薬剤師、終活……あらゆるご縁を通して、お寺で死生観を語らう。|愛知県教西寺<後編>
薬剤師、終活……あらゆるご縁を通して、お寺で死生観を語らう。
愛知県 教西寺<後編>
影絵劇からキッズサンガ、お寺ヨガと、様々なイベントを行っている愛知県の隨喜山 教西寺(ずいきざん・きょうさいじ)。前編では、主に地域の子どもたちを対象としたイベントを中心に取り上げました。
後編では、現役世代から高齢者を対象としたイベントについて、引き続き同寺の住職 三宅 教道(みやけ・きょうどう)さんと、坊守の三宅 千空(みやけ・ちひろ)さんにお話を伺いました。
教西寺の三宅千空さん(坊守・写真左)と三宅教道さん(住職・写真右)
楽しみから悲しみまで、子どもたちとともにある|愛知県 教西寺<前編>
薬剤師と僧侶で死生観を語らう
ーーいろいろなイベントをされている中で「薬剤師×僧侶×生老病死」というイベントに興味を持ちました。僧侶と薬剤師というコラボレーションは、他でもあまり例がないように思いますが、どういったきっかけで発案されたのですか?
三宅 千空さん(以下:千空さん):私の友人に薬剤師として働いている方がいて、そのご縁でイベントを企画しました。その方曰く、薬剤師には、死について話したり考えたりする場が身近にないんだそうです。もっと死生観を養える場が欲しいという希望があって、お寺で薬剤師と僧侶によるイベントを行うことになりました。
ーーその方はなぜ、死生観を養いたいと思ったのでしょうか?
千空さん:薬剤師は薬局で多くの患者さんとご縁を結ばれますが、そうした患者さんは、ある時を境に急に薬局へ来られなくなるんだそうです。それが元気になったのか、転居したのか、あるいは亡くなったのか、その後の情報が全く入ってこないまま、そのままご縁が切れてしまうこともあるそうです。
また、薬は病気の症状を抑えたり、治療するために出すものなので、死について深く考えないことがほとんどなんだそう。だからこそ、死生観を養いたいと。
ーー参加者は薬剤師と僧侶だけですか?
千空さん:はい。もともと、薬剤師と僧侶に限ってやりましょうという企画でしたので。実際は僧侶よりも薬剤師の方が多く参加されています。中には、兵庫県から来られた薬剤師もいらっしゃいました。
一方、僧侶は我々浄土真宗僧侶のほか、曹洞宗の方、浄土宗の方がいらっしゃいました。岐阜県からこられた方もおられましたね。主催の薬剤師さんに僧侶の友達が多く、紹介で来られる僧侶の方が多いです。
ーーイベントはどんな様子で行われていますか?
三宅 教道さん(以下:教道さん):最初におつとめ(読経)を行い、私がちょっとだけ仏教のお話をして、あとは薬剤師の主催の方が用意してくださったテーマに沿って話し合いを行います。参加者が多い場合は、何人かのグループに分かれて話をしています。
ーー薬剤師の方が用意するテーマは、どういった内容ですか?
千空さん:生老病死について語るのがメインです。薬剤師の友人と話し合って、最初は比較的話しやすい「老」、「病」のテーマから始めました。その後、話の中で気になったことはないですか?と参加者に投げかけて、さらに深く話し合いをしています。最後に振り返りを行って、気の合った方々が個別に交流し、さらに話を深めて行くことで、互いの死生観を深めてらっしゃるようです。
ポロッと重たい話がこぼれます。お寺の本堂だからできることとは
ーー僧侶として参加されて、どういった学びがありましたか?
