仏壇は本当に必要?6代目社長の葛藤と挑戦│アルテマイスター(株式会社保志)保志康徳さんインタビュー<前編>

仏壇は本当に必要?6代目社長の葛藤と挑戦
アルテマイスター(株式会社保志)保志康徳氏インタビュー<前編>

 
あなたの家に仏壇はありますか?
核家族化や単身世帯の増加、住環境や生活スタイルの変化に伴い、いまや仏壇のない家庭も珍しくありません。現代のインテリアに馴染むデザインやコンパクトなサイズの仏壇も登場しつつありますが、そもそも、なぜ仏壇は必要なのか?という根本的な疑問も生じてくるかもしれません。
今回は、老舗の仏壇メーカー「アルテマイスター 株式会社保志」の保志康徳(ほし・やすのり)社長にお話をうかがいました。他ならぬ社長自身、若い頃に自社のショールームを見渡したとき、自分の欲しい仏壇が一つも見つからず、愕然としたことがあるそうです。
なぜ仏壇は必要なのか?そして、それは私たちの生活に何をもたらしてくれるのか?その答えの一端を、アルテマイスターさんの歩みから紐解いていきたいと思います。
 

 

プロフィール

 

アルテマイスター(株式会社保志)代表取締役社長
保志康徳(ほし・やすのり)
 
1964年福島県会津若松市生まれ。駒澤大学法学部卒業。2012年アルテマイスター株式会社保志代表取締役社長に就任。日本の伝統産業のものづくりを活かしつつ、現代の暮らしに寄り添うための挑戦を続けている。
PRAY for (ONE)代表、全日本宗教用具協同組合副理事長、仏壇公正取引協議会監事、仏事コーディネーター資格審査協会副理事長、会津若松経営品質協議会理事、会津若松漆器団地組合理事、会津宗教用具協同組合副理事長もつとめる。

 

人の生き死にに関わる。こんなに尊い商売はない。

 
――まず、アルテマイスターさんの事業内容や保志社長の関わりについて教えていただけますか。
 
保志康徳さん(以下、保志):当社は1900年(明治33年)に創業し、会津若松の地場産業の一つとして仏壇・仏具・位牌の製造・販売を行っています。「アルテマイスター」には「祭壇職人の棟梁」という意味がこめられています。作っているものは仏壇仏具ですが、その本質は「祈りの文化創造集団」です。浄土真宗の立場では、「願い」や「念ずる」という表現になるのかもしれませんが。私は子どもの頃から祖父に跡継ぎとして会社を継げと言われ続けていました。私を含む19人の孫たちに、事あるごとに「お前も継げ、お前も継げ……」と言っていたのです。しかし、クラスメイトからは人が死んで儲かる職業だとひやかされたりもしましたし、継ぐのが嫌でしょうがないというのが本音でした。そこで、私は祖父の前で、家業を継がないぞ、とはっきりと宣言したのです。ところが、祖父は怒るどころかニコニコしながら言うんです。
 
「買う人の気持ちを考えたことがあるか?みんな大切な人を亡くし、悲しい思いで来店して、仏壇を選ぶ。一番つらそうなのは、子どもを亡くした人。そのような状態の人が、仏壇の前で手を合わせることで、救われる瞬間がある。こんな尊い商売はないぞ」
 
その祖父の言葉が強烈にインプットされまして。人の生き死にに関わる商売で、お金をいただいてもいいのだ、とハッとさせられました。事業としてやっていく以上は半端なことはできません。自分だけならともかく、家族や社員を巻き込むのはどうかと悩みましたが、やるからには食べていかなきゃいけないし、堂々と儲けたらよい、と覚悟を決めました。人から何を言われても、罵詈雑言を浴びせられようとも、私たちは志を持っており、決して後ろめたいところはない。そう思い直して、事業の継承を決意しました。
 
 

本社工場

 

人を自然体で育てていく企業に。

 
保志:私がアルテマイスターに入社した1993年当時、伝統産業界は低迷しつつあり、当社も事業の構造改革の必要に迫られていました。社員の平均年齢は49歳と高めで、活気が無く、社員に挨拶しても返事もない。窓ガラスすら割れたまま放置されているようなひどい状況でした。そのような中でも、極力リストラをしない、人を大事にする、そのことを大切にしていました。企業の中心は人ですから、求人に力を入れました。福島県は大学が少なかったため、隣県まで出かけて新卒社員を採用しました。これからの時代に必要な仕事だよ、と説いてまわるうちに、徐々に活力ある仲間が集まってきました。
 

製造現場の様子

 
保志:そもそも企業がなんのために存在しているか、と考えてみると、利益はあくまでも手段に過ぎません。長期的に見れば、理想を追求しているところが生き残っています。また、効率と規模を追求するグローバル企業の論理を、我々中小企業にそのまま当てはめることはできません。
当社の財産はあくまでも「人」です。そして、人が育つには自然体であることが大切です。たとえば、人を自然体で育てていく企業になりたい。働く上で精一杯の努力はしますが、不自然な取り組みはしません。仕事上、いろいろな出来事が発生しますが、それらを柔軟に受け入れて生きていく。環境の変化に適応しつつ、常に社員やお客さまの幸せを考えて、社員一人ひとりが考えられる組織にしたいと考えています。
 
次回、後編では、現代における仏壇の必要性や宗教の役割等、伝統産業の最前線から見えてきたものについてお話しいただきます。
 

   

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掲載日: 2021.08.12

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