気候変動問題と私たちの世界――京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー〈第1回〉

気候変動問題と私たちの世界
京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー〈第1回〉

 
2020年10月26日、菅内閣総理大臣はその所信表明の中で「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と、地球環境に配慮した、CO2排出量が実質0となる社会の実現に最大限注力することを宣言しました。
この背景には気候変動問題と、国際社会の動きがあると言われています。
 
近年私たちの暮らしの中でも台風や豪雨、猛暑など、気候の問題が増えてきました。
実際、2019年の台風などの水害被害の総計額は約2兆1500億円にも上り、1961年以来の統計上最大を記録したと言われています(2019年の水害被害額は過去最大の2兆1500億円 : 東日本台風で被災建物8万棟 | nippon.com)。
 
こうした気候変動問題に対応するために、今世界では、そして日本ではどのような取り組みが行なわれようとしているのでしょうか。どのような取り組みが必要なのでしょうか。
 
この気候変動問題に対して、京都市環境政策局地球温暖化対策室 エネルギー企画係長 河合 要子(かわい・ようこ)さんにお話を伺いました。全3回のインタビューです。
 

 

京都市地球温暖化対策室の河合 要子さんと松浦 真奈さん

 

■京都市環境政策局地球温暖化対策室

 

インタビューに応じる河合 要子さん(新型コロナウイルス感染症対策のため、マスクを着用)

 
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、京都市環境政策局地球温暖化対策室 エネルギー企画係長である河合さんの活動と立ち位置、それから役割についてお話しいただければ。
 
河合要子さん(以下、河合):私は地球温暖化対策、特にエネルギーの観点から気候変動問題にチームで取り組んでいます。
 
気候変動の原因となる温室効果ガスは、日本ではその約9割が石炭や石油、ガソリンというような化石燃料を燃焼させたときに生じるもの、つまり電気などのエネルギーを発生させるためのものです。
 
そのため、気候変動問題に対処するためには、エネルギーの利用効率を高めて無駄を無くすことと、電気などのエネルギーを発生させるための大元となる資源を化石燃料ではなく風力や水力、太陽光などの再生可能エネルギー、CO2(二酸化炭素)を出さないエネルギーに変えていく必要があります。
 
京都市は「2050年 CO2排出量正味ゼロ」を目指していますが、そのためには「エネルギー」「ビジネス」「モビリティ」「ライフスタイル」の四つの転換が必要だと考えていて、私たちはその中の「エネルギーの転換」を担当させて頂いています。
 
――河合さんは「エネルギーの転換」に特化して取り組まれているということですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょう。
 
河合:国への政策提言から、具体的な再生可能エネルギー導入のための施策まで多岐に渡りますが、政策提言というところでいえば、19の指定都市で地域分散型の自然エネルギーの普及・拡大を目指す「指定都市自然エネルギー協議会」というのをつくっておりまして、この枠組みで国への政策提言を行うこともあります。
 
――政策提言をされる方は、所謂「研究者」にあたるのでしょうか。
 
河合:いえ、市の職員です。ただ、京都市には環境職という職種があり、元々そういった環境に関する知識を持って入って来る職員もいます。
 
――環境職という採用枠がそもそも珍しい気がしますが、それだけ地球温暖化対策室が、そして京都市が環境問題の改善へ注力されているんですね。
 
河合:京都市の環境政策局は「筆頭局」と言いまして、総合企画局や産業観光局、都市計画局など、様々な部門がある中で、一番目に並んでいます。また、地球温暖化対策室はその環境政策局の中でも一番目にいます。普通は運営上、部局全体を統括する庶務担当など総務が一番に来ますが、京都市の職員録では地球温暖化対策室があって、次に総務課が並んでいるんです。
 
――なるほど。それだけでも京都市の本気の度合いが伝わってくる話ですね。地球温暖化対策室の方がたは、他にはどのような取り組みを行なっているのでしょうか。
 
河合:施策でいいますと、太陽光発電の住宅向けの補助金や、最近でしたら初期費用ゼロ円で太陽光発電設備を導入できる、0円ソーラーというビジネスモデルがあるんですが、オンラインポータルサイト「京都0円ソーラープラットフォーム」で0円ソーラーのプランをご紹介するなど、具体的に行動していただけるような事を中心に進めています。
 
また最初にエネルギーの利用効率を高めて無駄を無くすことも大事だとお伝えしましたが、そのためのアドバイザーを派遣しています。小規模になると、「令和生まれの家電に買替キャンペーン」を昨年から進めていました。家電製品はやはり新しいものほど性能がいいので、消費電力が少なくすみます。エネルギー効率がいいんですね。
 
ですが、それでもまだ昭和生まれの家電を大切に使われている方もたくさんいらっしゃいます。ですので、それを令和生まれの家電に買い替えていただいた方には抽選で商品を進呈するというような企画をしたりしていました。
 

京都0円ソーラープラットフォーム(https://kyoto-pv-platform.jp/

 
――面白いですね。そういった大小様々な取り組みを、どれ程の人員でされているんですか?
 
