「当たり前」を問い直すことから得られるもの|清藤隆春さんインタビュー<後編>

 

信仰しつつ、他宗教も大切にする姿を目指して

 
――これからの寺院や僧侶にできることは何だと思われますか?
 
清藤:私自身のことでもありますが、ご門徒さんのご先祖を代々お護りしてきたお寺を次代へ引き継いでいくことでしょうか。そしてこれは教育者としての思いでもありますが、宗教を含めた異文化理解の教育の場を提供することですね。
現状、宗教に関連することを学ぶ場って少ないですよね。でも、宗教はみんなが学ぶべき内容だと思いますので、その役割をお寺で担えればいいなと思っています。
 
――清藤さんが僧侶として大切にされていることはありますか?
 
清藤:他者の宗教を大切にすることです。私は大学で異文化間教育や宗教社会学の研究を行っていますが、もともと自分自身が異文化や仏教以外の宗教にも興味を持っていたんです。海外留学したのも、積極的に外国人と交流したり、あるいは外国の文化を知りたいという思いからでした。これまでもいろんな国を旅してきましたが、出会う人それぞれ大切にしているものが違ったんです。
 
私も浄土真宗の僧侶として、み教えを大切にしています。私が何も宗教を大事にしていなかったら、本当の意味で他者の宗教を大事にするという観点を持てなかったと思うんです。もちろん、教育者としてもこの姿勢は大事にしていますね。
 
――宗教を信仰している方が他の信仰を大切にするところに、大きな意味があるのかもしれませんね。
 
清藤:おっしゃるとおりで、浄土真宗や仏教を大事にしている人が、他の宗教も大事だと言うことには、すごく強い説得力があると思うんです。例えば、宗教に無関心な人が「多様な宗教があっていいんじゃないか」と言ってもどこか他人事のように思います。
 
ちなみに、私が法話をするときによく他の宗教の話をするんです。それは自身の宗教も他の宗教から見れば異文化だと相対化してもらうという狙いがあります。「皆さん手を合わせましょう」と締めくくるだけではなく、他の宗教と慣れ親しんだ宗教との共通点を見出してもらい、自分たちの当たり前を問い直すような体験をご門徒さんにもしてもらいたいなと思っています。
 

東迎寺の本堂(写真提供:清藤さん)

 
――当たり前を問い直すというのは新しい法話の在り方かもしれませんね。
 
清藤:「問い直す」先に「理解」があると思うんです。例えば、海外に友だちがいたらその国のことに関心持ったり好きになったりしますよね。それまでは何となく怖かったものでも、出会いを通して共通点が見つかり、自分の価値観を問い直されることでその怖さが薄れていくんだと思います。
そしてそれは宗教も同じではないでしょうか。自分の当たり前を問い直す働きかけをすること。それもまた、僧侶として大事にしていることですね。
 
――最後に、今後のご展望を教えてください。
 
清藤:お寺を学ぶ場の一つとすることに今は関心を持っています。
昨今はグローバル化に伴って、外国の方も増えてきていますが、残念なことに偏見や差別も残っているようです。自他ともに心豊かな人生を歩むためには、他者を理解しないといけないですよね。そのときに宗教について知識がないと、宗教の違いによる差別にもなりかねません。そういう意味でも、学生たちには仏教だけじゃなくて世界の宗教を学んでほしいですね。そして、それを寺院という、宗教的な場で行うのが大事ではないかと思います。
とはいえ、今は所感として思っている程度なので、今後はそれをそうしていくためにはどうすればいいか、研究を続けながら深めていきたいですね。
 
――ありがとうございました。
 
 

編集後記

 
この度は異文化交流を通して宗教を見つめる清藤隆春さんにインタビューさせていただきました。異文化と一言で言ってもそのかたちはさまざま。自分のすぐそばにいる人ですらわかりあえないと感じるとその方とは距離を置いてしまうこともあります。
しかしそんな「わかりあえない」「知らない」「理解できない」を当たり前にしないことで、それまでの認識や関係が見直されることもあるかもしれないことを清藤さんに教えていただきました。
清藤さん、ありがとうございました。
 

プロフィール

 

 

学歴
2019 ― 2022 九州大学大学院 地球社会統合科学府 博士課程
2016 ― 2018 英国ロンドン大学大学院 東洋アフリカ研究学院(SOAS) 修士課程
2001 ― 2005 早稲田大学 第一文学部 東洋哲学専修
 
学位
社会人類学修士 (ロンドン大学, SOAS)
学術博士 (九州大学)
 
経歴
2022/04 ― 現在 北九州市立大学 国際教育交流センター 専任講師
2020/04 ― 2022/03 徳島大学 高等教育研究センター 特任助教

 

   

Author

 

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掲載日: 2022.11.02

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