気候変動問題と宗教の役割|地球環境戦略研究機関インタビュー②<後編>

――ありがとうございます。最後に、一度ここで皆さんから他力本願ネットの読者へメッセージをいただければ。
 
小嶋:気候変動は、私たちが越えてはいけない制約の存在を示唆している点と、世界全体で取り組まなければ解決できないという2つの点で、とても難しいと同時に人類が次の段階に進むうえで避けられない問題なのだと思います。本来、人間はいろいろな制約の範囲内で工夫して暮らしてきたのだと思います。制約なしの無制限ルールよりも、制約ありきですべての人が幸せになれるルールを良しとするような価値観を模索することが重要ですので、皆さんにもぜひ一緒に考えていただけると嬉しいです。
 
渡部:気候変動は、世界中で今生きている人々、これから生まれてくる人々、誰にとっても命に関わる大きな課題です。この大きな課題には、私たちの毎日の暮らしが大きく関わっています。私たちの暮らしを支えるものやサービスを作るとき、運ぶとき、使うときや使い終わった後に、たくさんのCO2が出るためです。
 
CO2の排出を大幅に減らす方法を、世界中の国や大企業が考えて取り入れ始めています。私たちも、毎日の暮らし方、すなわち、移動したり、食事をしたり、部屋を快適にしたりする方法を見直すことで、CO2を減らすことができます。まずは、自分の暮らしに必要なものやサービスが、どこで、どんな風に作られたものなのか、関心を持っていただければ幸いです。そのうえで、たとえば、食べ物を安いからというだけで選ぶのでなく、地域でできた旬の物を楽しむといったことを試し、その経験を家族やご近所、職場などで共有していただければと思います。
 
杉原:人間は地球の一部であり、地球の健やかさと人間のそれは同義です。他方で、社会のあり方が人間の意思や選択、人間を含めた地球の持続可能性を大きく左右しています。地球と社会の一部として、科学的知見と良心を大切にしながら、社会が望ましい姿に近づくよう、一緒に日々の消費や行動で意思表示をしていきましょう。
 

1.5℃ライフスタイルを子ども向けに解説する書籍も監修した(写真提供:IGES)

 

編集後記

 
これまでの、ただ「目の前の安いものを手に取り、消費していく」という私たちの安易な欲望そのものが呼び込んだ気候変動問題とのこと。それは裏を返せば、私たちがその欲望を知り、それとどのように付き合っていくのかによって未来は変わる、ということと受け止めました。
 
欲望に流されるままに多くの生命を踏みつけにしてこの人生を終わるのか、それとも欲望を知ってそれらとうまく付き合い、乗り越えていくのか。
出家前夜のお釈迦さまも同じ悩みを持たれていたのでしょうか。
気候変動問題を通して、こうした命題が私たちに突き付けられているのかもしれません。
 

プロフィール

 

小嶋 公史
小嶋 公史 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センタープログラムディレクター・気候変動とエネルギー領域 上席研究員
1994年よりコンサルティング技師として政府開発援助プロジェクトに従事。英国ヨーク大学環境学部で博士号取得後、2005年より現職。主に東アジア地域の持続可能な開発に関する定量的政策分析に従事。専門は環境経済学、環境・開発政策評価。1.5℃ライフスタイルを子ども向けに解説する書籍も監修。

 

渡部 厚志
渡部 厚志 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)持続可能な消費と生産領域 プログラムディレクター
福島原発事故後の生活再建に関する調査等に従事した後、国連持続可能な消費と生産10年計画枠組み「持続可能なライフスタイル及び教育プログラム」の運営を担当。安全・安心で持続可能な生活環境の構築を目指すコミュニティや都市の活動を支援する。1.5℃ライフスタイルを子ども向けに解説する書籍も監修。

 

杉原 理恵
杉原 理恵 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)広報・コミュニケーション シニアプログラムオフィサー
2018年より現職。環境・持続可能性に関する情報発信に従事。小嶋、渡部とともに、私たちの日常生活が気候変動に与える影響や持続可能な未来のためにできる行動を示した児童向け書籍『はかって、へらそうCO2 1.5℃大作戦』(さ・え・ら書房)を監修した。
   

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掲載日: 2021.10.02

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