「死にたい」に寄り添うだけではだめだった 葬儀会社のYouTube│佐藤葬祭<前編>
「遺体が生き返ることがある?」
「幽霊はいる?」
「火葬中ってどんな状態?」
2015年からこうした疑問に答えるYouTubeチャンネルがあります。その名も「葬儀葬式ch有限会社佐藤葬祭」。第一回の投稿から5年以上続く、葬儀会社佐藤葬祭が運営するYouTubeチャンネルです。
今回は葬儀やそれにまつわる情報の発信を続けられている有限会社佐藤葬祭 代表取締役 佐藤信顕(さとうのぶあき)さんに、葬儀の現状や、日々寄せられる相談に対するご自身の姿勢などについてお話を伺いました。
佐藤信顕さん(佐藤さんのSNSより)
葬儀の昔と今
――まず、有限会社佐藤葬祭の歴史についてお話いただけますか?
佐藤信顕さん(以下:佐藤):佐藤葬祭は昭和5年に祖父が葬儀会社を買収したことが始まりです。父が2代目で、僕は3代目。当時やっていたことは葬儀会社というより葬祭用具製造販売が正しいかもしれません。昔は都内の葬儀会社さんに棺を売ったり位牌を作ったりしていました。戦後、葬儀ができる社会になってから、今のようなかたちになったように思います。
――7歳の頃から葬儀のお手伝いをされていると伺いましたが、その頃から葬儀のお仕事に就かれることを考えておられたのでしょうか?
佐藤:そこはお坊さんと似ているかもしれません。直接継げと言われたわけではなくても周りの圧力があったというか。継がないと現実的にきついなと思いました。さらにうちには高額の借金があり、それは仮にサラリーマンをやっても簡単に返せる額じゃなかったんですよ。じゃあもう葬儀会社として商売をやるしかない、と思って。そののち父も早くに亡くなったので、20歳そこそこで会社を引き継ぐことになりました。
――葬儀会社を継がれる以外にほぼ選択肢がないような状況だった、ということですね。そんな佐藤さんが携わり始めた頃の葬儀と今の葬儀に違いはありますか?
佐藤:携わり始めた当初は、半分くらいが自宅での葬儀でしたね。あの頃は故人の自宅に行って葬儀をあつらえるのが葬儀会社の仕事でした。
自宅での葬儀が中心だった頃は、どの宗派でもお経が始まったらすぐお焼香を早く終わらせようという風潮がありました。スムーズではありましたが、荒っぽい時代でもあったんです。その頃に比べれば葬儀は丁寧にされるようになったと言えると思います。
――当時はいわゆる家族葬はあまり行われていなかったのでしょうか?
佐藤:一応説明しておくと、家族葬というのは1990年代にとある葬儀業界誌の編集長たちが使っていた言葉なんです。会葬とかではなく、家族だけのあたたかい葬儀というイメージ。当時の家族葬の対象は、主に無宗教層が想定されていました。仏様の前に祭壇を建てて大々的に行うのではなく、家族やそれに近しい人たちだけで立派な葬儀をしましょうということです。要するに、大人数の大掛かりな葬儀ではなく、少人数でもお金をかけて葬儀をしてください、というコンセプトで始まった取り組みだったんです。それをある会社が、家族葬は安くできるという広告を出したことをきっかけに流行したんです。
――家族葬自体はお金の問題ではなく葬儀をどこまでの範囲の人に知らせるかという概念なんですね。
佐藤:その概念通りの家族葬が増えたのではなく、不景気によって知らせる範囲が狭まり、知らせる人が減ったことが背景にあるという見方もできます。家族葬は社会現象のように思われてしまうんですけど、実は商売戦略によって成り立ち、経済状況によって加速した背景があったんですよ。
――家族葬にはそんな背景があったんですね。
では、昔と今の葬儀を比較したときに、現代の葬儀にはどんな問題点があると思われますか?
佐藤:傷ついた感情を優先する方向性になりましたね。それはメリットでもあるんですが、昔は平均寿命が今より短くて、死が身近だったぶん、みんなたくましかったんです。その頃に比べると、今は死に対してナイーブになったと思います。昔は家族が亡くなったとき、周りの人は「頑張れ」と言って励ましていました。今は「頑張れ」という言葉はグリーフケアの観点では望ましくないとされていますよね。
――医療も発達し、交通事故も減少したことによって、現代は一つ一つの生が大切にされるようになった反面、死への耐性がなくなってきたのかもしれませんね。
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