新卒で僧侶になった釈優希さんが大切にしていることとは|釈優希さん(中村有希さん)インタビュー<後編>

 
大阪府光明寺の釈優希さんこと、中村有希さんへのインタビュー。
後編となる今回は、中村さんがご活動をされている、大阪西成区でのお弁当配りの様子をお伺いしました。インタビュー後半では、様々なご活動をされる中村さんの想いや、僧侶としての生き方についてもお伺いします。
 

 

お弁当配りの活動とは?

 

(画像提供:中村さん)

 
――ご活動の概要を教えて下さい。
 
中村有希さん(以下:中村):月に一度、お弁当を作り、大阪市西成区にいらっしゃる路上生活者に無料でお配りする活動です。2021年8月より始めました。30~40食程度のお弁当を用意し、車で西成まで運び、路上生活をされている方々にお渡ししています。こちらは個人的にやっている活動で、法務の合間に実施しています。
 
――どういったきっかけがあったのでしょうか?
 
中村:大学時代にフィールドワークで西成区へ訪れたことがあり、現地の光景にものすごく衝撃を受けたのがきっかけです。多くの方々が路上で生活されている光景を目の当たりにして、なにかしたいなと突き動かされたんですよね。
 
その後、大学を卒業して周囲は社会人として働くようになりました。でも、卒業後すぐに入寺した私は、なかなか社会人としての自覚や実感が得られなかったんですよね。
「新卒僧侶」という特異性も活かして何か始めたいと思った時に、フィールドワークで見た西成区の光景を思い出し、お弁当配りの活動を始めようと思ったんです。
 
――衝撃を受けられたとのことですが、地域ではどういった光景が広がっているのでしょうか?
 
中村:多くの方が路上に簡易ベッドを敷き、寝ておられます。そこへ、朝の5時ぐらいになると日雇い労働の車が並び、路上生活の方々はそれに乗り込んで主に土木関係の仕事へ行っているそうです。服もボロボロ、裸足の人もいらっしゃいます。
 
――ご活動の中で、工夫をされていることはありますか?
 
中村:お寺や僧侶であることはあえて公表せず、格好も私服で行くようにしています。というのは、結構仲良くなると「君らは宗教団体か?」と聞かれるんですよね。良くも悪くも宗教に対して関心が高いので、トラブルにつながらないよう工夫しています。
 
また、お弁当が足りないと殴り合いや暴動になりかねないので、最初に配るエリアを決めて、そこには何人ぐらいの路上生活者の方がいらっしゃるかをある程度把握した上で、用意するお弁当の数を決めています。でも、これは経験から得られた工夫で、活動を始めた当初はお弁当を巡った路上生活者同士の喧嘩もありました。
 
――確かに、壮絶な光景ですね。
 
中村:そうですね。今は平気ですが、当初は声をかけるのすら怖かったです。地域のコミュニティは新参者に厳しいようで「どこのモンや」と警戒されることもありました。最近でこそ顔見知りも増え、「今月もありがとう」と言ってくれる人もいらっしゃいます。それでも、お弁当が無事に配り終えられるか、毎回不安です。
 
――ご活動を通して、どういった成果がありましたか?
 
中村:この活動で、路上生活状態が改善するどころか、生活水準が向上することはありません。良くて現状維持です。意味がないと言えばそれまでですが、活動の様子や地域の現状をSNSで発信し、支援者が増えることで一つの希望に繋がっていくのではないかと思います。
 
実際、この活動は当初、母親と大学時代の後輩とあわせて4人で始めましたが、いまではさまざまな方から寄付やお手伝いという形で支援していただいています。
そうした支援の輪が広がっているのは、活動の成果と言えるのではないでしょうか。成果と言って良いのかは難しいところですが……。
 
――ご活動を通して、どういった気づきがありましたか?
 
中村:昨今の経済事情もあってか、路上生活者が増えたように感じます。活動を続ける中で、前月まではお見かけしなかった方もいらっしゃるので……。
でも、そこで気づいたのは、長年路上生活を続けられている方は、その生活を楽しんでおられるようにも見受けられることです。
 
そんな光景を見て、幸せのあり方は一つじゃないと思いました。路上生活をされている方を哀れに思われる方も多いかもしれませんが、彼らからすれば休みもなく、社会の歯車として日々使われ続ける私たちを哀れに思っているのかもしれません。改めて「幸せ」は自分で決めるものだとも思いましたね。
でも、幸せを実感するのも難しいですよね。自分がどう有りたいか、自分がどうしたいか、というのを考える必要があると感じています。
 
最初は支援をさせていただくつもりで始めた活動でしたが、実は私たちが学ばせていただいているのではないかと思います。
 

(画像提供:中村さん)

 

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掲載日: 2023.03.14

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