「生徒のためにパズドラもやってました」宗教科の先生というお仕事|僧職図鑑22ー松﨑 智海<前編>

インターネット、特にTwitterで非常に有名な僧侶がおられるのをご存知でしょうか。
福岡県永明寺(えいみょうじ)の松﨑 智海(まつざき ちかい)住職
@matsuzakichikai)は、Twitterを活用し、多くの方へお寺や仏教の情報を発信されています。発信した内容がニュースで取り上げられることもしばしば。
 
かつて高校で宗教科の教員をされていたという松﨑住職。今回の僧職図鑑では、そんな松﨑住職の高校教員時代のお話や、SNS活用のお話をインタビュー。
 
宗教科の先生として学校の生徒に仏教を教えるって、どういう感じなのでしょうか?
前編では、高校教員時代の話を通して、生徒たちに仏教を教える難しさや、そのやりがいを振り返っていただきました。
 

高校生は仏教を聞かない?いいえ、そんなことないんです。

 

福岡県 永明寺の松﨑 智海住職(記事内の写真はすべて松﨑さん提供)

 
ーー松﨑住職はかつて、学校の先生をされていたということですが、学校ではどの教科をご担当されていたのでしょうか?
 
松﨑 智海さん(以下:松﨑):僕は北海道の札幌龍谷学園高等学校に5年間、その後は福岡県の敬愛高等学校に9年間、お世話になっていました。宗教科と情報科の免許を持っていましたが、ほとんど宗教科を担当していましたね。
 
ーー宗教科での授業は大変だったのではないでしょうか?特に、高校生の年代はあまり仏教に興味がないイメージがありますが……。
 
松﨑:確かに、よく「高校生なんて仏教なんか聞かないでしょ」と言われたこともありますが、そんなことはなくて、むしろ大人たちよりもよっぽど聞きます。そして質問もいっぱいします。「なんでお経を唱えるんですか?」とか、ご法事の場面ではまず聞かれないような質問をされましたね。
 
ーーその中でも、印象に残った質問はありますか?
 
松﨑:印象に残ったといいますか、僕の人生を変えてくれたのは、教員になって2年目ぐらいの時に受けた「先生はこの宗教を信じてんの?」っていう質問でした。
お釈迦様の伝記を教えていた時に、教室の一番前に座っている生徒が私に向かって、先生はこの話を本当に信じてる?って聞いたんですよね。
 
ーー「宗教を信じているか?」と聞かれて、松﨑さんはどのようにお答えしたのですか?
 
松﨑:その時は言葉に詰まったんです。自分は信じているとは即答できず、「まぁ、こういう考え方もありますよ」とごまかしてしまいましたね。
その後、教員を続けているうちに、だんだんと自分の中で宗教は自分の心の支えになる、自分を形成してくれてるんだと思うようになり、それからは「信じるっていう言葉はなかなか難しい言葉で、できているかどうかはわからないけど、僕はこの教えが大好きです」と、自信を持って言えるようになりました。
 

0から1に。仏教に興味を持ってもらうコツ。

 

高校教員時代の松﨑住職

 
ーー他にも、学校の先生をされて良かったと思う経験はありますか?
 
松﨑:学校の教員をして良かったなと思うのが、とにかく自分の持ってる知識をどうやって伝えていくか、どうやったら伝わるかを常に考える癖がついたことでしょうか。
 
ーー子どもたちに興味を持ってもらうコツはあるのでしょうか?
 
松﨑:目の前の生徒が今何に対して興味を持っているかを考えることですね。例えば、最近流行の歌は何かとか。また、僕が教員をやっていた時はスマホゲームの「パズドラ」を題材にした授業をやってました。
パズドラでは神様のキャラクターがいっぱい出てくるんですよね。例えば、日本仏教の説明をする時にプロジェクターで「ヤマタノオロチ」とか「クシナダヒメ」(注:パズドラのキャラクターの名前)を映して、何でこの神様が水属性なのかとか、この水属性が闇属性になるのは何でかわかる?とかそういう話をしながら授業を進めていました。最後に「今日はゴッドフェスですが皆ガチャ回しすぎないようにね」って言ったら、授業の内容をすごく覚えてくれるんですよね(笑)
 
ーーつまり、相手の興味に合わせることが大事ということでしょうか?
 
