今こそ仏教! 不安な世の中に向けて、久保光雲さんが伝えたいこと。│久保光雲さんインタビュー<後編>

「今こそ仏教」新型コロナウイルスがもたらした仏縁。

 

ブラジル・ノロエステ本願寺での集合写真(新型コロナウイルス流行前に撮影)

 
ーー2021年現在、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていますが、ブラジルはどのような状況ですか?
 
久保:こちらの感染状況も非常に深刻です。ブラジルでは貧富の差が激しく、路上で生活をしている人々もいます。消毒液はおろか、マスクすら買えない人も大勢いるので、感染者はなかなか減らない状況にあります。変異株も流行していて、最近では30代の方も亡くなっています。
 
ーーそのような状況で、ブラジルではどのような空気感がありますか?
 
久保:あまり日本のような「閉塞感」はありません。日本ではマスクをしていなかったら非難されることもありますよね。周囲を気にする人が多いと思うのですが、ブラジルでは基本的にはそれがありません。マスクをしてなくても「まぁ仕方ないね」で済んでしまうことが多い。
もちろんゼロではなく、大都市のサンパウロでは友人が「スーパーに行ったら、アジア人からコロナは始まったという風に見られた」と言っていました。いわゆるアジアンヘイトですが、私が住んでいるアラサツーバでは差別されたことがありません。全体的には縛りあうような空気感はないですね。
 
ーーそのような状況で、久保さんはどのようなご活動をされていますか?
 
久保:現在はインターネットでの布教に力を入れています。というのも、今こそ浄土真宗の話を聴いてもらえる時ではないかと思うんです。
 
ーー今こそ、ですか。
 
久保:はい。今までは「人生は無常です。いつ死ぬかわからないよ」と言われても、それほど実感が湧かなかったかもしれません。ところが新型コロナウイルスがまん延してからは、自分も死ぬかもしれないという意識が強まっていますし、頼りにしていたものが頼りにならない状態になっています。ますます仏説が真(まこと)であることを示すべきだと思うのです。
残念ながら、お寺の行事は殆ど中止になってしまいましたが、一方でインターネット布教という道が開けました。
新型コロナウイルスは社会を一変させてしまいましたが、同時に、仏教をリアルに感じるきっかけだとも受け止めています。
 

インターネットで法話会を。コロナ禍における久保さんの取り組み

 

オンラインで法話会を配信している様子

 
ーー確かに、オンラインという道が残されていますね。久保さんはどのように活用されてますか?
 
久保:インターネットで法話会を開催し、浄土真宗のみ教え、一番大切な信心についてお伝えすることに注力しています。一方的に法話をするだけではなく、私と参加者がコミュニケーションを取れるように工夫していますね。
 
ーー具体的にはどういった方法ですか?
 
久保:参加を希望された方々と信頼関係を作るため、法話会の前に、私とLINEなどでお互いに自己紹介するのです。
例えば「どんな本が好きですか」「どんな映画が好きですか」とか、「なぜ浄土真宗に魅力を感じたのですか」といった質問を10個くらい聞きあってコミュニケーションしています。
そうして信頼関係をつくった上で法話会に参加してもらいます。
 
実は法話会も、当日に法話するわけではありません。
一般的な法話会では、当日に法話をして終了か、あるいは法話後に「質問はありませんか」と聞いていくのが普通だと思います。以前は私もそうしていましたが「法話のすぐ後に質疑応答が行われると、法話の内容を消化できていないので質問が浮かばない」という声が多かったんですね。
 
なので、現在はやり方を変えました。まず、法話を撮影して動画にしておきます。そして10日ぐらい前に出欠をとり、参加希望者には先に法話動画を視聴していただき、質問や感想を送ってもらいます。
さらに法話会の直前に、みなさんからの質問に答える動画を作り、それを視聴していただいてから法話会を迎えます。このスタイルですと、参加者は法話をくり返し視聴できて、深く考える時間も持てます。
法話会の当日は話合いを中心に進めますので、参加者が本当に知りたいことや聞法で引っかかっていることなどを発言できて、有意義なやり取りができるのです。
 
話合いのときは、私が話すよりも参加者の方々の話を聞いていきます。私はカウンセリングも勉強していますので、法話の中でわからなかった点や今抱えておられる悩みなどをしっかり聞かせていただきます。
法話会が終わってからも、感想やお味わいをLINEで聞きます。またインターネット上に掲示板を作って、参加者同士で話し合える場所も用意しています。希望があればご示談カウンセリングという形で、一対一でもお話をうかがいます。
 
ーーどういった方が法話会に参加されていますか?
 
