商社マンから僧侶へ大転身!その「生き方」に迫る|木村共宏さんインタビュー①

 

突然用意された僧侶への扉

 
ーーその後、僧侶になられたということですが、その直接的なきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
 
木村:退職した時は僧侶になるとは夢にも思っていませんでした。もともと福井県鯖江市の「地域活性化プランコンテスト」という地域おこしプロジェクトを2009年からお手伝いしていたのですが、退職後も地域活性活動に取り組んでいたところ、鯖江市から「地域おこし協力隊をしませんか」とお声がかかり、2016年に就任しました。
協力隊になったことがきっかけで鯖江のとある方にお会いしたのですが、初対面にも拘らず、その方に突然「木村さん、あなた得度した方がいいよ」と言われました。自分なりに道徳経済合一説を考え、東洋哲学や仏法についても重要性を感じていたこともあり、「そうですね」と肯定的に返したところ、すぐにお寺に電話をされてしまいました(笑)
自分は寺族ではありませんが、さすがに家の宗派と違ったらなぁ、と思ったのですが、そのお寺の宗派は実家と同じ浄土真宗本願寺派でした。
これはご縁なんだなぁ、行けということなんだなぁ、と思い、住職のもとで1年ちょっと準備させて頂き、得度を受けました。
 

鯖江市地域おこし協力隊の報告会(2019年撮影)

 
ーー断ろうという考えは全くなかったのでしょうか?
 
木村:実はかなり以前から、頂いたご縁については可能な限り断らないようにしてきました。良いご縁であれば誰でも飛びつきますよね。でも、ご縁って最初の段階では良いか悪いかわからないものだと思うんです。最初は特に良いご縁だと思わなくても、受け止めてみると、後になってありがたいご縁だったなと思うことは多々あります。
 
人生において何が必要かは、分かっているようで本当は分かりません。不要だと思っても、それはその時の自分の判断に過ぎず、10年後の自分が振り返れば、あれは必要だったなぁと思うかもしれません。そう考えると目の前に用意されたものは、実は何らかの計らいで自分に与えられた貴重な機会であり、次の世界への扉なのかも、と思えてきます。
その扉を開けて一生懸命取り組むと、また次の扉が用意されます。扉の先はどうであれ、目の前に用意された扉は全部一度開けるようにしていました。どんなことでも一旦受け止めてみると、面白い人生が広がるように思います。
 

僧衣姿の木村さん(2019年、鯖江市にて撮影)

 
ーー僧侶になって何か変わったことはありましたか?
 
木村:周囲からもよく心境が変わったかどうかを聞かれますが、正直のところあまり変わっていないと思っています。
前述の通り、商社時代に東洋哲学や仏法に関心を持ち、ビジネスにおいても西洋の知恵と東洋の知恵を融合することを考えていました。その部分は今も変わりませんが、もっと前を振り返ると、僕が10歳の時に大好きだった祖父が亡くなった時の経験も大きく影響していると思います。祖父は心臓発作で突然亡くなりましたので、対面した時はもう冷たくなっていました。初孫として可愛がってもらった僕には大変なショックでした。
 
祖父を送り出した後、「死」について考えるようになりました。肉体が滅び、灰へと姿を変えた時、人はどうなるのか。自分もいずれそうなることは明らかだけど、そのとき自分は永遠の闇に包まれてしまうのか。今こうして思考している自我も認識できない状態で、この世では永遠の時が過ぎていくことになるのか、と考えると怖くて仕方がありませんでした。
 
死後というものがあるなら心は救われるだろうけど、そのような確信は得られないまま、1年間は毎晩「死」について考えていました。小学生ながらに考えに考えたものの、結局死んだ後のことについてははっきりしたことは言えない、これ以上考えても答えは出ない、と結論付けざるを得ませんでした。
その時、死んだ後のことはわからないけど、いずれこの命が終わるということは明らかであり、自分にできることは、いまあるこの命を有効に使うことだと気付きました。もしかすると、このことが仏教とのご縁につながったきっかけなのかもしれません。
 

編集後記

 
意外にも、僧侶になってからの心境の変化は何もないと語った木村さん。しかしそれは、木村さんのお考えが僧侶の生き方に合っていたからかもしれません。実際、木村さんはこれまでも「働き方」や「生き方」に対して何度も真摯に向き合っておられました。その中で生まれた、人とのつながりを大切にする、つまり「ご縁」を大切にするという姿勢はまさしく仏教的ではないでしょうか。
とてもとても興味深い木村さんのエピソード。次回は、商社マン時代のお話を通して、そのお考えについて詳しくお聞かせいただきます。(第2回へ続く)
 

 

木村共宏(きむら・ともひろ)さん
1972年、神奈川県生まれ。
大学卒業後、三井物産株式会社にて18年勤務。海外ビジネスに従事する傍ら、2009年9月より鯖江市地域活性化プランコンテストのアドバイザーを務める。
2015年3月に退職し、企業顧問・コンサルタントを務める傍ら、2016年4月より3年間、鯖江市地域おこし協力隊に就任。2017年10月に得度し、僧侶となる。
2018年4月より浄土真宗本願寺派の企画諮問会議委員、2019年4月よりNPO法人インド太平洋問題研究所副理事長、同年9月より未来の住職塾NEXT 講師。

   

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掲載日: 2020.10.16

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