気候変動問題に挑む京都市の取り組み――京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー〈第2回〉

京都市地球温暖化対策室の河合 要子さんと松浦 真奈さん

 
2016年に発効された『パリ協定』以降、本格的に世界は気候変動問題対策へと動き出しました。
CO2の排出量を2030年までに現在の50%へ、そして2050年までには実質ゼロにまで下げる、という目標が、私たちの安定した平和な未来への条件として明示されたと言ってもほぼ過言ではないという状況にあります。
その鍵を握ると言われている再生可能エネルギー導入のために、日本の自治体の長として初めて門川市長が「2050年CO2排出量正味ゼロ」を目指すことを宣言した京都市は、どのような取り組みを行なっているのでしょう?
京都市環境政策局地球温暖化対策室 エネルギー企画係長 河合 要子(かわい・ようこ)さんよりお話を伺いました。全3回のインタビュー、第2回です。
 

 
 

■気候変動問題における京都市の役割とは?

 

京都市・2050年CO2排出量正味ゼロ宣言の様子(2019年5月)

 
――世界や日本政府が気候変動問題への取り組みを進める中で、京都市にはどのような役割があると考えているのでしょうか?
 
河合要子さん(以下、河合):2020年10月に菅総理大臣が所信表明演説でゼロカーボン宣言をされましたが、その1年5カ月前の、2019年5月に京都市では門川大作市長が日本の自治体の長として初めて2050年CO2排出量正味ゼロを目指すことを宣言しました。この時の京都市があって、その次に東京都が宣言をだし、というような、最初は本当に小さな動きでしたが、ゼロカーボン宣言をする自治体はどんどんと全国に広がっていっています。こうした自治体を「ゼロカーボンシティ」と呼称しているんですが、これが日本の自治体の半数を超えるところまで広がり、そして今もまだ広がり続けています。
 
日本国民というのは絶対どこかの自治体の住民なので、門川市長の宣言をきっかけに、今や過半数を超える日本国民がCO2排出量実質ゼロを目指す自治体で暮らしていることになりました。そうした事実が日本政府の宣言を後押しできたんじゃないかという風に私達としては自負をしています。
 
――なるほど。京都市の宣言が最初の波紋を巻き起こし、今の状況があると。
 
河合:門川市長がCO2排出量正味ゼロを目指すことを表明した時の思いを紹介させていただければ、と思います。
 
一つ目は「未来への責任」。つまり、今を生きる者として未来に対する責任を果たしていくことです。将来あの時の取り組みが地球環境の保全につながったと言ってもらえるようにしなければならないと、我々職員にも話されています。むしろ将来の世代の人に「何で気候変動問題に対策してくれなかったの?」と言われないようにちゃんとしないといけないということですね。
 
二つ目は「京都の役割」。『京都議定書』誕生の地ということの重み、責務というところです。やはり役割を果たしていかないといけないだろう、私達が率先してやっていかないといけないだろうと考えています。
 
三つ目は「覚悟」です。やはり宣言した以上は、実現をしなければなりません。まだ達成できる手段は全て見つかっていないかもしれませんが、それでも実現する覚悟を持って取り組むということです。
 
――なるほど。宣言を出されてから、やはり何か変化はありましたか?
 
河合:京都市が2050年CO2排出量正味ゼロを表明したことで様々な動きが出てきました。例えば、学生団体であるFridays For Future Kyotoとはディスカッションを行いましたし、今回の条例や計画の改定にあたって非常に考えられた内容の提案書を頂きました。市民団体、環境団体からもご提言をいただいています。また京都市をフィールドとした気候変動問題に関する研究への協力もさせていただいておりますし、また提言にあたってはご協力などもいただいております。
 
やはりゼロ宣言したことで、そういった協働の機会が増えていきましたし、一緒にCO2排出量正味ゼロを目指していただける方との出会いも増えました。2050年CO2排出量正味ゼロという目標は京都市という、1つの自治体だけで実現できるものではありません。この街に関係する方々とともに、危機感や目標を共有することで、新しい行動や様々な形での巻き込みが生み出されていくと思っています。
 

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■消費者の声で世界を変える「再エネ100宣言 RE Action」

 

RE Action宣言団体の平安女学院大学でRE100イルミネーション実施

 
――今の京都市、特に河合さんが注力されている取り組みについて教えていただけるでしょうか?
 
