落ち着いた空間で、お経と向き合う時間|お寺で写経会―愛知県普元寺
姿勢を正し、筆やペンで丁寧にお経を書き写す「写経」。身近に仏教に触れられる催しとして、全国各地で行われています。そんな写経の催しが、浄土真宗のお寺でも実施されているのをご存知でしょうか?
愛知県西尾市にある普元寺(ふがんじ)では、「写経会」として写経の催しが行われているそう。同寺副住職の西脇唯真(にしわき・ゆいま)さんにご活動の様子をお伺いしました。
普元寺について
普元寺の外観(画像提供:西脇さん)
――今日はよろしくお願いします。はじめに、普元寺さんの紹介をお願いします。
西脇 唯真さん(以下:西脇):普元寺は愛知県西尾市にあるお寺です。父である住職が33代目を務めています。最初は天台宗の草庵として鎌倉時代に作られ、その後浄土真宗に転派しました。現在は地域の身近な拠りどころ」をコンセプトに、法座と並行して、落語会、水彩画教室、写経会などを開催しています。
――普元寺のある、愛知県西尾市はどういったところでしょうか?
西脇:愛知県西尾市は名古屋からは電車で1時間ほどのところにある、海の見える落ち着いた雰囲気が漂う街です。人口は2022年現在17万人程度で、他都市と同じく高齢化が進んでいます。特に街の外れに位置する私のお寺の周辺ではその傾向が顕著で、若い世代は名古屋の都心や東京、近い場所だと西尾市の中心地に転居する人も多いです。
どんな活動?
(画像提供:西脇さん)
――普元寺さんでは、写経会を実施されていると聞きました。これは、どういった催しでしょうか?
西脇:写経会とは、お寺の座敷の間を活用して筆ペンでお経を写すという催しです。原則、第2日曜日の9時半から11時半に開催しています。参加費は懇志として1000円を頂戴しています。私が中央仏教学院を卒業した頃から始め、現在も継続して実施しています。
――どういった方が参加されていますか?
西脇:年齢は40~60代くらいが過半数を占めています。時々、私と同世代の人や若いお母さん世代の方がそれぞれ約2~3人ずつ来られることもありますね。いずれの世代においても、法話会にはあまり来られない方が多いと感じています。
――催しはどういった流れで行われているのでしょうか?
西脇:流れは以下の通りです。
②スタッフである私の妹が司会と写経の方法を説明します。
③おりんの合図で前半を書き始め。30分間写経に集中していただきます。
④休憩時間。
おりんの合図で15分から20分程、休憩を取っていただきます。その際、季節の和菓子とお茶を提供しています。自由に休憩していただける時間なので、参加者同士で交流したり、境内を散策していただいたりしています。お寺にある仏教書を読んでいただくこともできます。
⑤おりんの合図で写経を再開。再び30分間写経に集中していただきます。
⑥写経を終えたら、お一人ずつご本尊に写経を持って行き、任意でお念仏をしていただきます。
⑦最後に、みなさんでご本尊へお参りをして解散です。
普元寺の境内の様子。秋季には美しい紅葉を眺めることもできる。(画像提供:西脇さん)
――写経会はどういったきっかけで始められたのでしょうか?
西脇:以前から普元寺では法話会に加えて、ヨガや落語会といった催しを行っていますが、何か別の角度からアプローチできないかなと模索したのがきっかけです。
もともと子どもの頃から、お寺を地域に開放したいと思っていたんです。私が小学生の頃は法話会にも多くの方がお参りされていました。可愛がってもらいましたし、良い光景でしたね。ところが、成長にしたがってお参りされる方が減っていきました。せっかく地域に支えられているのだから、お寺をもっと地域に還元できないかと思っていたんです。
――写経を選ばれた理由はどうしてだったのでしょうか?
西脇:準備が手軽なため自分自身でも企画を実施できるということと、法話会以外に仏教に触れられるきっかけになると考えたからです。
仏教に触れてもらうきっかけとして、法話は話す側も聴く側も一定の経験が必要ですが、写経はそうしたハードルが低いのではないでしょうか。というのも、写経自体はそんなに難しいことではありませんよね。また、宗教色の強い催しを敬遠される方もいますが、写経は宗教色が薄いと感じる方も多いようで、いろいろな意味で初めて仏教に触れていただくきっかけとしてちょうど良いんですよね。
――どんなお経を写しているのでしょうか?
西脇:催しを始めて以来、ずっと「重誓偈」を写経しています。重誓偈を選ぶ一番の理由は時間の短さです。一般的には般若心経を写経することが多いそうですが、浄土真宗ではおつとめするしきたりがありません。あまり長いと疲れてしまうので、重誓偈ぐらいの長さがちょうど良いと思っています。