ちっぽけな自分に安心する?等身大で話す女性布教使のはなし│田坂亜紀子さんインタビュー
仏教の勉強は仏教だけじゃない
超専寺の風景(写真提供:田坂さん)
――布教使としてのご活動について教えてください。大切にされていることはありますか?
田坂:できるだけ背伸びをしないことでしょうか。多くの方々の前に立ってご法話をする際、「ちょっとでも良い印象を」と背伸びをしてしまいがちです。しかし、仏教をよろこんでいる等身大の自分で話をすることのほうが大事だと思います。
実際素直な気持ちをお話ししていると、私が前に立って話しているというよりも、聞いてくださっている方と会話をしているような感覚になるときがあるんです。すると、話す法話の内容が一緒でも聞く人が違えばまったく違う印象の法話になるんですよ。その瞬間がとても好きなんです。等身大の私のまま、一回一回のご縁を大切にしたいですね。
――布教の難しいところは何だと思われますか?また、工夫されていることはありますか?
田坂:まったく思い通りにならないことですね。言葉のない世界のことを半ば無理やり言葉に表すので、どう頑張っても私の考えや味わいが100%伝わることはないと思っています。その中で私が工夫をしているのは、誰かの表現手法をお借りすることです。世の中には私が思いつかないような表現方法がたくさんあって、自分が表現できないと諦めていたことは、実は誰かがとっくに表現している場合もあるんですよ。
例えば、うたの歌詞やCMのキャッチコピーに驚かされることがありますね。私が表現に困っていた言葉がとても簡潔に、ストレートに書かれていることがよくあるんです。もちろん、その言葉が作られた過程は、たいてい仏教とは何の関係もないものでしょう。だからこそ、仏教の勉強だけでなくたくさんの本や映画や音楽に触れ、またたくさんの人と出会っていく中で得られる知見も大切にする必要があると思っています。
(写真提供:田坂さん)
――これからの僧侶には、どのようなことが必要だと思われますか?
田坂:いろんなお坊さんがいてくださるとありがたいですね。なぜなら、いろんなお坊さんがいらっしゃれば、それだけ伝えられる内容が豊かになるからです。
『戦争は女の顔をしていない』という、第二次世界大戦に従軍していた女性兵士の戦争体験を綴ったノンフィクションの本があります。これまでの歴史の中で「戦争」は多くの場合が男性によって語られてきましたが、この本を通して女性が語ることによって男性目線だけではない戦争の姿が明らかになりました。私がこの本を読んで大切だと感じたのは、いろんな人が一つの物事を語ることで、より物事が立体的になったことです。
浄土真宗でも、同じようなことが言えると思います。性別のみならず、都市部のお坊さんと地方のお坊さん、厳しいお坊さんと優しいお坊さん……いろんなお坊さんがいらっしゃれば、その分、仏教も立体的に、多角的に伝えられるようになります。いろんなお坊さんが登場することで、表現の幅がどんどん拡がれば嬉しいですね。
――ありがとうございました。
編集後記
このところ「生きづらさ」という言葉をよく聞きます。それだけ社会で生きていくのが大変だと感じている人が多いということなのかもしれません。でも、それと同じように「自分らしく」という言葉も聞くような気がします。自分らしく生きることと社会に順応しながら生きることは両立できないのでしょうか……?そんな疑問を抱いたとき、田坂さんのお話がすっと入ってきました。「しんどいな、でもたぶん大丈夫。」と思えたら、少しずつでも自分らしいまま社会で生きていけるようになるのかもしれません。
プロフィール
田坂亜紀子
浄土真宗本願寺派超専寺 衆徒
1982年生まれ。山口県岩国市の限界集落で野山を駆けまわりのびのびと育てられる。大学卒業後、ふらふらと色々経てぼちぼちと僧侶の道を歩み始める。本願寺派布教使、仏前式専門ウェディングプランナー、イラストレーターなどをしている。(仏教伝道協会HP参考)