松﨑:そうですね。お寺に来てくださる方々は、私たちの話を聞きたいと思っている方ばかりですよね。なので、私たちが伝えたいことを伝えられます。ですが、学校はそうではありませんよね。
法律で公立学校での宗教教育はしてはいけませんし、家庭の中でもほとんどされてない状態ですから、ゼロベースなんですよ。ゼロなのでマイナスでもないプラスでもない。無関心の状態です。その無関心の状態からプラスにしていく、0から1にしていくのに苦労や失敗も沢山しましたね。
 

宗教科の授業を通して、松﨑住職が伝えたいこと

 

ーー授業を通して、こういうところは生徒に持って帰って欲しいという部分はありましたか?
 
松﨑:例えば、命の大切さを知って欲しいとか、思いやりのある優しい人になって欲しいといった願いはもちろんありますが、実際にその想いが伝わるかどうかはわからないんですよね。なので、僕はとにかく仏教って面白いんだよっていうことを伝えるようにしていました。
単に歴史を学ぶようなものではなくて、面白いし、言い方はよくないですが生きる上でも役に立つし、自分の心の支えにもなってくれますよね。それと、実は日常生活の中でいっぱい仏教の考え方を受け取ってるんですよ、ということを伝えていきたいなと思いましたね。
 
ーー宗教科の授業を通して、生徒さんはどんな反応をしていましたか?
 
松﨑:高校3年生の卒業時に必ず「3年間宗教を学んで」っていう400文字くらいの感想文を書いてもらうんです。成績も出て進路も確定している、いわば強制力のない時期です。
にもかかわらず、みんなちゃんと感想を書いてくれて、ほとんどの生徒が「初めて聞きました」や「仏教を学んで良かった」って感想を持ってくれたんですよ。
 
ーーそれは教師としてやりがいを感じられる出来事ですね!
 
松﨑:もちろん全員ではありませんが、宗教の授業を通して宗教心を持った生徒もいました。それを抱えたまま社会に出て、10年後、20年後に「あの時の先生の言葉を今でも覚えてます」とか、「先生に教えてもらった言葉が好きで私の子供にその名前を付けました」といった連絡を卒業生から頂いたこともありました。
全ての生徒が自分の心の中に信心を頂いたというわけではないと思いますが、一つの見識として、生徒たちに選択肢を与えることは出来たのかなと思います。
 

<編集後記>

 
「生徒たちにちょっとでも関心を持ってもらうべく、教員時代は僕もパズドラをやっていました」と教員時代を振り返る松﨑住職。
仏教に限らず、何かを無関心の状態から好きになってもらう、興味を持ってもらうというのは大変むずかしいことなのかもしれません。それでも諦めずに、生徒たちと向き合い続けてきたからこそ、大きな気づきと教員としてのやりがいがあったのではないでしょうか。「ちょっとでも仏教に興味を持って欲しい」という松﨑住職の想いが伝わるインタビューでした。
 
そして、こうした教員時代の苦労や経験が後にTwitterという形で花開くこととなります。インタビュー後編では、そんな松﨑住職のTwitterを始めとするSNS活用のきっかけや苦労話、そして今後の展望についてお話しいただきました。
 
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「Twitterの非売品僧侶」誕生秘話|僧職図鑑22ー松﨑 智海<後編>
 

松﨑 智海さん:福岡県北九州市 永明寺住職。1975年生まれ。2000年より北海道 札幌龍谷学園高等学校教員、2005年より福岡県 敬愛高等学校教員。2014年より現職。著書『だれでもわかるゆる仏教入門』(ナツメ社)(2021年1月15日発売予定)

 
記事作成:他力本願.net
掲載日: 2020.12.03