持続可能な環境を実現するまちづくり③ ふつうに働けばふつうに食べられる社会<前編>

持続可能な環境を実現するまちづくり③
ふつうに働けばふつうに食べられる社会<前編>

 
前回までは「環境問題の解決を可能とする新しい共同体と、その共同体を解体し社会を混乱させているお金」について論じましたが、今回は新しい共同体による持続可能なまちづくりについて考えてみます。
 

 

 

「まちづくり」とは

 

 
まちづくりは、何か特別なことを行うものではありません。短期的な成功を求めるものでもありません。ずっと戦い続けなければならないものでもありません。まちづくりは決してむずかしいものではないのです。
しかし、特別なことではないのに、私が知る限り、まちづくりがうまく進んでいる事例はわずかで、そのほとんどが失敗に終わっていたり、新たに深刻な課題を抱えたりしています。なぜ、多くのまちづくりはうまくいかないのでしょうか。
 
それは、何か売れる特産品をつくるとか、人が集まる施設や観光事業をつくるとか、まちづくりの目的がお金になっているからです。カネやモノはまちづくりの手段のひとつであって目的ではありません。お金儲けが目的になるとゴールは見えません。「お金が入るようになれば仕事も増え人も増える」といいますが、自治活動や環境保全活動や助け合いなど地域社会に必要な機能の多くはお金を介さない活動です。お金儲けだけを考えると、どうしてもお金を介さない活動はお荷物になったり敵対関係になったりします。まわりより自分が大切になってしまいがちです。
 
 
関係者へのヒアリングで得た事例を少し紹介します。たとえばあるまちづくりでは、どこの山にでもある無価値な物を都市に向けて価値化・商品化することで、短期間で地域の一大産業に成長し、若い移住者が集まるようになりました。
 
しかし、地域の利益ではなく個人の利益に関心が集まり、住民どうしが敵対関係となってしまい、より高い利益を求めてやまない個人と個人がのどかな農村風景のなかで火花を散らし、ぶつかり合っています。肝心のビジネスとしての成功も最初だけで、いまはビジネスとしては成立していないようで、活気が保たれているのはそのビジネスの評判のキーワードに群がるさまざまな事業者と補助金事業だけのようです。
 
また、ある観光スポットを中心としたまちづくりも、大規模観光施設を造って成功した事例として有名で、全国からの視察も絶えませんが、30年以上経ったいまも多額の補助金が無くては存続できない状態です。観光客で賑わうまちづくりを望まない住民も少なくありません。
このようなまちづくりの事例の問題点は大きく二つあります。ひとつは、アイデアを持ち込んだ外部の者と一部の住民だけで事業化し、多くの地域住民が蚊帳の外のまま短期間に取り組みを進めたため、地域住民の主体的なかかわりに乏しかった。もうひとつは、ビジネスでまちづくりを牽引する事業が企業化し、利益獲得が最大の目的となり、自治や福祉、環境保全などの課題が置き去りにされたことです。
 
祭りや清掃活動等の行事、防災や防犯等への取り組み、見守りや助け合い、森林管理や水質保全等、これらの課題はお金だけで解決することはなく、地域住民の努力と長期にわたる地道な取り組みが不可欠です。持続可能な集落の姿は、地域住民が主体となって長期にわたるまちづくりを計画し実行しないと見えてこないのです。
 

 
そもそもビジネスという世界で勝ち続けるのは非常に厳しく困難です。どこかで利益の出る商品が生まれれば、類似の商品があちこちで誕生し、血みどろの競争の大海に投げ出されます。価格ダウンがおこり、人件費をはじめ下請けのコストカットが容赦無く行われ、不要な差別化商品開発にエネルギーを費やし、それが利益を生めば、また「似せて・競って・下げて・切って」の繰り返しです。相当の情報力、人材力、資金力が必要ですし、他に先んじるための組織力や意思決定速度も求められます。大企業であろうと、いわゆる勝ち組に残るのはかんたんではありません。
もし勝ち続けることができる集落があるとしてもそれはほんの一握りでしょう。それではだめなのです。全国には13万以上もの集落があります。そのそれぞれが及第点をとれるやり方でなければ、実現可能なまちづくりの手法とはいえないでしょう。
 
新しい魅力的なビジネスを求めて、普段の食事に使う野菜の栽培をやめて高級レストランで使われる洋野菜を育てる農家や集落が増えてきました。例えば国外でも、商社の提案で自家消費用の野菜や果物づくりをやめてコーヒー農園をはじめたところがたくさんあります。ですが、このようなビジネスも多くは負のスパイラルに陥ります。そのきっかけは、グローバルな流通に対応できる品質を確保するために借金をして設備投資をし、価格をおさえるために農地を拡大し大型機械を導入し大量生産をはじめることです。自家消費用の農地も使うようになり、農家もお金で農作物を買うようになります。こうしてお金を中心とした生活の仲間に入ってしまうのです。
 
また、儲かっているうちはいいのですが、儲かるビジネスにはすぐに競争相手が現れます。これに対抗し、生産効率を上げるために、さらに借金をして最新設備を入れ農地を広げ生産量を増やしますが、競争相手もまた同じことをします。
これは商社と消費者にとっては好都合です。商社は商品を大量に扱えるので利益が増えます。消費者は同じ商品を安く買うことができます。やすらぎだけがなくなっていく生活に、農家は元の生活に戻りたいと思うようになるかもしれませんが、こうした負のスパイラルから抜け出すのは容易ではありません。拡大を止めれば競争力をなくし商社は取引してくれません。廃業できればいいのですが、莫大な借金だけが手元に残ってしまうために、それもかないません。このような金儲けのビジネスで、最後まで生き残れる者はほんの一握りなのです。
 
こうした現代の借金をベースにしたビジネスモデルは、「成長するしかない」という強迫観念にとらわれていきます。一度このビジネスモデルのレールに乗ると途中で降りることが許されません。それでも何とか降りてみると、たいして何も残っていないことに気づかされるでしょう。
 

▲目次へ戻る

Profile

 

 

菱川貞義(ひしかわ・さだよし)
講談社こども美術学園講師、印刷会社、デザインプロダクションを経て、1989年に広告会社(株)大広に入社。デザイン、コピー、プロモーション、プランニングの仕事をしながら、地球環境プロジェクトチームとして滋賀県・NTT共同プロジェクトに参画し、「市民参加型情報ネットワーク」の社会実験「びわこ市民研究所」を運営。
2006年から環境に負荷をかけない自然農を実践。
2008年には「275研究所」を社内ベンチャー組織として立ち上げ所長に就任。2012年に農村再生をミッションとするNPO法人いのちの里京都村を設立。
2014年からは浄土真宗本願寺派総合研究所の他力本願.net のプロジェクトに参加、委託研究員として「1000年続く地域づくり」をテーマに、まちづくり、セミナー、ワークショップ等を行う。

 

 
記事作成:他力本願.net
掲載日: 2021.05.25