千空さん:お寺では当たり前になっていることが当たり前ではなかったという気づきはたくさんありました。私たち僧侶が日頃から使っている言葉が、一般社会では全然使われていないとか……。
教道さん:医療のことを学ぶ機会にもなっています。例えば、医師と薬剤師は本来は対等な関係で、医師さんが発行した処方箋を薬剤師が差し戻したりするケースがあることとか……必ずしも医師が主ではないことにもびっくりしましたね。
ーー普段はあまり関わらない業界だからこその気づきがありますね。
教道さん:そうですね。他には、医療の現場では「死」を話せないとおっしゃる方の多さに気づきました。死について語れるだけでもありがたいのだそうです。
中には、10年前に妊娠中絶をされたのを今でも後悔されていて、お寺に来て、初めて他人に話せたという方もいらっしゃいました。
ーーそういう話はなかなかできないですよね。お寺の本堂だからこそでしょうか?
千空さん:やっぱり、お寺という場でやるからこそ、老いることや、亡くなることといった話もしやすい雰囲気になるのかもしれませんね。ポロッと話せちゃうといいますか。
ーーお二人が何か工夫されていることがあるのでしょうか?
千空さん:いいえ、我々がそういったことを話してくださいと積極的に振っているわけではなくて、自然とみなさんの中からそうした会話が生まれてくるような感じです。
終活の知識を学び、死生観を語らう。「おてら終活カフェ」
「おてら終活カフェ」の様子
ーー終活のイベントも行われていると聞きましたが、どのようなことをされているのですか?
教道さん:これも、もともとは「まいてら」(*1)の他寺院で行われていたもので、教西寺でもやりませんかと持ちかけられたものです。
これまで2,3回ほど行っていたのですが、新型コロナウイルスの影響で中止になってしまって……。もともとは年間に4回程度のペースで定期的に行おうと考えていました。
葬儀会館をはじめとした様々な場所で終活のイベントはありますが、どこかビジネスライクなんです。淡々と行われているといいますか。
そんなイベントをお寺で行うことで、参加者には遺言や相続のことを相談するだけではなく、いのちについて考える機会としていただきたいという思いがあります。
終活に関することは、行政書士など、専門の先生に教えていただいています。終活に関する「どうすればよいのか?」や「実際にはどういう手続きが必要なのか?」といった疑問をちゃんと知ることができる場になっているようです。
ーー終活のイベントでは、どういった話を取り扱っていますか?
教道さん:最初は遺言の話を取り扱いました。例えば、遺言は正しい書き方や気をつけるべきポイントといったことです。
実際に、このイベントがきっかけで遺言を行政書士さんに依頼した方もおられました。
次回のテーマは「介護施設の上手な選び方」を予定しています。今後は、成年後見人、死後事務委任や遺贈寄付といったテーマも取り扱ってみたいですね。
ーーイベントにはどれだけの参加がありますか?
教道さん:まだ回数が少ないので、参加者も少ないです。多いときで10人くらいでしょうか。年齢は40代から70代と幅広いですね。
中には「自分が死んだ後、ペットはどうなるのか」といった疑問を持った方もいました。
また、親子で参加される方もいました。衝突しがちな話も、僧侶など第三者が共にいることで、お互いの思いを素直に聞きあえるようです。
ーー現在の課題や今後の展望はありますか?
教道さん:やはり、新型コロナウイルスによってイベント自体ができなくなったことでしょうか。もちろん、オンラインという選択肢もありますが、親身に接するには実際に会うのが大事だと思うんです。
伝えられる情報量も格段に違うので、終活関係のイベントに関しては、対面で行う形が望ましいと思っています。
お寺がよろずの相談場になることが理想ですが、全てに対応するのは難しいので、今後は、「この話はこの人に頼ればいいよ」と紹介できる人や場を増やすようにしたいと思っています。
お寺終活カフェのロゴ
<編集後記>
現役世代から高齢者まで、さまざまなご縁を通して死生観を養う取り組みを行う教西寺。
老いや死といった、日常ではなかなかできない会話も、本堂では自然に始まります。そんな光景を見られるのは、仏さまのもと、心から安心できる空間がそこにあるからかもしれません。
教西寺 お寺の概要
教西寺外観
〒466-0012 名古屋市昭和区小桜町2-4
T E L :052 – 731 – 3117 (24時間)
Mobile:090 – 6507 – 1400 (緊急時)
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