他者との関わり方がわからない。それでも人間は関係性に生きている|株式会社LITALICO<後編>
「なんのために働いているんだろう」
どれだけ多くの人がこの疑問を抱いたことでしょう。
自分のため、家族のため、生活のため、社会課題を解決するため、
夢をかなえるため、他にやることがないから、仕事が好きだから、生きること=働くことだから……。
どれひとつ間違ってはいないけど、ときどき本当にそれでいいんだろうか?と立ち止まりたくなる時もあります。「自分の仕事って意味があるのかな……」そんな考えが心に浮かぶとき、きっと人は自分をひとりぼっちだと感じているんじゃないでしょうか。
一方で、自分の働きが誰かの心を動かした、誰かの喜びになったと知るとき、そこには何物にも代え難い喜びが生まれます。
人は関係性のなかに生きる存在。
誰かとの関わり合いのなかで深く傷つくことも多い世の中だけど、同時に、沈みきったその心を軽やかにしてくれるのもまた誰かとの関わりだったりするんです。
社会には、いろんな事情で他者と関わりあって働くのが難しい状態の人たちがいます。
働くことに障害を持つ人を支援するLITALICO(りたりこ)ワークスの田中さんにお話を伺っています。
最終回の今回は、これからの「働く」はどう変わっていくべきなのか、またLITALICOという会社が目指す「世界を変え、社員を幸せに」という理念についてもさまざまに言葉を交わしました。
第1回 もし明日、自分や、自分の大切な人が働けなくなったらどうする?
第2回 知っておいて。誰かをサポートするとき、自分だけで解決しなくていい
障害者雇用には、社会全体の意識改革が必要
ーー現状についてお聞かせください。「障害者」と呼ばれる方々の雇用というのは法律で決まっているから行われているのでしょうか?
田中:法定雇用率といって、障害者を雇用しないといけないパーセンテージが法律で定められているんです。平成30年から2.2%になりますが、今は2%です。(取材は平成29年)なので社員が50人いたとしたら1人は雇わないといけないことになります。
ーールールで縛るというのは難しいですね。
田中:企業で雇用率を達成している企業は、昨年度(平成28年度)発表分で50%です。法的に義務はあっても、雇用の仕方がわからないという企業様から相談を受けることもよくあるんですよ。働く場所をどのように作り出していくかが大きな課題ですよね。
ーー生産性やオールラウンドな能力を評価の基準にしてしまうと、どうしても障害者の就職は単純作業や事務作業になってしまいがちですよね。個性を活かしたステップアップが難しい方もいるかと思います。しかも、そういった領域は今後AIの発達によってどんどん人間がやる必要がなくなってくる可能性もあります。
これまでの生産性に軸足を置いた仕事の優劣を、どこかで本質的に考えていかないと、どんどん圧力を強めてルールで縛ることしかできなくなるような気がします。
田中:本当に大事なことだと思いますよ。これからは支援のあり方もきっと変わっていくし、そのなかで個性をどう仕事や強みに変えていくかっていうのは大きな課題です。
LITALICOが掲げている目標の中に、「ちがいを活かす会社ナンバー1」というものがあります。全く同じ人間はいません。障害の有無に関わらず誰だって違いがあって、考え方や得意分野もそれぞれ違うし、身体的にだって違いはあるわけじゃないですか。
じゃあ障害の有無による違いって何なんだろうって思うんです。あれ?みんなとあんまり変わらへんやん!ってことも結構あるんじゃないでしょうか。
そうすると障害っていうのは、社会全体の考え方の方にあるものなんじゃないかと。障害のある人がいるのではなく、この社会を生きるうえで障害を感じざるを得ない人がいる。
この、根っこのところを変えていかないと、どれだけ制度を整備しようともいつまで経っても同じだと思います。
ーーハード面ではなく、ソフト面での意識の変容が必要ということでしょうか。
田中:そうですね。僕らは支援の概念として「ストレングスとエンパワメント」ということを掲げています。ストレングスは、強み。本人の強みのことですね。
エンパワメントは、本人のその強みを最大限に活かせるような関わり方や環境設定をしていく支援をするという考え方です。
だから、LITALICOワークスに来られた方の特性をよく見て、その方の強みを活かすためにはどんな訓練やプログラムが必要で、どういう職域開拓をして、どういう環境を整えれば良いか考えていくスタンスは支援者として持っていないといけないと思っています。
僕らが今あるものに当てはめていく、という考え方だといつまで経っても変わらない。ご本人の強みが最大限に引き出せるような働き方を僕らが作り出していかないとって思います。
ーー「働き方」というのは最近注目されているところでもありますが、まだなかなか現実的な変化というのは難しいようにも感じています。
田中:LITALICOとしては、政策提言も行なっていますし、LITALICO研究所という組織もあります。感覚的に語られがちな支援のあり方やノウハウを言語化して、ロジックを組み立ててみんなが実践していけるように研究をしています。
ーー属人的な支援のやり方だけでは、支援者の方が疲弊してしまう懸念がありますよね。その場しのぎではない、未来への視座が感じられます。
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