久保:私がかつて抱いていたのと同じ疑問を持っている方が、よく参加されますね。例えば「阿弥陀さまはどこにいるの?本当にいるの?」「お浄土に行ける気がしません」「ご信心がわかりません」「阿弥陀さまはなんで私を救いたいと思っているの?」といった疑問です。
 
ーー法話会を行ってみて、どういった成果を得られていますか?
 
久保:まだまだ人数は少ないですが「阿弥陀さまの救いは、本当にこの私をめあてにしたものだったのだ、もったいないことであった!」と喜ばれる方が増えてきました。
例えば、幼い時から浄土真宗とご縁があっても、阿弥陀さまの教えに納得できず、自分は悪いことなんか全くしていないと思っている人がいますね。
あるいは、阿弥陀さまがいるなんて科学的に証明できない、と考える人。そういう方も、因果の道理の話を聞いたり、命を奪って生きている自己中心の自分なのだと気づくと、そこから徐々に変わっていかれます。その姿がものすごく嬉しくて、尊くて涙が出ますね。何にも変えがたい喜び、やりがいがあります。
 
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
 
久保:コロナ禍によって、世の中はずいぶん変わってきました。たとえコロナがおさまってきても、次のウイルスが出現する可能性もありますし、インターネット中心の法話会が必要であることに変わりはないと思います。
私はYouTubeで約200本の法話を公開しています。それを見て問い合わせてくださる方が多いですね。
 

<YouTubeチャンネル 久保光雲の法話 KounKubo>
https://www.youtube.com/user/yukoyuko18gan

 
これからも発信を続けて、一方的に法話を流すだけでなく、Zoom・Facebook・LINE・WhatsApp なども活用して、求道者の悩みに答えていきたいと思います。どこにいても、誰とでもつながって布教できる時代になってきています。おもしろいですね。
 
現在は日本語とポルトガル語の法話会を開催していますが、将来的には、英語の法話会も行いたいと考えています。一歩一歩は小さくとも、続けていけば大きな力になるはず。今後もこの法話会を続けていきます。
 
また、長年続けている絵の活動も続けたいです。阿弥陀さまに出会えた喜びを描いて、個展を開いてきました。個展会場で法話会もできますし、絵のファンが仏教に興味をもってくださることもあります。
 

『光雲な毎日』と阿弥陀さまのマンガ

 
また、ブラジルに出発する前に『光雲な毎日』という本を出しました。声をかけてくださったのは、哲学や心理学の本を執筆されたコスモスライブラリー出版の大野純一さんです。この本では浄土真宗を知らない方にも楽しく読めるように、絵と4コママンガ満載で阿弥陀さまの救いについて説明しました。
 

 
日本でもアメリカでもブラジルでも「お釈迦さまと阿弥陀さまの違いがよく分からない」「親鸞さまって誰?」という人は少なくありませんし、私も若い頃はそうでした。そこをマンガを使うことで、教えの要点が頭にスッと入ってくるように仕上げました。阿弥陀さまの本願から親鸞さまのお救いまでカバーしてありますので、読者からは「教えの理解度が一気に上がった」という声をよく聞きます。
 
そろそろ次の本を書きたいですね。
いま考えているのは、浄土真宗の信心に悩む人のための本。もう1つは、小説として興味深く読めて、しかも浄土真宗の本質がわかるような物語。それらを書きあげるのが今の夢です。
 

<インタビューを終えて>

 
「これまでを振り返って『ほんとブラジルまでよう来たな』と改めて思いました。でも、それは阿弥陀さまのお力によるもの。阿弥陀さまに動かされてここまで来ました」と自身の生い立ちを振り返る久保さん。
これまでの人生には、仏教との数々のご縁がありました。
仏さまの導きを感じるインタビューでした。久保さん、ありがとうございました。
 

久保光雲さんプロフィール

久保光雲さんの写真

 

広島出身。画家、僧侶(浄土真宗本願寺派)。京都市立芸術大学(陶芸科)を卒業。陶器製作に加え画家としての活動も始め、関西・仙台・アメリカにて絵画展を開催。龍谷大学大学院博士後期課程(真宗学)単位取得満期退学。2012年からカリフォルニア州の米国仏教大学院に留学。サンフランシスコやバークレーの寺院で法話を行う。2015年7月よりブラジルにて、開教使(海外布教僧侶)として赴任中。
   

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掲載日: 2021.08.02

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