スーパーマーケットに隠れていたアイディア。認知症と共に|平井万紀子さんインタビュー①
おばあさんがくれた、娘さんの自然な笑顔。「注文をまちがえる料理店」との出会い
平井:そんな時、クラウドファンディングのサイトで「注文をまちがえる料理店」というものを見つけました。
それを見て、参加したいという気持ちもあったんですが、どちらかというと自分がこれをやりたい!と思ったんですね。
私は勝手に、福祉のイベントは呼び込んでも呼び込んでも人が集まらないっていうイメージを持っていました。でも、「注文をまちがえる料理店」の企画は、1か月以上前でもすでに満席と聞き、とてもすごい!と感動したんです。
そこで、2017年9月に東京での会に中学1年生の娘と参加させてもらいました。
その時、アクシデントが⋯⋯。
道に迷ったことがきっかけで、親子ゲンカしてしまったんです。お店について席に案内された時は私も娘もムスッとした顔で⋯⋯。
そうして2人で沈黙したまま席に座っていると、認知症のおばあさんが注文を取りに来てくれました。娘はその方に、一生懸命に私のコーヒーと自分の分のオレンジジュースを伝えていました。そんなやりとりをしていると、ムスッとしていたのに、いつの間にか娘が笑顔になってきたんです。
その娘の笑顔を見たときに、すごいなって。大人だと愛想笑いをしたり、機嫌が悪くても人に会う時はきちんとできたりするんですけど、子どもって本当に嫌な時は嫌な顔をするし、誰かにへつらうとか、そういうのがないと思うんですよ。それは当時の娘も例外ではなかったはずですが、そんな娘が笑顔になったんです。
まぁいいかcafeの様子
平井:あの場で、私が親として娘を盛り上げようとしたわけでもなく、あの空間とコミュニケーションにそんな力があるんだって。本当にすごいと思いました。
自分でもやってみたい!けど、何をしていいかわからなかった。一人ではできないことを伝えることから始まる。
平井:注文をまちがえる料理店に行かせてもってから、あの空間がすごくあたたかかったことが忘れられず、自分でもやりたいと思っていました。けれどそこから4、5か月が経ってしまいました。
――確かに、一人でイベント始めるってどうしたらいいかわかりませんよね。興味を持っても、次のアクションへはなかなか移せないのが本音だと思います。おそらく、僧侶にもそういった想いを持った人はいると思います。
平井:やりたい!って気持ちはずっとありました。そして2018年の2月に小さくてもやっていこうと一念発起して立ち上げました。でも、おっしゃる通り、誰に言ったらいいのかな、どうしたらいいのかなと悩んでいたんです。今までに知り合ってきた人の中に認知症に関心のある人もいなし、誰に何を、どう言ったらいいのか、一人で考えてもわかりませんでした。
そんなとき紹介してもらった地域包括支援センターの方から、2018年の3月17日に注文をまちがえる料理店発起人の小国 士朗 (おぐに・しろう)さんの「『注文をまちがえる料理店』のつくりかた」という講演会があることを教えてもらいました。参加したその講演会では最後に質問タイムがあって、勇気を振り絞って手をあげました。
「私は、忘れん坊になったお母さんと京都でこの会(注文をまちがえる料理店)をやりたいと思っています。ただ、私は福祉の仕事もしたことがない。ボランティアもしたことがない。地域活動もしたことがない。何もしたことがない。ただ忘れん坊になったお母さんとその娘しかいない。そんな私に知恵と力を貸していただけませんか?」
こう言った時は、誰からも声をかけられなくてもまぁいいか、という気持ちで話し終えたんです。でもそのあとに、20数名の方が「何かあったら手伝うよ」って言ってくださいました。
人生で初めて、そんなふうに声をかけてもらった。それでちゃんとやらないといけない、小さくてもいいからやってみようと思い、友人のお店を1日借りて実施してみました。
――1日店長さんみたいな形としてですね。実施してみていかがでしたか?
平井:その時、大きな蘭の花を送ってくださった方がいました。それは私にとって本当に嬉しいことで。
私のことを全く知らない方が、わざわざお花を送ってくださるなんて、と感動しました。
「人って、同じ人から傷つけられることもあるけど、救われることもあるんだなぁ」と、この活動を通して強く思いましたね。もちろん、花だけじゃなくて、励ましの言葉だったり、ちょっとしたアイディアだったりもいただきました。だからこそ、この活動はちゃんとやっていかないといけないって。そこから自分のスイッチが入った感じはありました。
――活動の結果でなく、作り上げる過程での気づきも沢山あるんですね。
ところで、企画の「注文をまちがえるリストランテ まぁいいかcafe」って大胆な名前ですよね。
平井:「注文をまちがえる料理店※」は、小国士朗さんが発起人です。彼がNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組に関わっていた時に、 和田行男さん(現、代表理事)のされている高齢者の施設に行かれたんですよ。その時にハンバーグを頼んだのに、餃子が来てしまって、そこから彼がその帰り道に宮沢賢治の『注文の多い料理店』のことを思い出したんですって。「注文をまちがえる料理店」って面白いかもしれないって、そこで、一番に声をかけたのが和田さんだったそうです。
※一般社団法人「注文をまちがえる料理店」
(http://www.mistakenorders.com/)
――「注文をまちがえる料理店」は全国各地に広がりを見せていますね。
2018年3月 カモガワラボ(京都市左京区)
2018年5月 ちいろば(京都市伏見区)
2018年5月 ちいろば(京都市伏見区)
2018年6月 キッチンNagomi(京都市下京区)
ホテルグランヴィア京都(京都市下京区)
2018年12月 マールカフェ(京都市下京区)
2019年4月 ハピフルカフェ(京都市伏見区)
2019年5月 マールカフェKYOTO(京都市下京区)
2019年7月 GOCHIOカフェ(京都府宇治市)
2019年8月 Nicoカフェ(京都府宇治市)
2019年9月 大丸京都店(京都市下京区)
2019年10月 クラムボン(奈良市)
2019年11月 イオリカフェ(京都府京田辺市)
平井:延べ、1200名以上の方がまぁいいかcafeに訪れています。その他にも、シンポジウムなどのワークショップを実施されていますよ。
――実施にはカフェとのご縁も大切だと思います。どのようにつながりを持たれているのでしょうか?
平井:紹介してもらうこともありますが、まちまちです。一昨年の6月に開催した下京区のキッチンNagomiさんは、インターネットで探しました。Nagomiさんがされている活動も素晴らしいし、ここだ!と思って連絡をさせていただきました。
――キッチンNagomiの大塚さんは以前取材させていただいたことがあります!
「僧職図鑑12―大塚茜(おおつかあかね)―《前編》」
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最後は、まさかのつながりもあるインタビューとなりました!
お母さまと生活される中で、何かできることがあるはず!とあたためてこられた想いを消さずに、ずっと抱いておられた平井さん。
次回は「『まぁいいか』と思える社会を目指して」と題し、企画への思いやコンセプトをお聞きします。
①スーパーマーケットに隠れていたアイディア。認知症と共に(当記事)
②『まぁいいか』と思える社会を目指して
③企画するってどういうこと?色んな人からのアドバイスで成り立つ