持続可能なライフスタイルへ切り替える――京都市環境政策局地球温暖化対策室インタビュー〈第3回〉

京都市地球温暖化対策室の河合 要子さんと松浦 真奈さん

 
気候変動問題は特定の誰かに責任があって、何かをやめれば即座に解決する問題ではありません。私たち地球に生きる人類全員に少しずつ責任があって、全員が生き方を変えることを求められる、そういった性質を持っています。
安定した、平和な未来のために、私たちはどう変わっていくべきなのか。
私たちは未来のために何が出来るのか。
京都市環境政策局地球温暖化対策室 エネルギー企画係長 河合 要子(かわい・ようこ)さんよりお話を伺いました。全3回のインタビュー、最終回です。
 

 
 

■京都市の再生可能エネルギー事情

 

 
――これまで気候変動問題の現状と、それに対する河合さんたちの試みを聞かせていただきました。ここから、私たちの未来についてお話を伺っていきたいと思うのですが、まず前提として京都市の再生可能エネルギーの割合は今どれくらいなのでしょう?
 
河合要子さん(以下、河合):まず設備導入のお話からさせていただきますと、2010年度と比較して再生可能エネルギー設備の導入量は5倍に増えています。京都の一番ポテンシャルのある再生可能エネルギーは太陽光ですが、太陽光発電だけに限るならば12.3倍に増えました。
 
全体で5倍、太陽光発電だけに限ると12.3倍ということで、ちょっと聞いただけでは問題なく増えているように感じられるかもしれませんが、実はまだまだ足りない状況にあります。
 
現在、京都市内で使われている再生可能エネルギー由来の電気の比率は約18%。そして、2021年から2030年までにこの消費電力に占める再生可能エネルギーの比率を35%以上にしようとしています。現在は18%程度のところを、2030年までに35%以上に持っていき、そのペースで導入を進められれば2050年までにCO2排出量が正味ゼロという目標を達成できる、というようなシナリオを書いています。
なので、これからです。
 
――勝負の10年になっていくわけですね。
 
河合:そうですね。「行動の10年」とよく言われます。
 
――この消費電力に占める再生可能エネルギー比率35%が目標になっていくわけですか。
 
河合:細かいんですが、まず母数の部分、総消費電力量については18%以上省エネしようとしています。18%以上省エネをして、母数を減らしたうえで再生可能エネルギーの比率を35%以上に持っていくことができれば、双方の数字がかなり効いてくると予測しています。
 

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■「脱炭素のライフスタイル」

 
――では、その「行動の10年」、私たちはCO2排出量実質ゼロという社会に向けて、私たち自身の生活を変えていかなければいけないように思います。私たちのライフスタイルは、いったいどういったものへと変化していくのでしょうか?
 
河合:そうですね。使う電気を再生可能エネルギー由来のものにした上で、移動手段である自動車が、ガソリンなどの燃料によるものではなく電気自動車、EVへと変更されていくでしょう。また、個人での交通手段は公共交通や自転車というような、環境負荷の少ない手段へとどんどん切り変えていくことになると思います。
 
あとは食べる物も、出来るだけ地域でとれたものを地域で消費する、地産地消が中心になっていくかもしれませんね。というのは、遠くから運ばれてくる食べ物は、運ぶのにエネルギーを必要とします。地域のものを地域で消費することによって、その移動にかかるエネルギーもCO2も減らすことができます。
 
あとはお肉を食べることを控えることでしょうか。ちょっと言い方は変ですが「赤いお肉」の食べる量を控えます。牛一頭と、同じだけの栄養素がとれる大豆を食べるのでは、それを育てて食べるまでにかかるエネルギーが全然違うんですね。大豆のほうがずっと少ない。そういったことを含めて、「脱炭素のライフスタイル」と呼ぶんです。
 
――「脱炭素のライフスタイル」ですか。
 
河合:ええ。生活の行動一つ一つにどれだけCO2の排出があって、この選択をしたらCO2はこれだけ出る、こちらの選択をしたらこれだけ出る、という選択肢をどんどん提示していくんですが、これから京都市も取り組んでいきたいな、と考えています。
 
ちょっと古いかもしれませんが「地球何個ぶんの暮らし」って聞かれたことはありますか?地球資源は限りがある中で、回復できるものは回復し続けているわけですが、消費した分がこの回復する分と釣り合っている状況を、「持続可能な状況」と呼びます。これが地球1個分の暮らしですね。
 
京都市民の暮らしは、日本平均よりは小さいですが、それでも地球2個分の暮らしになっています。それだけ資源を沢山使っている状況にあるんですね。これを1個分にするのが持続可能な暮らし、「脱炭素のライフスタイル」なんですけど、そういった生活をするための選択肢を、私たちももっと出していきたいと思っています。
 

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■日本の気候変動問題対策への障害は?

 
――日本ではそういった脱炭素型の生活への切り替えがどうもうまくいってない印象がありますが、原因は何でしょう?
 
河合:これは本当に日本の人たちも世界の人たちも「何でなんだろう」と疑問に思っているようです。世界と日本で気候変動問題に関して感じることがほぼ真逆なんですね。
 
気候変動というものに対する認識として、そもそも「問題だ」と感じる人の割合も逆転していますし、その対策に対する考え方もやはり、日本では「生活の質を脅かす」、海外の方は「生活の質をたかめる」という真逆のものになっています。気候変動問題対策、CO2を出さない政策に対する歓迎の度合いが全く違うんです。
 
ここに起因するやりにくさは正直あると思うんですが、こうした価値観は変えていかないといけません。やはり「義務」や「負担」、「エレベーターを使うのを我慢する」とかではなく、再生可能エネルギーを使って地球温暖化対策をすることで、地域の魅力が向上する、自分の生活の質が向上する、といったイメージに置き換えていかなければならない、と考えています。
 
――それこそ、新しい生活は「面倒」ではなく、「わくわくする」というようなイメージが必要なのかもしれませんね。
 

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■最初の一歩を踏み出すために

 

 
――例えば私が今から脱炭素の生活をしてみようか、と思って京都市に相談した場合、どういった支援をしてもらえますか?
 
