お線香の知られざる力 日本人の意外な宗教心|日本香堂 小仲正克氏インタビュー<前編>

 
これを裏付けるものとして、弊社と藍野大学で、香りの脳への影響を調査しました。どこの部位が活性化しているか、という実験です。思わぬ発見は、手を合わせて目をつぶるだけで、たとえ仏壇がそこになくても、脳の言語野と映像野が活性化する事が分かりました。動き出すのです。
 
さらにお線香の香りが加わるとさらにその効果が高まる事も確認できました。脳の活動に、手を合わせたり、香りを嗅ぐことで大きな影響があることが分かりました。
 
ーー香りが仏事への没入感を高めるのですね。では最近、線香の需要が伸び悩んでいるのはなぜなのでしょうか?
 
小仲:幾つかの要因があると思います。戦後世代の供養意識の変化や、核家族化、高齢化などです。
具体的には、お墓を大事にしたいという思いがあったとしても、昨今は核家族化、つまり住宅事情や家族構成の変化等でお墓と自宅が離れているケースが多くなっています。東阪名に人口の50%が集中しています。
 
特にコロナ禍においては、お盆に実家には帰れないが、お墓を掃除したいという声を聞きます。そこで弊社では「美墓ネット」というお墓掃除の代行サービスを展開しています。お墓を大事にすることで、心の満足感が得られると思います。心理学でも、贈り物を送った人と受け取った人の心理を比べると、送った人の方が高い満足度を得ているようです。何かをさせていただく、という心持ちは大切だと思います。
 
また、お線香と切り離せないのはお墓の問題です。最近は放置されるお墓が増えてきました。元々、お墓を義務として守っている方も多かったと思います。狭い地域の中で、お互いがちゃんと墓を守っているか持ちつ持たれつのような面がありました。そうしたとき、大事な目安としてお花の存在がありました。
 
お墓の手入れが行き届かずお花が枯れていたりすると、後ろめたくなります。ところが最近は造花が普及してきて、お墓にお参りしなくても気にされなくなってきました。造花が増えたことで、お墓参りの頻度も下がり、お線香の需要も減っている側面もあるのではと思います。義務感だけでお墓を守るのは限界で、これからはお墓を大切にし、手を合わせることの意味や納得感を提供することの、価値醸成が大事だと思います。
 

「美墓ネット」バナー

 
ーーコロナ禍においても、お墓への関心は高いのですね。
 
小仲:はい。さまざまな変化に対応していく必要がありますが、そもそも日本人の先祖への思いや、宗教への関心は決して低くないと思います。残念ながら世界13か国を対象にした国民生活調査では、「信仰がある」と答えた方の割合は、日本は13か国中で13位と最も低い結果になっています。
 
一方で「信仰があった方がよい」、と答えた方の割合は1位です。不思議ではありませんか?現状は宗教との関わりが薄いことを自覚しつつも、宗教の大切さは薄々感じているのです。この宗教への期待に応えていくことが大切だと思います。
 
次回、後編では宗教の役割やグリーフケア効果についてお話いただきます。
 

   

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掲載日: 2021.09.17

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