけではないので、全員同時に後見が必要になることは無いと思います。
 

事務所の様子

 
人それぞれの、死後事務委任
 
――では最後に死後事務委任契約についてお話を聞かせてください。
 
澤:死後事務委任契約は、契約者の方が亡くなられたときに、遺体の引き取りや葬儀の手配、死後の手続き、遺骨の搬送、遺品整理の手配などを行います。契約の前にまずその方が望む葬儀のための見積もりを葬儀社さんに。遺品整理の見積もりも専門会社に出してもらいます。あとはお墓ですね。どこかに契約してあれば、そのお墓までの搬送費用。そして私たちの人件費の試算をして、それを預託金として預かっています。
 
――預託金というのは、どのくらいになるのでしょうか?
 
澤:例えば葬儀にお金をかけてほしい方だったらその分預かるお金も大きくなります。何もしなくていい、直葬で、住んでいる部屋もワンルームや施設に入っていて物も少ない方だと5,60万でできる方もいます。旅行に行くのが好きで、旅行先で亡くなるかもしれないから心配という方は、私たちが旅行先に遺体を引き取りに行く可能性もあるので、余分にお金を預けていらっしゃいます。平均すると100~150万円くらいの方が多いかと思います。お寺へのお布施を預かっているケースもありますね。預託金は最後に清算をして、残金は相続人へお渡しすることになります。
 
――この死後事務委任もお寺でできることなのかもしれませんね。
 
澤:そうですね。これこそお寺ができることではないかと思います。例えば今までお寺にご縁がなかった方でも、お寺が最後までしてくれるのならご縁を結びたいと思う人が出てくるかもしれませんよね。
 
――預託金が払えない方や、経済的に余裕のない方への支援はどうすればいいのでしょうか?
 
澤:生活保護を受けておられる方は、札幌市の場合、社会福祉協議会が後見を引き受けてくれます。受給者本人がお亡くなりになって、お葬儀などの費用がない場合は20万円くらいが自治体から出ます。問題は、生活保護は受けていないけれど、困窮されている方です。ただ自治体によっていろいろな福祉サービスがあるので、相談をしてみるとよいかと思います。
 
うちの会ではありませんが、今は80代でも入れる死亡保険があるので、それで葬儀費用を用意する方もいると聞いたことがあります。
 
――なるほど。どんな方でも、なんとかできる方法はあるんですね。とても心強いことだと思います。
 

<編集後記>

 
現代日本では誰しも、旅立つときに多くの支援を必要としますが、社会にはそれらの支援を受けられない人たちが必ずいます。
孤独は「悪いこと」ではありません。しかし、それが望まないものであったなら。
「葬送を考える市民の会」はそういった人々へ支援の手をさしのべ続けていますが、その多くは寺院でも可能なものとのことでした。
もしかしたら寺院は、こうした「旅立ちへの支援」に乗り出してもよいのかもしれません。
次回は「はっぴいえんど事業」の成り立ちと、「葬送を考える市民の会」の運営についてお話をお聞きします。
 
<インタビューの続きはこちら>
第4回「人の最期を見送るのは誰の役割か」

   

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掲載日: 2020.12.09

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