自分一人では死ねない。縁のつくりなおしこそが終活|赤堀正卓さん(『終活読本ソナエ』元編集長)インタビュー<前編>

 

簡素化一辺倒からの揺り戻しを期待

 
ーー終活の分野はどのようなものがあるのでしょうか?また、今後も広がっていくのでしょうか?
 
赤堀:『ソナエ』は創刊号から、お墓、葬儀、終末医療を柱としています。その他、介護、遺品整理、エンディングノート等も扱うことがあります。最近では、介護の世話にならず、定年後を楽しんでいるアクティブシニアの関心事も、雑誌で取り扱ってきました。
死の手前だけではなく、高齢期の広い範囲まで終活の分野が拡大しています。終活の領域を市場ととらえるのであれば、いまや終活はシニア市場の一部だと思います。今後も終活市場は広がっていくと思いますが、一方で単価は下がっていくと予測しています。
 
なぜなら、少子化を背景にした家族の小規模化や、別れを簡素に済まそうという価値観の広がりがあり、葬儀など供養にかける単価が下がってきているからです。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響で「密」を避けるために、葬儀の簡素化は加速化しました。状況が落ち着くことで多少の揺り戻しがあると思いますが、中長期的に見れば小規模化していく流れは変わらないでしょう。
 
ただ、なぜ葬儀をするのか、なぜ石の墓を建てるのか…といったことには、それぞれ意味があるはずです。いまのように、小規模化、簡素化ばかりが求められてしまうのが、果たしていいことなのだろうかという疑問は強く持っています。
いま終活を必要としている世代は、自立心があり、伝統的なものよりも革新的なものを好む団塊の世代です。この世代の次には、行き過ぎた小規模化、簡素化からの揺り戻しがあり、伝統的な文化が持つ意味が再評価されるといいなと思っています。
 
ーー『ソナエ』で人気や反響があったのはどのような企画ですか?
 
赤堀:お金に関する特集はやはり反響が大きいですね。布施や、葬儀・お墓の値段は関心が高いです。それだけ、現在の布施、葬儀などの値段について納得していない人が多いのだろうと思います。
余談ですが、毎号、表紙に著名なタレントさんに登場していただくのですが、喜んで出てくださる方と、終活に抵抗感を持たれる方に二分されます。終活に対する印象や受けとめ方はさまざまなのだなと実感しています。
 

撮影となれば、レフ版持って助手役に(写真提供:産経新聞社)

 
ーー終活の意義は何でしょうか?
 
赤堀:私が定義する終活は、「新しい縁の作り直し」です。自分一人では死ねません。葬儀、遺骨、死後事務、片付けなど、誰かにしてもらう必要があります。これまでは当たり前のように、家族、親戚、近所、友人らが、それをしてくれました。しかし、家族、親戚などがいない、あるいは頼りたくないという人が増えてきました。すると、行政、企業、NPO……など、何らかの形で頼るべき相手を探さなくてはいけません。それが「終活」なのだと思います。
 
つまり、周囲との関係、縁、絆を作り直す作業なのです。
そもそも、「終活」という言葉がベストではないのかもしれませんが、それに代わる言葉が生まれていません。メディアのなかには、「Re:ライフ(朝日新聞)」、「en.活(リビング)」などの言葉も提案したところもありますが、社会的に定着するまでには至っていません。賛否はあるものの「終活」の認知度はかなり定着してきています。元々、死に対して正面から向き合って行動することはハードルが高いことだと思いますが、終活が定着してきた今は、死を考えることは、かなり自然に受け入れられるようになってきました。
 
『ソナエ』の懸賞企画で棺桶プレゼントを行ったことがありました。不謹慎だと批判が殺到するのではないかと心配していましたが、意外にも好意的な反応ばかりでした。死はもはやタブーではなくなりつつあるようです。
 
後編へ続きます。
 

 

プロフィール

 

赤堀正卓(あかほり まさたか)さん
『終活読本ソナエ』元編集長
1968年生、静岡県出身。
1991年に産経新聞社に入社。主に社会部に所属して、司法、都庁、厚労省、法務省、宗教面などを担当。副編集長兼社会部デスクを経て、2013年に社内ベンチャーとして『終活読本ソナエ』を立ち上げ。
2022年現在、産経新聞出版・専務取締役。
   

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掲載日: 2022.07.04

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