あわてずゆっくり、地域の人に喜ばれるお寺をつくる|ヘルシーテンプル構想

地域のために何かをしたい、寺院をもっと活用したい……そんな想いはあってもどうしたらいいかわからず、実行に移せない。そんな寺院も多いのではないでしょうか。
 
各分野の専門家と共同で制作したプログラムを元に、寺院から地域の健康を促す仕組みを考える「ヘルシーテンプル構想」が動き始めました。「お寺でできる100のこと」、今回はイベントレポートをお届けします。
 

 
2019年11月25日(月)、東京都内で寺子屋學シンポジウム2019秋「ヘルシーテンプル宣言!」と題した、地域の健康に貢献する寺院の姿をより具体的に模索するイベントが催されました。僧侶・医療者・スポーツメーカー等の連携を通して地域の健康を促進していく企画「ヘルシーテンプル構想」。その一部を紹介します。
 
主催は、一般社団法人 寺子屋ブッダ。「宗派を超えた僧侶と、様々な職業の市民が協同し、お寺をもっともっと、身近で、楽しくて、温かい場所にすることで、”ひと”や”まち”を元気にする。お寺と市民の新しい関係づくり」を追求し、様々な企画やお寺や地域との連携に取り組まれています。
 

代表の松村和順(まつむら かずのり)さんは、今回のヘルシーテンプル構想について
「少子高齢化によって、公助が期待できなくなってきた昨今、心身の健康を保つためには自助と共助が欠かせない。その両面において、古来より地域に根付いてきたお寺が貢献できるのではないかと考え、今回の開催に至った」と開催の経緯を話されました。
 

【イベント概要】

●第1部:対談「健康と習慣とお寺」
松本紹圭さん(未来の住職塾塾長)×川野泰周さん(横浜市 臨済宗建長寺派 林香寺住職、精神科・心療内科医)
●第2部:体験「心と体の健康塾」モデル講義
井上広法(宇都宮市 浄土宗光琳寺 副住職 )
佐々木教道(勝浦市 日蓮宗 妙海寺住職)
ミズノ株式会社
前野マドカ・岡本直子(慶應義塾大学大学院SDM研究所)
●第3部:座談会「お寺が地域の健康拠点になるメリットとは?」地域目線&お寺目線で考える
石井洋介(山手台クリニック院長/秋葉原内科saveクリニック共同代表/SHIP運営代表/日本うんこ学会会長/高知医療再生機構特任医師)
倉島隆行(全日本仏教青年会第21代理事長/三重県津市 曹洞宗 四天王寺住職)
佐々木教道(勝浦市 日蓮宗 妙海寺住職)
井上広法(宇都宮市 浄土宗光琳寺 副住職 )
古谷紳太郎(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 特別研究員)

 

第1部「健康と習慣とお寺」

 
松本紹圭さん(浄土真宗本願寺派僧侶/未来の住職塾塾長)× 川野泰周さん(横浜市 臨済宗建長寺派 林香寺住職/RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長/一社)が登壇。まずは、「健康ってなに?」というトークが始まりました。
 
精神科医の川野さんは、診察や検査で数値に現れなくても、患者さんは苦しみを感じることがあると話します。
 
WHO(世界保健機関)憲章の定義によると、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

 

松本さん:私は健康とは、「苦しまない」、「安心な状態」だと思います。well-beingが大切だと思う。仏教でいえば安心(あんじん)が近いのではないでしょうか。
 
川野さん:精神医学の場面でも、こうあるべきという理想と現実との乖離が大きいと不安が大きくなる。「安心」は「こうあるべき」という凝り固まった考え方を柔軟にする東洋的な思想だと思います。
健康も、地域におけるお寺も、習慣の積み重ねがとても大切です。日々のあり方を疎かにしないことが大切。そのために、健康の習慣づくりをお寺で行うことは有意義ではないでしょうか。
 
松本さん:私も日常生活を整えることが大事だと思い、「テンプルモーニング」という、掃除の催しをお寺で行っています。ある僧侶の方から「戒とは習慣である」と教えられ、「お寺は良き習慣の道場である」という私なりの結論に至りました。
 
