ひとりで老病死を抱える人に、どう寄り添うのか|せいざん株式会社インタビュー③
葬儀に関する困りごとを抱えた人を数多く受け入れてきた、せいざん株式会社の事業。前回は、どういった相談が最も多いのかをお話いただいた。今回は、頼れる親族や知り合いもなく、一人で死を迎えていこうとする人に寄り添う「弔い委任」という取り組みなどについてお話を伺う。
葬儀の現場で。「知らない人」が損しないために|せいざん株式会社インタビュー①
ひとりで老病死を抱える人に寄り添う「弔い委任」事業
ーー立ち上げの経緯や、社会的背景について教えていただけますか?
池邊:私自身、人が亡くなられていくパーソナルな現場にずっと立ち会って、いろいろと相談をいただくなかで、やっぱり死っていうのが本当に人間に与えられた価値観を揺さぶられる最後の大きなタイミングだと思うんですよね。
ーーそうですよね、本人にとっても家族にとっても。
池邊:そうですね。そのタイミングで、できるだけ良い価値を提供することによって、ご家族など送った側の人生もより良くなればと思っているんです。そして、お一人で亡くなっていかれる方も、生前に自分の死後のことをきちんと準備をして安心することができれば、より良く生きることができるんじゃないだろうか、と思ったことがこの取り組みの大前提です。
ーーより良い最期は何か、考えていくことが現在の「生」に深く関係しているということですね。
池邊:高齢者白書( 平成29年版高齢社会白書(全体版)では、自分の体に何かあったときに頼りたいと思う相手はいるかという質問に60歳以上の男性の2人に1人は「いいえ」と答えているんです。
ーー2人に1人ですか?多いですね。
池邊:女性でも3割くらいが「いない」と答えていらっしゃいます。高齢化していくことによって、周りも亡くなっていくし、仕事をやめたり商売をたたんだり、子どもも巣立っていくというなかで、自然と人が周りからいなくなっていくんですね。
ーー突然じゃなくて、自然と。
池邊:はい。そうすると、頼り合いの関係性もどんどん薄くなってきて、自分の死について漠然と不安があったり、体が動かなくなったらどうしようと思っても「助けてね!」とは言えないんです。
私たちの元に寄せられる相談も、「自分の葬儀のことで」という内容は年々増えています。
ーーそれはどういう経緯でご相談してこられるんですか? 突然相談の電話が入るんですか?
池邊:運営している青山霊廟(納骨堂)へ相談などから「実は私は一人で……」とか「誰も頼る人がいないんです」といったお話になることが多いですかね。
そういった縁ある方々に対して、なにかしてあげられることはないだろうかと。体や生活のことで困ったことがあれば駆けつけたいし、亡くなられたときには納骨もしてあげたい。でもコンプライアンスの問題で、なかなか自由にそういうことができない状態だったんです。
ーーあとから問題になっても困りますしね。
池邊:なにかしら契約書がないと、家族のかわりにはなれないですからね。
いろいろとお話もして、関係を築いてきた方なのに、いざというときに動けないのは、さみしいねという思いが募るなか、会社が年数を重ねるなかで納骨堂の契約者さんのご年齢も上がってきて、お一人様の問題がどんどん深刻になってきたんです。
ーーたとえば、契約当時は70歳だったのが、今は80歳になっていらっしゃる、ということですよね。
池邊:はい。平均寿命にもかかってきますし、75歳をこえたら認知症発症率も上がってきます。お元気なときに私たちにご相談くださって、こちらがいろいろ把握していることがあっても、いざというときに「こんなこと言っておられましたよ」とか伝えても、親族がはねのけたらそれでおわりですからね。
ーーそれで、きちんと関わることのできる仕組みを模索されたんですね。
池邊:はい。司法書士さんとかいろんな方に相談するなかで、信託預かりが一番安全かつ契約書ベースでやれるんじゃないかという話になりました。
これはもう全く儲けは出ないですし、やればやるほど赤字の事業なんです。本当は国や自治体がやるべきことですから。でも、実際に困っている方がいらっしゃるんだから、やるべきだろうと。
協力してくださる一般社団や団体が、それぞれ得意分野を生かして少しだけ収益を上げながら持続していければ、と思っています。それが弔い委任事業のはじまりでした。