「長いおつきあい」その裏で求められる鍛錬とは|僧職図鑑20ー木村 共宏②

木村共宏さんへのインタビュー第2回。前回インタビューの最後では商社マンから僧侶への転身を、「何も変わらない」と振り返られました。これは意外な答えかもしれませんが、その背景には「ご縁」を大切にする木村さんの生き方にヒントがあるのではないでしょうか?今回はそんな「ご縁」についてより深くお尋ねしました。
 
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商社マンから僧侶へ大転身!その「生き方」に迫る|僧職図鑑20ー木村 共宏①
 
長期的な視点に立って
 
ーー商社時代で成功したことや、嬉しかった経験を教えて下さい。
 
木村共宏さん(以下、木村):成功といいますか、嬉しかったことは、相手に想いが伝わったときですね。
僕が人事の採用チームリーダーをしていたときの話です。不合格通知のメールは俗に「お祈りメール」と言われていました。どの会社も不合格を伝える淡白なメッセージの後に、必ずと言っていいほど「今後のご活躍を祈念します」という文言が入っており、それが「お祈りメール」と言われる所以でした。
 
このお祈りメールを初めて見たとき、その文言にすごく違和感を覚えました。世の中全般にそういうものだということでしたが、結局全部自分で書き直しました。まず、応募してくれたことへのお礼、次に、残念ながらご期待に添える結果を報告できないことのお詫び、しかし、入社という形でのご縁は叶わなかったものの、この先弊社と(取引とか)別の形の出会いがあるかもしれないこと、その時はまた違った形でご縁をいただければありがたく思います、というような内容にしたと思います。
 
せっかく受けてくれたのに、そっけないメールを打つのはやるせない思いがしました。それに、合格して入社するよりも、不合格となる学生さんの数の方が圧倒的に多いのです。言ってみれば不合格通知を送る方々とは一期一会です。その一度きりの出会いとどのように向き合うかと考えると、精一杯心を込めたメールにしたいと思いました。
すると、当時流行っていたmixiというSNSに、「(三井)物産からお祈りメールキターT^Tでもなんか他社と違った!」と書かれているのを見つけ、思わず笑みがこぼれました。
ついつい合格者の方に注目しがちですが、採用においてはご縁のなかった方々とも「将来どこかで再びご縁があるかもしれない」と思うんですよね。そう考えると適当なことはしたくない。その想いが素直に伝わったのが非常に嬉しかったですね。
 
東京大学でのキャリア説明会(2007年撮影)
 
ーー長期的な視点に立つことが大切なのですね。
 
木村:そうですね。ついつい短期的に物事を考えがちですが、長い視点でモノを見ることがとても大切だと思います。幸い、商社の仕事は長期的なものが多く、仕事の上でも長期的視点を学ぶことができました。石油開発など様々なプロジェクトがありますが、中には30年以上かかるものもあります。自分が立ち上げたプロジェクトも、利益が上がる頃にはそこにいないことも多々あります。
自分が今ここで上げている利益は先輩が作ってくれたものであって、自分は後輩にそういう仕事をつくらなければいけません。そうやって受け継いでいくことの良さというものも学ばせてもらいました。
 
己の気持ちを操るための鍛錬
 
ーーそんな商社の仕事で苦労された経験はありましたか?
 
木村:質問の主旨とは少し違うかもしれませんが、自分はもともと短気な性格で、おまけに生意気でした。この性格に苦労しました(笑)。仕事を通じて、そんな未熟な僕の欠点を矯正し、人間性を叩き直してもらう、鍛錬の機会をいただいたと思っています。もちろん、仕事においてもプレッシャーで胃が痛くなるような経験も何度もしました。でもそれらが今の自分の糧になっていると思います。
 
南アフリカ出張の様子(2006年撮影)
 
ーー人間性を叩き直されたとおっしゃいましたが、どのようなことがおありでしたか?
 
木村:「三つ子の魂百まで」と言われるように、もともとの性格はそうそう変えられるものではないと思うんです。ですが、性格は変えられなくとも、行動は変えることができます。
「大人になる」ということは、自分の性格との付き合い方を学び、自分というクセのある人間の操り方をおぼえることだと思います。
僕も昔は、よく上司に「お前は全部自分が正しいと思っているだろ」と言われ、堂々と「はい、思ってます」などと生意気に答えていました(笑)。その後、言葉には出さないように少し修正したのですが、今度は「表情に出てる」と言われました(笑)。口に出さずとも、思ってることが全身からメラメラと出てしまい、相手にも伝わってしまうのですね。そこから、何がいけないんだろうか、と考えるようになりました。
 