河合:前回、「エネルギーの転換が大事だ」というお話をさせていただきました。この「エネルギーの転換」の仕方にもいくつかありますが、私たちは現在「使う」という視点から取り組みを進めています。家庭で再生可能エネルギーを使うんですね。
 
エネルギー転換をすすめる上で、使うエネルギーの総量を減らし、再生可能なエネルギーを生み出すということも大切ですが、同時に再生可能エネルギーをちゃんと使うことも同じくらい大切になります。
 
京都市は都市ですので、エネルギー消費量が多いです。一方で、京都市の3/4は森林ですが、それでも他の地方都市や農村部と比べれば、再生可能エネルギーを生み出すポテンシャルは高くありません。
 
そうなると、この地域で必要な再生可能エネルギーを全て生み出すことは難しいので、別の方面での貢献、つまり生み出された再生可能エネルギーを使うということが求められてきます。
 
気候危機という問題を聞いた時に、地球規模すぎて何ができるのかで戸惑われる方は多いかと思いますが、その中でやはり一人ひとりの消費者としてできることを具体的な行動に落としていくのが大切だと考えています。そうした中、具体的で、なおかつ取り組みやすいファーストステップがこの再生可能エネルギーから作られた電気を使うことなのかな、という風に思っています。
 

 
 
――再生可能エネルギーを使っていく、ということを様々な方面で取り組まれているんですね?
 
河合:はい、それが「再エネ100宣言 RE Action」 、そして「EE電(いいでん)」ですね。今事業化されているものはこの二つになります。また、今年は、再生可能エネルギー由来の電気を選ぶことの情報発信にも取り組みます。
 
――「再エネ100宣言RE Action」とはどのような活動なのでしょうか?
 
河合:「使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを宣言する」という活動です。需要家、つまり電気を使用する人が再生可能エネルギーを必要としていることを発信することで、そうした需要のシグナルを市場に届け、電気の供給側に再生可能エネルギー導入を促し、間接的に再生可能エネルギーの導入を増やしていく取り組みです。
 
元々「RE100」という、同じ仕組みで、大企業を対象にした国際的な取り組みがあるんですが、この「再エネ100宣言RE Action」は中小企業や、団体の種別にかかわらず参加できる枠組みということで2019年に発足したものです。
 
――電力市場そのものに対して再生可能エネルギーの需要をアピールしていくということですね。どれくらい実効性があるものなんでしょうか?
 
河合:実際「RE100」に参加された企業の中ではいくつも有力な例も出ておりまして、例えば、以前会議で発表されていた内容ですが、スーパーのイオンさんがこの宣言をされたら、電力会社が再生可能エネルギーのプランを持ってきてくれて、実際に再生可能エネルギーに切り替えられたという事例もあります。他にも宣言を出してソリューションができたという事例がいくつも生まれていますね。
 
――イオンさんの消費電力量というと、日本の1%と言われていますよね。その1%が再生可能エネルギーに切り替わっていくとなると、かなり大きなことですね。
 
河合:需要家というのはそれだけ力があります。ちなみに日本の全体の電力需要で言えば、「RE100」に入れるような、本当に世界的な大企業の消費電力よりも、それ以外の消費電力の方が実は大きいです。そうなるとやはり大企業以外の、中小企業や他の団体、学校や宗教法人などの様々な団体の電力の需要の力は無視できるものではありません。この力を、社会を変えるために使わせていただきたいんです。
 

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■気候変動問題に挑戦するために

 

 
――他にも、「EE電」という事業をされているとのことですが、こちらはどのようなものになるのでしょうか。
 
河合:「EE電(いいでん)」は市民向けの再生可能エネルギー由来電気のグループ購入事業です。再生可能エネルギー率35%の電気を買いたいという需要を集めて、これだけ買う人がいるから、いくらで供給してくれますか、と電力会社と交渉をするんです。逆オークションですね。ちなみに、このグループ購入の仕組みを使って、太陽光パネルと蓄電池を対象にした「みんなのおうちに太陽光 」というものも実施しています。
 
――それは、だいぶ挑戦的な事業であるように思えるんですが、それも地球温暖化対策室でされているんですか?
 
