「あなたがいてくれて本当によかった」……ホッとする言葉を門前に掲げる、お寺の掲示板の活動|京都府法行寺 熊本博史さんインタビュー<前編>
ご活動の中で工夫をされていることは?
(画像提供:熊本さん)
――掲示板に掲示する法語や言葉は、どのように選ばれていますか?
熊本:日常生活の中でふと思い浮かんだ言葉を選ぶことが多いですね。私の特徴かもしれませんが、宗教とか仏教のことが頭から離れることがないんですよね。日頃から意識して題材を探しているわけではありませんが、お参りが終わってリビングでテレビ番組を見ていても、頭の片隅では仏教のことを考えています。その際、ふと思い浮かんだらすぐに携帯にメモをして、いざ掲示板を書く時に携帯を開いて溜まったアイデアの中から選ぶ……といった流れです。
最終的にどの言葉にするかはいつも迷っています。そんな時は、もし明日、私が往生するとしたら、どんなメッセージを残していきたいかという基準で選ぶようにしています。
――ボツになる言葉もあるのでしょうか?
熊本:むしろ、ボツになる言葉の方が多いです(笑)。先日、メモを入れていた携帯が壊れて、データがすべて消えてしまいました。でも、あまり気にならなかったです。ストックといえば聞こえは良いですが、そのうちの大半がボツ候補であることには変わりないんですよね。特に時事ネタは、社会が速いスピードで変化しているので、いざ掲出しようと思ったときには既に遅かった、ということも多いです。
――ご活動の中で工夫をされていることはありますか?
熊本:無理をしてきれいな文字や言葉を書かないことですね。かつては私もきれいな文字を書きたいと思っていました。でも、綺麗に書こうとすればするほど、どんどん下手になっていくので、思い切って崩してしまいました。それでも好評をいただけているので、下手だから掲示板が成り立たないわけではないんですよね。むしろ、あまり上手ではない字だからこそ、安心感を得ていただけるのかもしれません。
内容に関しても、当初は親鸞さまやお釈迦さまが遺されたお言葉や、偉人の名言を掲示しようと思っていましたが、それは他のお寺でも出来ることなんですよね。
世間では、お寺さん=説教というイメージを持っている方も多いと思います。きれいで整った文字で正しいことや良いことを書くと、なんだか正論を押し付けられているような感覚を抱く方もいらっしゃるかもしれません。
つまり、お寺の掲示板は、それを書く僧侶自身が考えた言葉だからこそ、大きな意味があるのではないでしょうか。振り返れば「なんだこれ」というものもいっぱいありました。でも、そんな言葉を楽しみにしてくださる方がいらっしゃるんですよね。
今後もお寺の掲示板では、お寺とご縁のある方に少しでもホッとしていただけるとともに、法行寺に所属している私の人物像もお伝えできるような内容を掲示できればと思っています。
――ありがとうございました。
インタビューは後編に続きます。後編では、熊本さんがお寺の掲示板と共に注力されている「月忌参り」のご活動についてお伺いしました。
改めて考える、月忌参りのあり方とは?|京都府法行寺 熊本博史さんインタビュー<後編>