河合:地球温暖化対策室だけで三十数名程度ですね。
 
――それはすごいですね。
 
河合:地球温暖化対策に特化した部署を持っているだけでも自治体では珍しいのに、これだけの規模があるというのもなかなか無いように思います。
 

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■地球温暖化とはどのような問題か

 

写真1:指定都市自然エネルギー協議会での打合せの様子

 
――そもそも、「地球温暖化」もしくは「気候変動」と言われますが、この二つに違いはあるんでしょうか?
 
河合:これは個人的な見解になってしまうんですが、この二つの言葉でいうなら、私は「気候変動」のほうがいいと思っています。元々20年ほど前から「地球温暖化対策をしよう」と、その必要性が叫ばれていて、その頃は世界でもGlobal warmingという言葉が使われていました。
 
ですが、今はGlobal warmingとは言わず、Climate change(気候変動)という言葉が使われます。なぜなら地球の温度が上がるのは単なる1現象であって、むしろ問題はそのことによって引き起こされる熱波や台風、干ばつ、洪水などの気候変動だからです。なので、やはり「気候変動」の方が良いかな、と。国も最近は「気候変動」を使いますしね。
 
――なるほど。では気候変動、と呼ぶことにするとして、この気候変動問題とは具体的にはどのような問題なのでしょうか?
 
河合:地球の平均気温は産業革命以降、この過去130年の間で、人間の活動によって1℃上昇したと言われていて、もしこのまま何もしなければ今世紀後半には約4℃上昇すると言われています。このとき日本はだいたい5℃ぐらい上がるだろうと言われているんですが、これはかなり大きなことなんです。確かに私たちは一年を過ごしていると、四季もありますし、1℃ぐらい上がったところで何が変わるんだろうと感じてしまう部分はあるかと思います。
 
ですが、平均気温がそれだけ上がったことで、最近の日本では真夏に40℃を超える日が増えていますし、巨大な台風や洪水によって非常に大きな被害が生じています。2018年の猛暑では、工業化以降の人為起源による温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化を考慮しなければ、このような猛暑は起こりえなかったと明らかにされています。
 
また熱中症の被害者数も過去最大で、今、日本では年間1000人を超える方が熱中症でお亡くなりになっています。そういった意味で、生命や生活の基盤、これを脅かす災害が起きている。これが今の気候変動問題です。
実は環境省が毎年、そのときの地球環境の現状報告として『環境白書』という分厚い冊子を出されるんですが、その2020年度の白書の中で初めて「気候危機」という言葉が用いられました。
 
――「危機」ですか?
 
河合:はい、「危機」です。この白書の中で紹介されているんですが、この直近の災害での最大被害額は全世界で2兆2450億ドル。その前の20年と比べた時に大体2.5倍まで増えているというのが、今のこの気候危機という状況ですね。世界でもそうですし、日本でも実はそういった影響、生命や財産などの大きな危機が生じています。
 
京都でも気候変動の影響はあらわれていて、先ほど熱中症でお亡くなりになる方が日本でも年間1000人を越えているとお伝えしましたが、例年7月に行なわれている祇園祭の花傘巡行が、2018年は猛暑で中止になりました。また2020年も京北の方では7月の豪雨災害で倒木が起きて道路が数日にわたって閉鎖されたこともあります。このように毎年大雨や台風による被害がこの京都でも起きているんです。
 
京都は1000年続いてきた持続可能な街だとは思うんですが、この気候変動、気候危機の影響の中で人々の生命は脅かされ、文化の継承も難しくなっています。これが気候変動の問題だと捉えていて、こういった問題に対して危機感を持っております。
 

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■気候変動問題の先には何が待つか

 

写真2:京都市若手職員ワークショップの様子

 
――さきほど、このままでは今世紀末に気温が世界全体の平均で4℃、日本は5℃上昇するとおっしゃいましたが、もしこの生活スタイルを変えずに、CO2をはじめとした温室効果ガスを排出し続ける生活を続けたら、いったいどうなるのでしょうか。
 
河合:場所によって違いもありますが、食料生産ができなくなる地域が出てくると言われています。また今でもフィジー共和国など島しょ国で既に起きているんですが、強制移住ですね。海面が上昇し、その結果として住めるところがなくなります。
 
そういうことで生活基盤を奪われる方、また生活の必需品である食物が奪われる方がどんどん出ているんです。また日本を含めたアジアで言いますと、アジアの三大影響と言われているんですけれど、「洪水の被害」「熱中症による死亡リスク」そして「干ばつによる水や食料の不足」があげられます。
 
――なるほど。生活の基本的な部分が成り立たなくなる人が増える、ということですね?
 
