ハーバード大学で学んだ僧侶の青春時代|大來尚順さんインタビュー<前編>
勉強、勉強、葛藤
――エンゲージド・ブディズムとは?
大來:社会参画仏教という、一つの研究領域です。
社会には差別や貧困など人間が作り出した苦しみがありますよね。そうした苦しみに仏教がどう受け応えしていくかを研究するのがエンゲージド・ブディズムです。ハーバード大学のクリストファー・クイーンという先生の本に出会って、私が勉強したかった仏教はこれだ、と思いました。でもエンゲージド・ブディズムはまだ世界的に見ても新しい学問で、当時の龍谷大学に専門にしている先生がいなかったんです。この学問を勉強し続けるなら、今の環境では難しいと思いました。
――そこからアメリカの大学院に行くことを決意されたのでしょうか。
大來:そうですね。父が大学院は好きなところへ行っても良いと言ってくれたので、カリフォルニア州のバークレーにある、Graduate Theological Unionの米国仏教大学院に入学することにしました。
2人の姉の影響か、昔から漠然とアメリカには憧れがありましたし、最新の研究成果を入手するのには英語は必須でしたがバークレーは最適だったんです。
留学時代の大來さん(写真提供:大來さん)
――目標が定まってからは積極的に行動されるようになったんですね。
大來:以前私は、僧侶はできる行動に制限があると思っていたんですが、龍谷大学やアメリカで勉強する中で、むしろできることの多さに気付きました。視野が広がって、それからは行動的になりましたね。大学生のときは、1日12時間は必死に勉強していました。ただ、それでも迷っていたんです。
――それだけ勉強されているにもかかわらず、何に迷われていたのでしょうか?
大來:本当にこの選択をしてよかったのか?と。自信がなかったんです。
他の友人が社会に出て行く中、私は今後役に立つかわからないようなことに時間とお金を費やして。友人と比べて負い目を感じたりして、大丈夫かな、これでいいのかな、こんな状態でこれから先食べていけるかなと、将来が心配だったんですね。それをかき消すために自分に鞭を打って勉強していたのかもしれません。