持続可能な環境を実現するまちづくり① 環境問題を解決する新しい共同体<後編>

持続可能な環境を実現するまちづくり①
環境問題を解決する新しい共同体 <後編>

 

 

■問題の本質・後編


 
こうしたまちづくりを進めていると、同時に環境問題の解決の兆しもみえてきました。「いのちといのちの関係性」の不公平さが現代社会におけるほとんどの問題の根源にあり、持続可能な集落づくりが、「つながり経済」のような公平な「いのちといのちの関係性」を重視していれば当然のことでしょう。公平な「いのちといのちの関係性」に基づいて、自然環境と関係を築けばいいのです。
 
今では希少な生業になってしまった炭焼きは、こうした「つながり経済」と自然環境の関係についての理解をすすめてくれます。炭焼きに適している木の太さは樹齢20 年ぐらいなので、集落単位で管理している山を20 に分割し、1年に山の20 分の1ずつ木を切り出して炭をつくります。そうして毎年順番に伐採していくと20 年で一回りするので、毎年、樹齢20 年の木を炭にすることができます。
 
しかも驚くことに、炭焼きによって人の手が入った山は、放置されていた山よりも生態系が豊かなのです。伐採された地面には太陽の光がたっぷり降り注ぎ、下草の成長が盛んになり、それを食べる動物が増えます。伐採した場所から樹齢20 年の場所まで20 段階の多様な環境をもつ山が、20 通りの生態系を持続可能にしています。さらに、農家や大工など多様な人がそれぞれに山とつながり生きていくことで、共同体にいる住民一人ひとりの生活が整います。
 
こうした「人と自然がつながっている」共同体においては、「持続可能性」は当事者として当たり前に意識されていて、もっとも大切な掟のようなキーワードです。こうした共同体では山の再生能力を超えた資源活用はしないでしょうし、利便性を追求するために収穫した農産物の3分の1を流通から消費の過程で捨てたり、効率を追求するために、環境負荷はおなじにもかかわらず人件費のかからない飼料用の安いとうもろこし10 本を育てて、そこから得たバイオ燃料で人が食べるための1本のとうもろこしを育てたりするようなしくじりも行わないでしょう。
 
地域内にある木や土や水などを持続可能な範囲で家や燃料や食料に活用する地産地消はもちろん、つながり経済によって人と人の共助による教育や福祉や防災機能などを高めることによって、まわりの自然や人との共生を第一に考える教育や、施設や専門サービスや最新の器具ばかりに頼らない福祉、共助のネットワークによる減災などの、環境負荷の小さな社会が実現されることになります。
 

■解決への道筋

 

 
これまでのことから考えられる、まちづくりで環境問題を解決するプロセスは次のようなものになります。
 
まず、集落単位で持続可能な社会づくりを行うために、ゴールとして集落特有の歴史や文化、風習、周辺の自然などの環境に適した未来のまちをデザインすることからはじめます。こうした集落の置かれている環境を一番よく知っているのはその集落の住民であるため、そこから答えを引き出す作業が主となります。
 
これと並行して、公平な「いのちといのちの関係性」を現代社会のなかに生かした、経済や福祉、教育、減災などの集落の機能づくりを進めていくことになります。持続可能な集落の姿がみえてくれば、それが点となり、さらにさまざまな地域でまちづくりをすすめていくことで、やがて面となり、地球全体に広がっていくでしょう。
 
まちづくりをゴールに導くプロセスを実現するための課題もみえています。課題のひとつは、まちづくりは長期にわたる取り組みとなるため、その集落と永続的に並走する支援組織の必要性。もうひとつは、まちづくりを目的とした集落内の合意形成です。ここでいう合意形成は全員の意見を揃えるものではなく、お互いの異なる意見を知り合い、大事にしながら、集落の持続可能性に対する危機感と持続可能な集落づくりの必要性を共有することです。これは住民にとって長く厳しい作業になるので、支援組織にはファシリテーション力や合意形成に至るプロセス設計力、さらには活動するコミュニティを支える場づくりが問われます。
 
これまでのまちづくり経験から、ここまでに挙げたいくつかの課題のすべてを高い打率で解決してくれる潜在的な力をもっているのが「お寺」だと感じています。
その根拠は三つあります。一つ目は「お寺を中心に形成されるコミュニティは、話しやすい場のもと、顔がみえるほどよい関係性の構築が期待できる」という点です。まちづくりには当事者である住民のつながりの力が不可欠であり、それを呼び覚ますには話し合いの場を持つことが必要となります。
 
お寺を中心に形成されるコミュニティはこの話し合いを持つにはちょうど良く、また関係性も適切なことが多いのです。おそらくそれは、お寺自体がもつまちの中心としての歴史的な役割や、宗教的な背景がそうさせるのでしょう。
 
二つ目は「ひとつの事業や担当者が短期間で終わったり変わったりしてしまう行政や企業によるサポートとはちがい、寺院・僧侶は、住民のまちづくり活動に永続的に並走することができる」という点です。まちづくりのためには、行政や企業だと担当者が変わってしまうことが珍しくもないほどに長い時間が必要になるので、それと並走してまちづくりをサポートしつづける組織が必要となります。
 
しかし困ったことに、行政や企業の場合、担当者が変わってしまうと、対応ががらりと変わってしまうことも少なくありません。その点、地域に根ざしているお寺ならば、企業や行政より長いスパンで、それこそその地域とお寺がつづく限り、永続的に並走することが可能です。
 
三つ目は「寺院・僧侶・宗教の求心力や公平性が、住民の合意形成を容易にする」という点です。まちづくりには、全員の意見を揃えるものではなく、お互いの異なる意見を知り合い、大事にしながら、集落の持続可能性に対する危機感と持続可能な集落づくりの必要性を共有する形での合意形成が必要になります。
 
こうした合意形成を行うにはまず、多くの住民に話し合いに参加してもらうこと、そしてその住民たちが公平に自分の意見を言える場が必要になります。お寺の持つ中立的な価値観は、そうした場を設けるのに非常に向いています。また、まちづくりに大切な、持続可能な生き方やいのちに対する価値観は、宗教との親和性が高いのではないでしょうか。
 
こうした意味において、持続可能なまちづくりは環境問題と非常に深く関わっており、そしてそれらを達成するために、お寺の存在は非常に重要となるでしょう。地球の未来を救うのは地域の一つひとつのお寺の存在なのです。
 

Profile

 

 

菱川貞義(ひしかわ・さだよし)
講談社こども美術学園講師、印刷会社、デザインプロダクションを経て、1989年に広告会社(株)大広に入社。デザイン、コピー、プロモーション、プランニングの仕事をしながら、地球環境プロジェクトチームとして滋賀県・NTT共同プロジェクトに参画し、「市民参加型情報ネットワーク」の社会実験「びわこ市民研究所」を運営。
2006年から環境に負荷をかけない自然農を実践。
2008年には「275研究所」を社内ベンチャー組織として立ち上げ所長に就任。2012年に農村再生をミッションとするNPO法人いのちの里京都村を設立。
2014年からは浄土真宗本願寺派総合研究所の他力本願.net のプロジェクトに参加、委託研究員として「1000年続く地域づくり」をテーマに、まちづくり、セミナー、ワークショップ等を行う。

 

<次回の「コラム」は……>
「持続可能な環境を実現するまちづくり 第2回 自然環境に寄り添う経済」 5月4日(火)予定
   

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掲載日: 2021.04.20

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