テンプルモーニングという、掃除の催しをお寺で行っておられる松本さんは、「自分自身の心を整える役割もある。また、仲間と一緒に掃除をする経験が、つながりの実感をもつようになる」と話されました。
 

松本さん:「伝える事から、つながること」と思っています。お寺が教えを伝えることだけに集中するのではなく、長い時間軸で人々とつながっていくことが大事ですね。
 
そして、そこには宗教を問わず多様な方々が集い、掃除をすることで、ともにお寺を尊重できる。ローマ法王が仰るように、宗教を超えたつながりをつくることが大事だと思います。また、うわべだけではないつながりを作る場が重要ではないでしょうか。
 
他にも、「ポストレリジョン」「レリジョン(唯一の正しさへの依存心)のネガティブな側面」「習慣化って何?」「お寺の強みとは?」など、僧侶視点で聞いてみたいトピックが盛りだくさんでした。
 

第2部:体験「心と体の健康塾」モデル講義

 
つづけて第2部では、井上広法さん(宇都宮市 浄土宗光琳寺 副住職)・佐々木教道さん(勝浦市 日蓮宗妙海寺 住職)を講師に迎え、「心と体の健康塾」の専門家による解説と講義が行われました。
 

<プログラム紹介>

川野泰周(横浜市 臨済宗建長寺派 林香寺住職、精神科・心療内科医)
 
「介護保険制度などの公的支援が破綻しつつあるため、自身で健康習慣を身に着けて健康寿命を延伸することが重要となります」と話す川野さん。
 

これを踏まえ、川野さんは習慣の重要性を改めて話されました。
「医学は病気になってから治療をする行為だが、日頃の習慣を変えることの方が大切。私たちはより良く生きるための道場としてお寺を活かしたいと考えて『ヘルシーテンプル構想』を考えました。」
 
川野さんはお寺だからこそ提供できる場の価値があると言われます。
「①心と体を調える智慧(生活習慣)を提供する場、②安心できる場、③良き人との繋がりができる場の三つだと考え、それらを心と体の健康につなげたいと思っている。」
 

<日常動作(ADL)に必要な運動>

続けて、ミズノ株式会社からご説明をいただきました。
 
ミズノ株式会社は、110年にわたってアスリートのサポートを続けてきたスポーツ企業として、高齢者の方が「病気にならずに健康寿命をのばす」ことをサポートしていきたいと考えておられます。
 
ミズノが提供するプログラムは、健康づくりを目的とした楽しく安全な運動指導が特徴となっている「ミズノアクティブリーダー講習会」です。
 
具体的には、日常生活動作(ADL)に必要な筋肉の強化や関節の柔軟性低下といった高齢者に現れがちな体の変化を防ぐための筋トレ・ストレッチの指導を習得する内容となっています。
 

<心をほぐすマインドフルネス瞑想について>

解説:川野泰周 指導:井上広法
 
このプログラムでは、川野さんと井上さんがマインドフルネス瞑想についてレクチャー。川野さんによると、ストレスが自律神経系を乱し、全身の不調を引き起こす中、マインドフルネス瞑想は「うつ」の再発予防にも有効性が示されるのだそう(『PREVENT study』Kuykenら2015より)。
 
川野さん:マインドフルネスで育まれるのは、気づき(外からのものと内からものに自在に注意を向けられること)と、受容(ありのままを受け入れること)の心です。
 
Doing 「する」でなく、Being 「あるがまま」、ここにいることを感じることがマインドフルネス瞑想です。
 
井上さん:マインドフルネスの定義は、たくさんありますが僕が思っているのは、「今の瞬間の現実に常に気づきを向け、その現実をあるがままに自覚し、それに対する思考や判断には囚われないでいる状態」のことですね。
何かを能動的に「する」のではなく、「あるがまま」に感じ取る。今の現実を丁寧にすごし、受け入れ、とらわれない。お寺をきっかけにそんな生き方が出来れば素敵です。
 

