「震災を忘れられない人がいる」ことを大切にしたい|金沢豊さん&安部智海さんインタビュー<後編>
東日本大震災の被災地の仮設住宅を訪ね、そこで暮らす人の心の内に耳を傾ける「居室訪問」活動。「ボランティア僧侶」として活躍する金澤豊さんと安部智海さんに話を聞いた。
二人が「ボランティア僧侶」をはじめた理由|金沢豊さん&安部智海さんインタビュー<前編>
――居室訪問活動の中で、印象に残った言葉やエピソードはありますか?
金澤:「ボランティアの人はね、『忘れない』と言うのよ。わたしたちは違うの。忘れられないの」という言葉はとても印象的でした。僕たちは、単に震災のことを忘れないでいようというのでなく、「震災を忘れられない人がいる」ということを、忘れないでいることが大切ではないか、と気づかされました。
安部:僕はその言葉を聞いたとき、踏み込めない壁を感じてしまいました。「私とあなたは違うのよ」と言われてるような隔絶感を。だからこそ心配になるのですが。
金澤:訪問活動は、相手を理解しにいくのが目的ではないですから。どうしてもモヤモヤする。隔絶感は当然かもしれません。でも、それで終わりにはしたくないんです。一度訪ねた訪問先に再び訪ねると、引っ越したり病院に入院されていたり……本当に一期一会だと感じるので、いま目の前の人と全力で、悔いなく向き合いたいと思っています。
安部:それから、訪問先でよくお聞きするのは「つらいのは私だけじゃないから」という言葉ですね。自分の気持ちに蓋をして、悲しむことすらできないという。
金澤:社会全体に復興に向かう空気がある中で、「悲しんでちゃだめなんだ」と、つらいことを言えなくなってしまう方がいます。だからこそ、気持ちを大切に聞かせていただきたいと思っています。
――活動を通じてご自身の成長や変化を感じますか?
安部:そんなにないですけど……ちょっと偉そうになったかもしれません(笑)ボランティアのメンバーに指示を出すことが増えましたので。もちろんトップダウンじゃなくて、やりとりをしながらですけど。いままでそういう経験がなかったので。
金澤:僕はもともとコミュニケーションを課題に感じてきた人生でして。仏典でも、真実はなかなか言葉にできない、と説かれており、そういうところに共感していまして。でも被災地で活動をしていると、思いのほか、コミュニケーションがスムーズに感じることがあるんです。これまで、言葉は練って出さないといけないと考えていたのですが、思ったことをすっと言葉に出す、という感覚のヒントを与えられました。
――今後の課題や目標を教えてください。
安部:ボランティアがどんどん減少している現状、それまであった支えやまなざしが無くなってしまうのは本当に寂しいことで、見放されたと感じてしまうと思います。長く活動続けていくためにも、現地のスタッフだけでやっていけるグループにしていきたいですね。
金澤:仙台と比べて岩手は情報も支援者も少ないんです。厳しい状態が続いているので、仙台で得たことを移行させていきたいです。ゆくゆくは地元の人だけでやっていける、自分自身の替えがきくような活動になればよいと思います。どんなことがあってもサポートできるよう、町の中での関係づくりに取り組みたいですね。
――お二人の奮闘を描いた「ボランティア僧侶」が発刊されました。見所を教えてください。
安部:被災地の声を聞いて欲しいですね。できれば現地に行って現状を見て欲しい。それで自分に何ができるか、考えるきっかけになると思います。「あなたは何ができますか?じゃあこれしてください」ではなくて、自分の眼で見て「これをしたい」という思いが涌いてくる方がはるかにいいことだろうと。現地に行けない人も、この本を通じて現地の声を聞いて欲しいですね。
そもそも僕たちは直接被災していないし、家族を失ったわけでもありません。現地に入ったのも僕の場合、4ヶ月経ってから行っているので、生々しい状況とか遺体安置所などは見ていません。そのことならば、より辛い状況を見た体験記の方がビシビシ伝わってくるでしょう。この本においては、気持ちの動きを見て、感じていただけたらと思います。
金澤:東北沿岸部では今も苦悩が続いているし、これからも増大していきそうなのを肌で感じています。いまだ震災中、それどころか被災地の方は震災前という認識で、次の震災を恐れて過ごしておられる。なので、支援に踏み出すのに遅いも早いもないし、遠いも近いもないと思います。読者の方が、自分ならどう関われるか主体的に考えてもらえるとありがたいですね。
また、この本は珍道中というか、失敗の多い内容です。スマートじゃない。ドロドロで力がなくって、どうしようもないけど、ひとつ筋がある。仲間がいるからやっていける部分を見てもらいたいですね。僕たちの悩んでいる姿を見て、自分の人生について考えてもらいたい。生活の中で、人とのコミュニケーションのありかたを問い直すきっかけにもなるかもしれません。
安部:震災で、それまで頼りにしていた社会が一瞬で無くなってしまったわけですよね。今生(こんじょう)をつきぬけた問題、社会のさけめというか。そのときに「何で人として生まれてきたんだろう」という問いがもし生まれたら、意味のあることだと思うんです。命は大切ですよってよくいうけど、大切だと思えない人だっているわけで。「何のための人生なんだろう」というところをもし考えていただけるなら、この本としては成功していると思います。
震災を経て、確実に僕たち二人の人生は変わっています。ほんとに日本全体の問題だな、と実感しています。多かれ少なかれ、みなさんもこの震災で生活が変わっていると思うんです。「震災が投げかけてるものってなんだろう」「私にとってどういう意味があるんだろう」ってひとりひとりの問いが生まれたらと思います。
――ありがとうございました。
[i]藤丸智雄著『ボランティア僧侶 -東日本大震災 被災地の声を聴く』(同文館出版)