自分が思ったことをそのまま言うのは一見近道ですが、それが良い結果を生むかどうかは別問題です。もちろん、正しいと思うことを正面から言うのは、良い方向に向かいたいからではあります。でも、それが相手の反感を買い、結果的に良い方向に進まないなら無意味です。そんなことに気付くようになりました。
正しいことを言うことと、正しく伝えることは違うんですね。より良い結果を生むためには、相手の理解と賛同、つまり共感を得るべきです。そのためには正しいことをただ言うのではなく、傾聴して相手の立場や心情を汲み取り、その上でベストな伝え方をすることだと思います。
長期的な視点で考えた結果、自分が思ったことをただぶつけることは、むしろ遠回りだということを学びました。急がば回れですね。そうやって丁寧なやり取りを通じて、相手が本心から同意してくれると、それが信頼にも繋がっていくと思います。
 
自分の感情の特性を把握して、なんとかそれなりにコントロール出来るようになったのが、仕事を通じて鍛えてもらった一つの成果ではないかと思います。
 
ーーそれは自分の度量を広げることと繋がりますよね。
 
木村:そうですね。短気とか怒りっぽいと言うのはやっぱり度量というか器というか、そういうものが小さいということになると思います。
僕も忙しくなるとストレスに感じることがあります。多少忙しくなったところで心の余裕がなくなってしまうようでは、まだまだ人間としては小さいわけです。ピリピリした雰囲気の人には近づきたくありませんよね。どんな状況でも常に平穏な心を維持できるか、まさに鍛錬です。
 
岡山県での新造船引渡式(2004年撮影)
 
“Should”と”Want”の葛藤
 
ーー自分の感情とはどのように向き合えばよいのでしょうか?
 
木村:「自分の感情と向き合う」というのは永遠の課題でしょうね。これは地道な鍛錬だと思います。感情という言葉も広いので、向き合うべき感情の代表として煩悩(あるいは欲望、したいこと)を例に挙げるなら、「すべき」ならしてよし、「すべき」でなければしない、という判断を繰り返し行うことですね。
僕は常に”should”(すべきこと)と”want”(したいこと)に切り分けて考えるようにしています。したいことが出てきた時、すべきことは何かを考えます。したいことがすべきことであれば問題ありませんね。
ところが、この2つが一致しないことがあります。すると2つのうちどちらかを取ることになりますが、感情に負けると”want”を取ってしまう。遊びたいけど、勉強すべきときに、遊んでしまうパターンです。しかしそれでは上手く行かない。対人関係なんかも特にそうですが、”want”か“should”のどっちを取るべきかといえば圧倒的に”should”です。
自分の中で”want”と”should”がせめぎ合って、最後に”should”を勝たせられるようになれば、自分を制御するコントロールの能力が上がったと言えるでしょう。これは日常の地道な鍛錬でしか得られません。
 
ーーその鍛錬は何故必要なのでしょうか?
 
木村:自分のやりたいことばかりを優先していては人は離れていきます。いつも美味しいところばかりを持って行って、面倒なことは人に任せるようでは誰もついて来ませんよね。人間は元来面倒くさがりですし、wantを優先すると、人に嫌なことを押し付けることが増えます。それでは長期的に良い関係は生まれません。まずは自分を律し、shouldを優先して行動することだと思います。そういう人の意見は受け入れてもらえるでしょうし、信頼も得られると思います。
 
<編集後記>

木村さんインタビュー第2回、今回は木村さんの商社時代の経験を通して、長期的な視点に立つことと、そのために必要な精神のあり方を教えていただきました。
 
事業におけるプロジェクトの期間が長ければ長いほど、乗り越えなければならない壁は多く立ちはだかります。その時に、チーム内や取引先との「ご縁」が大きく問われます。そして、「ご縁」を長く続かせるにはどのようにすれば良いかを問い続け、「自らを律する」という一つの答えを木村さんは導き出されました。僧侶への転身時に、「何も変わらなかった」と振り返るのも頷けます。
 
ある意味、なるべくして僧侶になられた木村さん。最後に、現代における僧侶や寺院のあり方についてお聞かせいただきました。(第3回へ続く)

 
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僧侶としてどうあるべきか?|僧職図鑑20ー木村 共宏③
 

木村共宏(きむら ともひろ)さん
1972年、神奈川県生まれ。
大学卒業後、三井物産株式会社にて18年勤務。海外ビジネスに従事する傍ら、2009年9月より鯖江市地域活性化プランコンテストのアドバイザーを務める。
2015年3月に退職し、企業顧問・コンサルタントを務める傍ら、2016年4月より3年間、鯖江市地域おこし協力隊に就任。2017年10月に得度し、僧侶となる。
2018年4月より浄土真宗本願寺派の企画諮問会議委員、2019年4月よりNPO法人インド太平洋問題研究所副理事長、同年9月より未来の住職塾NEXT 講師。
掲載日: 2020.10.21