<幸福度が高まる茶話会について>

前野マドカ・岡本直子(慶應義塾大学大学院SDM研究所)
 
プログラムの心の部分を担当された、幸福学を研究されている前野隆司(慶應義塾大学大学院SDM研究科教授)さんは、ビデオメッセージにて「仏教は幸せになるための教えだと思っています。お寺というのは元々、人々が幸せに健やかに健康になるための場所だったので、今後の活動に期待しています!」と話されました。
 
前野マドカさん:長続きしない幸せは、他人と比較できる地位財(金、物、地位)で、人比べられるものとは長続きしないということを覚えておいてください。長続きする幸せは、他人と比較できない非地位財(安心、健康、心)によると言われています。
 

前野さん、岡本さんは、幸福度とハピネスワークショップについてこんなことをお話しくださいました。
 
「『幸せのメカニズム※』のポイントですが、心による幸せには、4つの因子があることが学術的に証明されています。
 
『1.自己実現と成長(やってみよう)、2.つながりと感謝(ありがとう)、3.まえむきと楽観(なんとかなる)、4.独立と自分らしさ(ありのままに)』
※『幸せのメカニズム』前野隆司著 講談社現代新書」
 
1.~4.を高めるために、ハピネスワークショップ茶話会のノウハウをお寺に提供しています。
 
通常の茶話会との違いは、「①3人1組のワークスタイルであり、一人ひとりの発言の機会を作ることができる。②テーマやルールが決まっているため話やすい。「幸せ」をテーマに話すので、感情を出しやすい。③世代間のギャップを埋めることができる。」等があり、アンケートを実施すると、ハッピーワークショップ茶話会後には、幸福度が上昇する結果が見られています。」
 
解説後には、実際にハピネスワークショップ茶話会を実施。「最近、身近にあったありがとう」を語り合いました。
あらためて振り返ると、日常の中で「ありがとう」を意識する機会はあまりありませんが、「ありがとう」を思い返すと心が少しあたたかくなりました。
無意識に見過ごしていた「ありがとう」を意識化することで、幸福の実感につながるのではないでしょうか。
 
日常の中で簡単に取り組めて効果的な「ありがとう」の振り返りを、今後も実践してみたいと感じさせられるワークショップでした。

 

第3部「お寺が地域の健康拠点になるメリットとは?」

 
地域目線&お寺目線で考える座談会
 
●石井 洋介(山手台クリニック院長/秋葉原内科saveクリニック共同代表/SHIP運営代表/日本うんこ学会会長/高知医療再生機構特任医師)
●倉島隆行(津市 曹洞宗 四天王寺住職/全日本仏教青年会第21代理事長)
●井上広法(宇都宮市 浄土宗光琳寺 副住職)
●佐々木教道(勝浦市 日蓮宗 妙海寺住職)
●古谷紳太郎(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 特別研究員/NPO法人ZESDAシニアプロデューサー)

 
まずは、地域のヘルスケアの現場で今直面している課題と、お寺でできることを各々の立場から話されました。
 

石井さん:医療の課題は、患者さんに薬を処方したり、健康に関するアドバイスはできても、患者さんがそれらを実行するところまでは積極的に関われていないことです。
また、医師は生老病死のタイムラインの「病」以外に関わりづらい。亡くなる直前までは頑張っても、そのあとはどうすることもできないんです。
 
互助については、そもそも地域の受け入れる側の準備ができていないこともあるので、それらの部分を寺院に担ってほしいですね。
 
井上さん:定期的に自宅へ訪問できるのは、僧侶ならではかもしれません。たとえば門徒さん(檀家さん)のご自宅に伺った際に「ご飯召し上がりました?」といった何気ない会話で認知症を発見し、ご家族や医師にお伝えすることもできますよね。
 
