故人を大切にする社会は、生人も大切にする社会|全日本葬祭業協同組合連合会 専務理事 松本勇輝さんインタビュー<前編>

 

施主のために、言いにくいことも伝える

 

資格制度、事前相談員資格講習会(写真提供:全葬連)

 
――全葬連の資格制度「葬儀事前相談員」について教えてください。
 
松本:これからの時代、選ばれる葬儀社になるためには、事前の相談への対応が必須です。事前相談のタイミングは主に3つあります。それはまだお元気なとき、高齢者施設等療養での入居が決まったとき、病院で病状が厳しいときの3つです。事前相談の内容としては、具体的に何かに困っているわけではないが、とりあえず葬儀社さんの話を聞きにきたというケースも多いです。
 
たとえば、葬儀の中で故人が好きだったものを取り入れたいが、御社で対応できますか?などの相談があります。できるだけ施主さんの思いに添えるように尽力することが望ましいのですが、葬儀社にはしっかりと相談に乗れるスタッフを育成しているのが現状です。そのため、全葬連では「葬儀事前相談員」という資格制度を設けて講習を提供し、安心して事前相談をお願いできる相談員を養成しています。
 
――消費者相談の窓口では、どんな相談が多いですか?
 
松本:服装、お数珠、お香典の表書きなど、作法やマナーに関する相談が多いですね。昔はまわりのご親戚やご近所さんが教えてくれたのだと思いますが、とても困っておられます。また、どこの葬儀社がよいですか?というご相談も多いですね。やはり相性がありますので、直接会ってみることをお勧めして、ここなら安心というところが見つかるようアドバイスをしています。
 
――全葬連の「葬祭ディレクター技能審査」について、良いディレクターとはどんな人ですか?
 
松本:まずは接遇、葬儀の歴史、風習などの葬儀業界に関わるための最低限の知識を備えていることです。そして、施主さんは精神的に不安定な場合もありますので、故人の意向、ご遺族の意向に寄り添うことが必須です。
 
また、安易に身内だけで葬儀を済ませようとしている方に対して、簡素化のデメリットや、言いにくいことをしっかり伝えることも必要です。身内だけで葬儀を済ませた後に、家に弔問者が続出して、精神的に区切りとなりにくいケースがあります。そうなると、いつまでもお葬式をしているような気持ちになり、ご遺族が精神的に一歩踏み出しづらくなってしまいます。
 
――そもそも、葬儀はなぜ必要なのでしょうか?
 
松本:故人のため、そしてご遺族のために必要だと思います。葬儀は、ご遺族が故人の死を受けとめ、悲嘆と向き合い、生きていくための支えになります。また、故人が亡くなった事実を社会的に知らせる意味や、死についての教育的な役割もあります。
 
最近は仕事や学校が忙しく、葬儀に参列しづらいということもあるかもしれませんが、葬儀に参加することで、命の大切さや、人は亡くなるのだ、ということを学ぶのです。そのような学びの場が失われていくことを危惧しています。この国の縮図が葬儀にあらわれていると思います。
亡くなった方を大切にしない世界は、生きている人も大切にしない世界ということになってしまうのではないでしょうか。葬儀は費用が問題視されることがありますが、それだけの問題ではないと思うのです。
 
ですから、もっと啓発をしなければといけないと考えています。現代人に、葬儀は大切ですとそのまま言っても伝わりにくいですから、葬儀にどういう意味があるのか、ということを伝える必要があります。
 
後編へ続きます。
 

   

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掲載日: 2022.10.26

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