河合:人口は世界全体で増加傾向にありますが、そのなかで食物が減るということが起きています。今でさえ、多くの人が十分な食料や水、居住環境がないまま暮らしていますが、そうした不平等がどんどん広がっていくのではないか、といった状況です。
 

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■気候変動問題に対する世界の潮流

 

写真3:脱炭素社会を目指す世界の都市との会合の様子(COP25・2019年マドリッド)

 
――気候変動問題はかなり喫緊の問題なんですね。では、そうした流れに対しての世界全体でどういう取り組みが行われているのでしょうか?
 
河合:まず、京都で生まれた、世界初の気候変動を巡る枠組みである『京都議定書』の存在はご存じでしょうか?私たちの活動の根本にはこれがあるんですが、この『京都議定書』は、2015年に国連で採択された、二つ目の国際的な気候変動に関する枠組みである『パリ協定』へと飛躍していきます。
 
この『パリ協定』の中で決まったことは「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃までに抑えましょう。できることなら1.5℃以下に抑える努力をしましょう」というものです。なので、ここで脱炭素社会を目指すという大目標が定まりました。これが2015年のことです。
 
ですが、この時点ではまだ「2℃」なのか「1.5℃」なのかということと、それを達成できるまでの具体的な期限があいまいでした。「今世紀後半に脱炭素を目指す」ということは合意出来ても、それを具体的に何時までに達成するのかが決まっていなかったんですね。それで国連が、世界の科学者に対して、科学的な知見を集めて、その道筋を示してくれと依頼して、2016年に出来たのが 『IPCC 1.5℃特別報告書』です。
 
これは「どうすれば世界の平均気温上昇を1.5℃までに抑えられるのか」という報告書で、その内容は「2050年までにCO2排出を実質ゼロにする」というものでした。これにより、2050年という明確な期限が決まったんですね。これに従って、世界中が「2050年CO2ゼロ」を目指しだしました。それが2016年以降になります。
 
また、この『IPCC1.5℃特別報告書』が気温上昇2℃と1.5℃の違いも出しています。報告書を読んだ人たちが、2℃ではなく1.5℃の方が良いと捉えた理由に、熱波の被害をうける人口が17億人も少ないといった予測など様々な理由があります。
 
この報告書の知見によって、世界の政治家の方々は1.5℃を目指すことを決断しました。これによって2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指すというのが世界の潮流になっています。ちなみに世界最大のCO2排出国は中国なんですが、中国も2020年9月に、「2060年までにCO2排出量実質ゼロを目指す」と宣言をしています。
 
そして世界二位のCO2排出国であるアメリカも、バイデン氏が大統領に就任したことで一度離脱していた『パリ協定』に戻りました。バイデン氏は2050年CO2排出量実質ゼロというのを大統領選挙の公約に掲げていたんですね。中国、アメリカ、というCO2排出量第一位も第二位もゼロを目指すということで、この「脱炭素への取り組み」が世界の潮流になっています。
 

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■脱炭素への取り組みを始めた日本

 
――そうした世界の潮流の中で日本はどのような状況にありますか?
 
河合:日本は世界第5位のCO2排出国になります。2020年10月に菅総理大臣が所信表明演説において2050年ゼロカーボン、つまりCO2の排出量実質ゼロの社会を目指すことを宣言し、この世界の潮流に乗った所です。この宣言を、これからどう具体的に実現していくのかが、今まさに議論されています。
 
――では、今、日本政府は具体的に何をしているのでしょうか?
 
河合:『京都議定書』のときはこれだけ削減しなさいっていう義務が先進国に課せられたんですが、ちょっと不具合があったんですね。『パリ協定』はその経験を踏まえて、各国が5年に1度、温室効果ガス排出量をこれだけ減らすという約束を更新して提出するんです。これを NDC (nationally determined contribution 自国が決定する貢献)といいます。そのNDC、日本は、2030年度に26%削減(2013年度比)と提出していましたが、2021年4月に、新たに、46%削減へ目標を引き上げることが発表されました。
 
――今、日本全体が転換するための準備に入っているということですね。
 
私たちの豊かな暮らし。
その背景には電気などのエネルギーがあり、そのエネルギーの背景にはCO2を大量に排出する、産業革命以来の、石炭や石油などの化石燃料の大量消費があります。それは130年かけて、地球の環境をじわじわと壊し続け、そして今、それは無視することが出来ない問題となって私たちの前に立ちふさがって来ました。
 
誰か一人が悪いわけでもありません。ですが、次世代に負の遺産を残さないためにも、このまま放置するわけに行かない問題です。今、世界中がこの問題に対する取り組みを始めています。
 
この問題の解決には「これまでに無い大きな転換」が必要だと話される河合さん。
第2回となる次回では、京都市での再生可能エネルギー導入のための試みについてお話を伺います。
 

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<次回記事>
気候変動問題に挑む京都市の取り組み――京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー〈第2回〉(7月4日)

 

 
記事作成:他力本願.net
掲載日: 2021.06.25