「長いおつきあい」その裏で求められる鍛錬とは|木村共宏さんインタビュー②
己の気持ちを操るための鍛錬
ーーそんな商社の仕事で苦労された経験はありましたか?
木村:質問の主旨とは少し違うかもしれませんが、自分はもともと短気な性格で、おまけに生意気でした。この性格に苦労しました(笑)。仕事を通じて、そんな未熟な僕の欠点を矯正し、人間性を叩き直してもらう、鍛錬の機会をいただいたと思っています。もちろん、仕事においてもプレッシャーで胃が痛くなるような経験も何度もしました。でもそれらが今の自分の糧になっていると思います。
南アフリカ出張の様子(2006年撮影)
ーー人間性を叩き直されたとおっしゃいましたが、どのようなことがおありでしたか?
木村:「三つ子の魂百まで」と言われるように、もともとの性格はそうそう変えられるものではないと思うんです。ですが、性格は変えられなくとも、行動は変えることができます。
「大人になる」ということは、自分の性格との付き合い方を学び、自分というクセのある人間の操り方をおぼえることだと思います。
僕も昔は、よく上司に「お前は全部自分が正しいと思っているだろ」と言われ、堂々と「はい、思ってます」などと生意気に答えていました(笑)。その後、言葉には出さないように少し修正したのですが、今度は「表情に出てる」と言われました(笑)。口に出さずとも、思ってることが全身からメラメラと出てしまい、相手にも伝わってしまうのですね。そこから、何がいけないんだろうか、と考えるようになりました。
自分が思ったことをそのまま言うのは一見近道ですが、それが良い結果を生むかどうかは別問題です。もちろん、正しいと思うことを正面から言うのは、良い方向に向かいたいからではあります。でも、それが相手の反感を買い、結果的に良い方向に進まないなら無意味です。そんなことに気付くようになりました。
正しいことを言うことと、正しく伝えることは違うんですね。より良い結果を生むためには、相手の理解と賛同、つまり共感を得るべきです。そのためには正しいことをただ言うのではなく、傾聴して相手の立場や心情を汲み取り、その上でベストな伝え方をすることだと思います。
長期的な視点で考えた結果、自分が思ったことをただぶつけることは、むしろ遠回りだということを学びました。急がば回れですね。そうやって丁寧なやり取りを通じて、相手が本心から同意してくれると、それが信頼にも繋がっていくと思います。
自分の感情の特性を把握して、なんとかそれなりにコントロール出来るようになったのが、仕事を通じて鍛えてもらった一つの成果ではないかと思います。
ーーそれは自分の度量を広げることと繋がりますよね。
木村:そうですね。短気とか怒りっぽいと言うのはやっぱり度量というか器というか、そういうものが小さいということになると思います。
僕も忙しくなるとストレスに感じることがあります。多少忙しくなったところで心の余裕がなくなってしまうようでは、まだまだ人間としては小さいわけです。ピリピリした雰囲気の人には近づきたくありませんよね。どんな状況でも常に平穏な心を維持できるか、まさに鍛錬です。