「自分には何も出来ない」コンプレックスを持っていた直七さんが気付いたこととは|直七法衣店インタビュー<後編>

直七さんの目指す法衣店の未来

 

 
ーー今後の展望はなんですか?
 
直七:いまは縫い子さんの育成に力を入れています。特に職人さんは業界全体で高齢化が進んでいて、さらに跡継ぎがおらず、機械化が進んでいる状況です。なので、もともと直七法衣店は親族経営だったのですが、若い30歳代の縫い子さんを複数人雇い、店舗も改装して従業員が働きやすい環境も整備しました。
 
それと、他の法衣店との協力を模索しています。例えば僕が窓口になって、他宗派の僧侶の方々に対して生地などの説明をする。そこで注文が入れば信頼している法衣店につなぐ、といった取り組みです。オンラインで他の法衣店や職人さんを紹介しても良いかもしれませんね。
 
ーー他の法衣店と連携したり、職人さんの情報を公開することに抵抗はないのですか?
 
直七:確かに、仕入先を公開するのは正直なところ怖いんですよ。直接発注されるかもしれないので。でも、それは誰も得をしないんですよね。なぜなら職人さんの作業が止まるので。
例えば、ある僧侶の方が直接発注することで、職人さんは知識を僧侶に一から説明をして、見積もりまでしないといけない。つまり、作ること以外に多くの時間を取られてしまうんです。で、職人さんは心意気と技術があるから僧侶の要望通りに作れてしまうんですが、そうすると「引き算のない袈裟」が仕上がってしまうというか。
 
ーー「引き算のない袈裟」とはどういう意味ですか?
 
直七:予算を目一杯使い切った袈裟が出来てしまうんです。たとえば、継職法要で着る袈裟の発注で、僧侶の思いをすべて反映してしまい、どこか品に欠ける袈裟が仕上がるといいますか……。また、打ち合わせ段階での紙に描いたイメージと実物はやっぱり違っていて、この色は抜いたほうが良いとか、この色はもう少し落ちつかせた方が良いといった感覚的な調整も必要なんです。
 
直接発注だと、商品説明や見積もり作業で職人さんの作業は止まってしまうし、アフターフォローも必要ですよね。また、僧侶(お客さん)の方も注文したイメージと出来上がった袈裟が違っていて後悔をしてしまうかもしれません。その意味でも、誰も得をしないんですよね。
 
ーー確かに、イメージと実物にはギャップが生まれる可能性がありますね。
 
直七:そこで、僧侶と職人さんの間に僕が入ることで、僕が商品説明や見積もりをして、この案件ならこの職人さんが適任だろうと選ぶことができるんです。
もちろん、その分費用は増えますが、そのほうが、みんなにとって効率が良いし、結果として費用対効果が良くなると思っています。
 
今後も、法衣店という立場や自身の強みを活かした活動をやっていきたいです。その過程で、時として他の法衣店から妬まれることもあるかもしれませんが、そこは互いに協力できる仕組みで補って、一緒にやっていければ良いなと思っています。
 

<編集後記>

これまでは、「何もかも中途半端」というご自身のコンプレックスがあり、それを克服しようと一人でずっと走って来られた直七さん。その中で気付かれたのは「何も出来ない」という自身の限界でした。そうした気付きがあったからこそ、さまざまな方と繋がる今の直七さんのお姿があるのかもしれません。
コンプレックスと向き合うという、生き方のヒントを頂いたような気がします。直七さん、ありがとうございました。
 

 

   

Author

 

他力本願ネット

人生100年時代の仏教ウェブメディア

「他力本願ネット」は浄土真宗本願寺派(西本願寺)が運営するウェブメティアです。 私たちの生活の悩みや関心と仏教の知恵の接点となり、豊かな生き方のヒントが見つかる場所を目指しています。

≫もっと詳しく

≫トップページへ

≫公式Facebook

掲載日: 2021.09.10

アーカイブ