法話グランプリ出場僧侶が語る、聴くことの大切さ│舟川智也さんインタビュー<前編>
本山成人式での記念布教の様子
聴くことによって育まれる関係性
――僧侶として大切にしていることを教えてください。
舟川:「聴く」ということを大切にしています。布教使として人前で話す機会が多いですが、月参りもあるため、ほぼ毎日ご門徒さんの家を訪れています。そのため、聴く時間の方が長いと思います。天気の話など他愛もない話がほとんどかもしれませんが、聴くことによって関係性が育まれます。特にコロナで人と話す機会が激減してからは、1~2週間人と話していないという方もいらっしゃいます。そうすると、内容云々ではなく、ただ話せるだけでも嬉しいものです。そんな中で、どんな言葉を投げかけても、あのお坊さんなら聞いてくれるよね、という関係性に意味があると思います。
関係性が出来上がると、人に言えない話をしてくださることがあります。お坊さんは他の人に比べて、その家に起きた悲しい出来事を最初から知っているため、前置き無しにそのような話をしても大丈夫な存在なのかもしれません。私の人間性がどうというよりも、僧侶の衣がみなさんの心を開かせてくれるのです。飲み会のような陽気な場所で、悲しい話はしづらい面があります。その点、月参りは一対一ですから、こういう話をしてもわかってくれるかな、と切り出していただけます。
お寺という場所は「悲しみの共同体」という側面もあります。お寺に参るようになったきっかけは、8割方、大切な人を亡くしたということではないでしょうか。悲しみがなくなるわけではありませんが、自分だけではなかったんだな、まわりの人も同じように悲しみを抱えていたんだなと思える。そして、お説教の中で「一人じゃないよ」と仏さまが居てくださることを知る。悲しみがなくなるわけではないのですが、一人ではないよと言ってもらえる場所があるとないとでは全然違うと思います。