河合:本当にご紹介しきれないほど様々な施策がありますが、やはりまずは再生可能エネルギー由来電気の共同購入、「EE電(いいでん)」ですね。この取り組みのポイントは、供給される電気の再生可能エネルギーの比率が100%じゃなくて35%であるところなんです。100%再生可能エネルギー由来の電気をいきなり買うのは高くて無理だという方でも、35%の「EE電」ならば価格もお安くすみますし、再生可能エネルギーの比率も現在の18%と比べても倍になります。そういった、何かちょっとでも取り組みたい人が一歩踏み出すための施策、というところをまずはご用意をさせていただいているところです。
 
――こういった「最初のチャレンジ」を始めるときに、どこを見るのがオススメですか?
 
河合:地球温暖化対策室のホームページをぜひ見てください。ちょっと分かりにくかったんですけど最近だいぶ見やすくなりました。
 
――こうしたライフスタイルについて、学生のうちから学ぶことは出来るのでしょうか?
 
河合:京都市は、小学生の間に行う「エコライフチャレンジ」をはじめ、環境教育を結構しっかりやっています。ただ、これは個人的な問題意識ですが、中学、高校、大学でぽっかり抜けてしまうんです。ここをどうつなげていけるかは課題かな、と考えています。
 
 

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■寺院に出来る協力は?

 

再エネ100宣言REAction 仏教教団関係者向け特別研究会の様子

 
 
――寺院が気候変動問題対策に協力していきたいと考えたとき、どんなことが出来ますか?
 
河合:これは繰り返しになってしまうんですが、『京都議定書』誕生の地、そして宗教都市、京都。これは何処にも真似が出来ない特殊性だと思うんですね。『京都議定書』誕生の地であり宗教都市である京都で、寺院と自治体が一緒になって気候変動対策に取り組んでいる、その社会的発信力はとても大きいものがあります。
 
気候変動問題というのは京都だけで解決できる問題ではありません。非常に様々なところへ広く影響する問題ですので、あらゆる地域で積み上げていかなければ、みんなで解決しなければ意味がない問題です。京都や特定の地域だけが目標を達成しても、意味が無いんですね。
 
ですが、京都には他の地域へ影響を与えるインパクトというか、力があるんじゃないかなと思っています。宗教都市京都ということもありますし、仏教寺院の皆様と一緒に行動できるのならば、それはとても心強いと思います。
 
また、個々の寺院でできることをあげさせていただくなら、「防災」と「環境」がキーワードになると思っています。地域の防災力の向上、例えば寺院の屋根に太陽光パネルが設置されていれば、停電した時に地域に電気を提供できるということ+日常的な気候変動対策として太陽光パネルを活用するという二つの役割を同時に担えると思うんですね。
 
気候変動対策は確かに非常に重要です。ですが、同時にそれ以外のメリットもあると思いますし、あっていいとも思います。この場合は気候変動問題と災害に対するレジリエンス(しなやかな対応力)ですね。そういった面でも協力させていただければ、と思います。
 
――例えば、「ご門徒へ話をしたいんだけど、私だとうまく話しきれないので、講演をしていただけないか」というようなことを依頼することは可能ですか?
 
河合:京都市内でしたら喜んで行かせていただきます。とくに「EE電」は、ご高齢の方のみならず、社会的弱者と言われるような方への生活支援としてお役に立てるんじゃないかと考えています。というのは、この「EE電」は平均的な4人家族で活用した場合、年間で1万円弱ほど電気代が安くなるプランが提供されています。意外に馬鹿にならない金額ですよね。
私、以前は福祉事務所に勤務しておりまして、生活保護のケースワーカーをしていたんです。なので、光熱水費の支出を減らせるのは生活支援のひとつになるんではないかな、と。
 
収入も大事ですけど、出ていくお金を無理なく減らすことも大切だと思うんですね。ご高齢の方に限らず、生活に困られている方に対して「少し面倒かもしれないけど、手伝うからEE電はじめてみない?」と勧めてみてくださっても良いかもしれません。
 

小学校での授業の様子(エネルギーとSDGs)

 
 
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気候変動対策のために生活を変える、というのは正直に言えばあまり気が進む話ではないのかもしれません。もっと言えば、聞くだけで「うーん、今日からじゃなくてもいいかな」という心がむくむくとわいてきそうな話でもあります。
それだけ私たちは今の暮らしを愛しているのかもしれません。ですが、そんな心の積み重ねが、今の状況を作り、そして未来の可能性を摘み取り続けているのだとしたら。
 
 

久遠劫(くおんごう)よりいままで流転(るてん)せる苦悩の旧里(きゅうり)はすてがたく、いまだ生れざる安養浄土はこひしからず候こと、まことによくよく煩悩の興盛(こうじょう)に候ふにこそ。(『浄土真宗聖典 註釈版 第二版』八三七頁)

 
 
と『歎異抄』にあるように、私たちは悪いと分かっていてもそこから急に離れられるようには出来ていないのかもしれません。
「気候変動問題への対策は「義務」や「負担」ではありません」とお話しされる河合さん。
新しい生活へ飛び込むべき時が来ているのかもしれません。未来のために、そして何よりも私たち自身のために。まず、知ることからでもはじめてみませんか?
 

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掲載日: 2021.07.22

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