「人の最期を見送るのは誰の役割か」|NPO法人 葬送を考える市民の会④
迷惑をかけずに、一人で死を迎える。
現代日本社会において、それは実はとても難しいことです。
「葬送を考える市民の会」の「はっぴいえんど事業」はそうした人々を支えるための支援ですが、逆にその活動によって会が支えられている面もある、とも。
最終回となる今回は、この「はっぴいえんど事業」の成り立ちと、会の運営について、代表理事をつとめられる澤知里(さわ・ちさと)さんより引き続きお話をお聞きします。
インタビュー記事
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第4回(今回)
できるだけ早く発見してあげたいよねという話から始まった安否確認
――4つの事業からなるこの「はっぴいえんど事業」ですが、どの事業から始められたんでしょうか?
澤:最初は安否確認の「元気コール」から始めました。というのは、会員さんがお風呂場で亡くなって、2週間経ってから発見される、ということがあったんです。
私たちも現場に行ったんですけれど、お風呂の中だったのでご遺体が水分を含んでいて大変な様子でした。ご遺族の方も来られたんですが、警察の方に顔見ない方がいいですよって言われる状況だったんです。それで、亡くなってもご遺体が傷む前にできるだけ早く発見してあげたいよねという話になり、3日以内くらいには発見できるような仕組みがあったらいいんじゃないかということで始めたんです。
――なるほど。3日以内に発見してあげたいから、週2回なんですね。
澤:そうです。また、どう連絡を取り合うかを考えたとき、まずこちらから電話をするのはやめようと。なぜなら、会員さんは皆さん真面目なので、電話がかかってくるまでどこにも行かずに待機しているのではないかと思ったからです。それは負担になりますよね。ですから、相手の都合の良い時間にかけていただくことに。でも事務所が開いている時間帯に何人もの人から電話がくるのも大変です。そこで事務所の閉まっている時間、夕方の4時から翌朝の10時の間に、事務所の留守番電話にお名前などいれてもらうことにしました。最初は忘れる方もいますが、朝起きてすぐとか、夜寝る前など習慣となってくるようです。
――安否確認から始められて、その次はどの事業を?
澤:安否確認をしていると、今度は病院行くときについて行ってくれるところはないだろうか、入院しているときに家からモノを持ってきてほしいんだけど頼めないか、そういう相談が出てきたんです。それで、私たちができることは費用を頂いて引き受けていたんですけれど、それも契約事業として行ったほうが良いのではないかということで、日常生活支援として追加の事業を始めました。
背中を押してもらって始めた任意後見契約と死後事務委任契約
――安否確認や相談の中から色々なニーズが見えてきて、それを具体的に事業化されたんですね。次は任意後見契約を始められたんでしょうか?
澤:実は、任意後見契約と死後事務委任契約は、私たちではちょっと無理だと思っていたんです。何年も先になるかもしれないことを引き受けられない、と。そんな時、長野県松本市にある神宮寺のご住職だった高橋卓志さんとご縁ができました。高橋さんが共同代表をされていたNPOは、かなり以前から後見人を引き受けていることは存じ上げていたので、このことについて相談させていただきました。すると、後見人は必要なのに不足しているし、報酬もNPOの運営的に助かるから、絶対やりなさいと言われました。それで、松本に研修に行かせてもらいました。後見の内容や契約書なども細かくアドバイスしていただき、背中を押してもらって任意後見契約と死後事務委任契約事業を始めたんです。
――実際にされてみて、収益としての面は安定しそうですか?
澤:今の「葬送を考える市民の会」の収益的な面でのメインの事業は、この「はっぴいえんど事業」だと思います。
今は講座をしても新型コロナ感染予防のため人数は少ないですし、参加費も500円程度なので、あまり収入にはなりません。『旅立ちノート』というエンディングノートの販売もしていますが波がありますので、「はっぴいえんど事業」の契約者さんが増えていくことが安定につながるのかな、と思っています。
「お寺は私に安心を与えてくれるところ」と感じてもらえなければ
――今後、お寺を継続していく上で、やはり具体的に目の前にいらっしゃるご高齢の方の生活のお役に立っていくという視点は本当に大切になりますね。
澤:それは痛切に思います。一般の方からのご相談を受けていると、お寺は「お葬式の時しか要らない」「お葬式の時すら必要ない」と思っている方が多いことを実感します。檀家の方としか付き合いがないお寺には実感が薄いかもしれませんが。「お寺は私に安心を与えてくれるところ」と感じてもらえなければ続いていかないだろうと思います。
――お寺にも「はっぴいえんど事業」のような事業が求められるかもしれませんね
澤:はい。本当にお寺でやってくれたらいいなと思います。でも、お寺だけでは大変なので、地域のケアマネージャー、司法書士、行政書士、社会福祉士、介護事業所など関係ある職種の方たちと連携し、それぞれが得意な分野で関わっていくほうがスムーズにできるかと。
一般社団でもいいしNPOでもいいし何か組織を作って、そこの中で関わっていくと、お寺の負担はそんなにないと思うんです。お寺が何ヵ寺かで集まって、ちょっと世話焼きな人がコーディネートをしてくれたら安否確認くらいから始められると思います。
――確かにそういう側面はあるかもしれませんね。
自分の最期のことをしてもらえるから
――会を運営していく上で、行政からの助成金や、寄付などは受けておられるのでしょうか?
澤:行政からの助成金などは一切ないです。私たちからも働きかけていませんし、縛られるのがいやだということもあります。
民間団体からは何度も助成金をいただいてきました。ただ、けっこう制限もあるし、金額が多いと報告書も膨大で、作成するのに2~3か月かかることもありました。最近は少し安定してきたので、なるべく自力で行いたいと思っています。
収入は会員さんの入会金と年会費、応援していただいている団体からの賛助会費、寄付金、講座やエンディングノート、そして「はっぴいえんど事業」です。それでぎりぎり赤字にならないくらいでした。
一昨年「はっぴいえんど事業」を契約されていた会員さんが亡くなられて、初めて遺贈をうけました。「自分の最期のことをしてもらえるから安心して死ねる」と生前話されていたんです。昨年も遺贈を受けたんですが、その方は古くからの会員さんで「あなたたちはとても良いことをしているんだよ。だから財産を使ってほしい」と言われていたので、ありがたく頂きました。それで、会の共同墓を民間霊園に建立することができました。共同墓は、基本的におひとりの方(お子さんのいない方、事情のある方)などに利用していただきます。
――最期を見てもらうって、それだけ大きなことなんですよね。ありがとうございました。
<編集後記>
定期的に連絡をして見守ること。日常のちょっとしたことを手伝うこと。その人の人権と財産を最後まで守ること。死後の事務と葬儀を引き受けること。
「葬送を考える市民の会」の「はっぴいえんど事業」は、「死の社会的な看取り」とも言えるものであり、人が安心して旅立つための大切な支えでもあります。
人が安心して旅立つことが出来るようにする活動は、死苦の解消の一部であり、仏教が目指してきた目的の一つとも言えるでしょう。「ぜひお寺さんにして欲しい」という澤さんの言葉が重く響きます。
人の最期を見送るのは、いったい誰の役割なのでしょうか?