倉島さん:しかし、お寺は医療関係者とのパイプが乏しく、どこに相談してよいかわからないのが実情だと思う。
 
石井さん:まずは地域の身近な保健師(看護師)とつながっていくと面白いかもしれないですね。少し重い症状の場合は在宅医療の医師に相談するとよいのではないでしょうか。
反対に、医師にかかるほどではない相談事は僧侶が受けると医師の負担も軽くなります。ちょっとした相談事、便秘気味とか、頭が痛いとか。気楽にかかれる場所があるといいですよね。
 
井上さん:ヘルシーテンプル構想によって、お坊さんに「健康相談ができる」イメージを醸成できると良いですね。
 

ーーみなさんのお寺で「心と体の健康塾」を実際に展開しての声。

 
佐々木さん:人口が1万7千人の過疎の町に住んでいます。高齢の檀家さんはひとりで食事をしている方が多いので、月1回お寺で合同ランチ会を行っています。初回から20人が集まり、今は口コミで広がっている感じですね。2週間に1回みんなが集まると、檀家さんの状況がわかり、コミュニケーションは増えました。
 
井上さん:私のお寺は人口50万人規模の栃木県宇都宮市にあるが、ドーナツ化現象が起こっている地域でもあります。最近、孤独死も発生してしまいました。
お寺では、毎月1日の6時半からラジオ体操等様々な取り組みを通じて地域のつながりを持てる場をつくろうとしています。
 
石井さん:病気になったとき(非日常)ではなく、日常の近いところに医療を考える時間があるとよいですよね。たとえば足湯のように、病気じゃなくても集う場があれば⋯⋯。しかし現実は病院というのはマイナス(病気)をゼロにするイメージで捉えられてしまっています。一方、お寺にはプラスの、より生活が豊かになるイメージを感じます。日常のコネクションを作り続ける場所でしょうか。
 

 

ーー維持するための活動資金をどう集めていきますか?

(プログラム実施の参加費は各寺院が設定することになっています)
 
佐々木さん:私のお寺の場合は、最初はお気持ちとしてお賽銭を集めました。来る人が無理しない金額で。今後も、お寺の活動をご理解、ご支援いただけると信じています。
 
井上さん:私のお寺ではラジオ体操のイベントでお賽銭を集めたが、経費と比べて全然足りませんでした。そこで、お寺が様々な社会貢献していることを檀家さん(門徒さん)に伝えて振り込み用紙を配ったら、50万円もの寄付が集まったこともありましたね。また、財団等からもご支援をいただいています。財源を特定せず、様々なところを頼ることで成り立っていますね。
 
倉島さん:私のお寺は、宗教法人と切り分けて、株式会社をつくって社会貢献事業を行っています。社会貢献することで得られる収益は、ちゃんといただいていいんだ、と専門家に教えてもらったことが影響しています。
 
石井さん:お金の問題も切実ですね。地域医療の世界でも、無償の善意で24時間を頑張らなくてはいけないという空気があるが、持続していくためには現実的なあり方へと転換していかなければならない。また、地域包括ケアはそれぞれの地域にあったあり方を模索していく必要がある。ただ、それをどうやって模索するかは提供されていないので、お坊さんから言ってもらえるといいですね。
 
地域が抱えている課題をお寺の機能によって解決に導くための、具体的な方法を提示してもらった座談会でした。
 

編集後記

 
ヘルシーテンプル構想、いかがでしょうか?
地域のお寺から、地域の健康を提供していくプログラム。松村さん「これをお坊さんに学んでもらい、実施してもらいたいと思っています。そしてこれを、お寺だけでやるのではなく、地域のサポーター、地域のパートナー(地域のお医者さんとか)に広げてもらいたいです。」と今後の展開を話されました。
 
あなたのお寺も「人がイキイキ生きることをサポートするお寺」を目指してみませんか?

 

【詳細はこちら】
#寺子屋學シンポジウム2019秋[特集]地域の健康に貢献するお寺
 
<主催>
一般社団法人寺子屋ブッダ
<後援>
全日本仏教青年会
一般社団法人学び・まちづくり推進機構
全国市民大学連合会
特定非営利活動法人ライフケア協会
ミズノ株式会社
パナソニック株式会社 エコソリューションズ社
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Author

 

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掲載日: 2020.07.23

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