かわいそうな子、かわいそうじゃない子。あなたはどこに線を引く?

知的な消費とは?私の手の中のスマホと世界

 
ーー地球市民……かなり成熟した考え方ですよね。あまりに立派過ぎるというか。
 
栗田:そうですよね、本当に。でも、問題が起きている地域と、自分の生活を切り離して考えるんじゃなくて、それらは地続きだってことを知るのがまずは大切かなと思います。
たとえば、私たちが関わっているコンゴでは、レアメタルという希少な金属がよく取れるんです。一部のコンゴの地域では、スマートフォンやパソコンには欠かせないこの金属を活動の資金源とする武装勢力が存在しています。そして、その武装勢力に子どもも含まれている可能性があります。
 
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Photo by Jordan McQueen on Unsplash

 
レアメタルの恩恵を受けながら私たちは生活しているけれど、その向こうには戦いに巻き込まれて被害を受ける子どもたちがいるかもしれないんです。
 
ーー自分が持っているスマートフォン。その向こう側を想像する機会はあまりないかもしれないです。そういった自分の消費が、いかに誰かの人生とつながっているかを自覚的に物を買うことをエシカル消費(*1)って言ったりしますよね。少しは日本でも浸透してきている気もしますが、実際はどうなのでしょう?
 

*1 エシカル消費:人と社会、地球環境のことを考慮して作られたモノを購入あるいは消費すること(一般社団法人エシカル協会Webサイトより)

 
栗田:まだ欧米ほど浸透はしていないのが現状ですが、消費者が社会を変える動きは以前よりもよく目にするようになってきましたよね。
企業の方でも、自分たちの商品の原材料がどのような流れを辿っているかということに責任を持って取り組むケースが増えてきています。Webサイト上で、「この商品にはレアメタルが含まれていますが、武装勢力の資金源にはなっていません」といった表示をしておられるんです。かなり上流から関わろうとしている。
そういった企業の商品を率先して選ぶということも、私たちができることのひとつなんですよ。
 
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Apple社Webサイト「サプライヤー責任」

 
ーー消費のあり方が変われば、企業も変わり、やがて社会も変わっていく、という流れはとても健全ですよね。
ただ現実問題として、たとえば目の前に値段は安いけどどんなルートを辿ったのか不明なものと、強制労働や武装勢力との関わりがないことが確認されているけど値段の高いものがあったとしたら、まだ多くの人は安いものを買うのではないでしょうか?

 
栗田:そうですね。どうしても私たちのなかで「安い」っていうのは重要になっちゃいますね。フェアトレードの商品は高かったりもしますし。この問題を今すぐ全面解決っていうのはもちろん難しいですが、未来の消費を変えていくための種まきはできるんじゃないかって思っています。それが、子どもたちへの教育です。倫理的な消費、エシカル消費についての授業を取り入れている学校は少しずつ増えてきてるんですよ。なので、安さだけではない基準、選択肢というのものあるんだよってことは伝えていけるんじゃないかなと思っています。
 
ーーそういった教育が盛んな地域はあるのでしょうか?
 
栗田:やはり海外は、宗教的な背景が影響しているのか、日本よりはかなり盛んだと思います。チャリティっていうのが小さい頃から身近ですし。
 
ーー海外の方は、小さい頃から宗教的な背景のある暮らしがあるため、功徳を積むため、天国に行くため、そういった教育が盛んであるという見方もあるかもしれませんね。
 
栗田:そうですね、自分のためにっていうのはあるかもしれません。
 
ーー自分のために、という動機で寄付やチャリティをするという土壌をつくるのはハイレベルな気がします。浸透していくのもなかなか難しいですよね。
たとえば高い商品を買うとき、その価値に見合った効果を受け取れるかは大切だと思うんです。高いタオルを買ったら肌触りや吸水性が非常に良くなった、とか。
でも、高いお金を出しても商品レベルは安価な商品とあまり変わらない、となると……。

 
栗田:難しいですよね。
 
ーーこういうエシカル消費のような価値観を持つっていうのは、成長というより成熟のイメージが強いです。成熟っていう方向性で教育をしていくことの難しさはありますよね。平和への距離感と、お金の壁みたいなところは本当に難しい。戦争はいろんな意味で経済と関係していますよね。経済的なところをクリアしないといけない。
 
栗田:消費の問題も、単なる不買運動、つまり「この商品は背景に不当な経緯があるから買ってはいけない」という発信をするのではなく、この商品が買えるようになるにはどうしたら良いかを対話していくことが大切だと思っています。
 
ーー経済全体が健全な方向へ進んでいくための姿勢ですね。そういう事例ができていけば、もっと良いですよね。
 
栗田:インターネットで企業名と「紛争鉱物」っていう言葉でアンド検索してみると「責任ある調達」とかって書いてあるページがヒットすると思います。自社の商品の原材料などの調達に際して責任を持って関わっていますよ、というページです。
 
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ーー先日、「SDGs」について講演を聞きました。
 
栗田:まさにSDGsは今、企業のなかで認知度が非常に高いものですね。
SDGsの前にMDGsというものがありまして、これは途上国を対象とした目標なんです。貧困を何%削減するとか。でも、SDGsでは途上国だけではなくて、先進国も含めた世界みんなで達成する目標という風に位置付けられています。企業もSDGsの達成に向けてさまざまに取り組んでおられます。
 
ーー日本では広がりにくいのでしょうか。経済的な価値観というのもまた国によって違っていそうです。
以前読んだ本のなかに、アフリカの文化では、お金っていうのはそれほど重要なものではなくて、そこ以外のところで本当に豊かに暮らしていくための伝統や仕組みがあるという話がありました。そういった、お金とは別の新しい判断基準が生まれたらいいな、と感じました。

 
栗田:そうですね。SDGsでも「一日1.25ドル以下の貧困※」っていう定義がありまして。でも、1.25ドル以下で一日生活している人が暗く苦しく生活しているかといったら、現地に行くと一概にそうは言えないんです。数字では見えないその人たちの生活があり、豊かさがある。
 
僕らは彼らに対して、かわいそうだから貧困から救ってやるとかそういう上から目線で関わるのではなく、現地の方たちの生活に寄り添ってより生活の質が向上するような支援をしたいと思っています。
アフリカの人たちは貧しくて衣服も食べ物もなくかわいそう……というイメージは一刻も早く取り除きたいです。紛争地域には確かに厳しい生活があるけれど、そこには家族の笑い声もあるし、子どもたちの遊ぶ姿もある。しあわせの価値観を、すごく考えさせられます。
 
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ーー私たちの消費意識が、遠く離れた国の誰かのいのちや人生とつながっている。頭では理解できても、実感を持ちにくいその事実を、栗田さんに現地の情景を交えながらお話いただくと、知らないと思っていた世界が少し近くなったような気がします。
 
 
次回は、テラ・ルネッサンスが取り組む、子ども兵問題についてお話いただきます。
その子に必要だったのは「教わる」ことではなく「考える」ことだった
 
※SDGsが定められた時点では、貧困は1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されていましたが、世界銀行は世界の物価上昇を受け、2015年10月に貧困の定義を1日1.9ドル未満に変更しました。
 
■テラ・ルネッサンスについてもっと知りたい方はこちら

 
✔さまざまな支援の方法(古本を集める、英会話を勉強、web制作、コーヒー購入…)
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などなど……

   

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掲載日: 2021.10.21

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