河合:はい。気候変動問題はなにかひとつの解決策だけで解決できるものでもありませんので、トライアンドエラーを繰り返しています。気候変動問題は新しくて、これまでの枠にあてはまらない問題だと思いますし、それだけの使命感もあるんだと思います。
 

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■再生可能エネルギーを通した農村部との連携

 

 
――今後何か注力されていくものはありますか?
 
河合:先ほど、京都市は都市で消費電力が多いから、再生可能エネルギーを「使う」取り組みが必要だとお話しましたが、では、どこから再生可能エネルギー由来の電気を持ってくるのかという問題があります。その意味で、農村部をはじめとする自然資源を豊富に有する地域との連携を進めたいという風に思っています。
 
――農村部を、再生可能エネルギーを生み出す場所に、ということでしょうか。
 
河合:そうですね、地域内で消費する電力量以上の再生可能エネルギーを生み出せる場所ということです。そういった地域と連携することは、電気代を通してその地域支援にも繋がると思うんです。再生可能エネルギー由来の電気の循環も、経済の循環も、またまたそこから人の交流も生まれるかもしれません。ですので、他地域との連携をこれからやっていきたいと考えています。
 

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■京都市の取り組みの今後

 

 
――今後の展開などあれば、教えてください。
 
河合:まだまだこの再生可能エネルギー由来の電気を知らない方、電気を切り替えられることも知らない方へ、気候変動問題対策に「再生可能エネルギー由来の電気を選ぶことが大事なんだ」ということのお伝えも十分とは言えない状況にあります。
 
電力が自由化されたとはいえ、まだそうしたことに関するノウハウは市民権を得ていないと思いますし、電気を選ぶことが未来の選択に繋がるという、そもそもの情報発信をしなければ、と。
 
切り替え先の情報に関しても、一覧になっているものすらまだない様な状況にありますので、この電力会社はこんな取り組みをしていますよ、ということも併せてご紹介して、個人の価値観に応じて選んでいただけるようにしていきたいな、と。そうした「選ぶための環境を整える」ことに今年は取り組めれば、と考えています。手始めに、「京都市再エネ電気プラットフォーム」というウェブページを新設したところです。
 
門川市長が2050年CO2排出量正味ゼロを宣言してから、それを実現していくために、2050ゼロ目標を盛り込んだ新しい京都市地球温暖化対策条例が2021年4月1日に施行されました。
 
そこには「事業者・市民のつとめ」ということで、再生可能エネルギー由来の電気を使う事が新たに盛り込まれています。盛り込んだからには、私たちも情報発信をしていくべきですし、使うことの意義もお伝えしないといけません。ですので、新しくそういったご紹介も積極的に取り組んで行こうと思っているところです。
 
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「未来への責任」「京都の役割」「覚悟」という門川市長の思いは、私たちにも通じるところがあるでしょう。私たちは「転換点を生きる者の役割」として「未来への責任」を「覚悟」をもって負わねばならない立場にあります。
そんなとき、京都市環境政策局地球温暖化対策室の、河合さんたちの再生可能エネルギーの導入に向けた様々な取り組みは、大きな助けになるに違いありません。
消費者という立場を、気候変動問題を解決する力として活用する。
「使う」という発想に基づいた様々な取り組みは、私たち一人ひとりに「まだ気候変動問題に対して出来ることがあるのだ」ということを教えてくれます。
 
安定した、平和な未来のために、私たちはどう変わっていくべきなのか。
京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー最終回となる次回では、京都市の再生可能エネルギー導入率や私たちのライフスタイルについて、河合さんより引き続きお話を伺います。
 

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<次回記事>
気候変動問題に挑む京都市の取り組み――京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー〈第3回〉(7月22日)

 

   

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掲載日: 2021.07.13

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