お寺の防災はどうあるべき?|北海道法城寺 舛田那由他さん×黒田真吾さんインタビュー<後編>
「『地震』って何だ?地震大国の日本で暮らすということ」シリーズのまとめとなる今回は、北海道法城寺住職の舛田那由他さん、そして黒田真吾さんにお話を伺っています。前編では、地震発生後に法城寺で行われたご活動を振り返っていただきました。
後編では、黒田さんと共に舛田さんのご活動を紐解きつつ、今後も発生が予測される地震災害に向けてお寺がなすべきことを考えてまいります。
大地震を経験した寺院が取り組んだこととは|北海道法城寺 舛田那由他さん×黒田真吾さんインタビュー<前編>
災害発生時に求められる「受援力」とは
――地震発生後、様々なご活動を行われましたが、その中で舛田さんが最も印象に残った活動はどういったものでしょうか?
舛田那由他さん(以下:舛田):いずれの活動でも言えることですが、たくさんの人が支援・応援してくださったことです。テレビを見て支援物資を毎月送ってくださる人もいましたし、一度も会ったこともない人が10万円単位の支援金を託して置いて行かれることもありました。それがすごく印象に残っているし、人間の善意がすごくありがたいと感じています。被災地支援の経験があるものの、考えたこともないご縁でした。
お寺に届いた数々の支援物資(画像提供:舛田さん)
――災害発生時、善意を届けたいけど誰に託したらいいのか分からない方も多いと聞きました。お寺が善意を受け取る場所になり得るのかもしれませんね。
黒田真吾さん(以下:黒田):たしかにその可能性を感じますが、どこでもうまくいくわけではないと思いますよ。近年、大きな災害が続く中で「受援力」(じゅえんりょく)という言葉をよく聞きます。平たく言えば助けを受ける側の心構えやスキル、キャパシティのことで、本来は支援側のことも経験してよく理解しておかないと身に付けにくい力だと思われます。
法城寺さんに支援物資やボランティアの方々が次々に集まっていたという事実は受援力の賜物だと感じました。自治体との取り決めやマニュアルがあったわけではなく、舛田さんの自由裁量で次々に支援を受け入れていく。
これは言うほど簡単ではなく、被災者の傍にいて何が必要かを理解し、臨機応変に即時対応する力がないとできないことです。日常から関係を絶やさず、非常時も被災者本位という軸がぶれずにたくさんの試行錯誤をされた結果なのだと思います。
ーー受援力を磨いていくには、どういったことをすれば良いでしょうか?
舛田:例えば、支援物資であれば、どういったものがどれくらい足りないかを把握して、「足りない」と発信できる体制を整えておくことで支援をしやすくなりますよね。また、集まった支援物資を一時的に保管しておくスペースを確保しておくことも重要です。
情報発信については、私の場合は積極的にテレビやラジオに出演して支援を呼びかけたほか、SNSでもこまめに発信するようにしていました。
とはいえ、これらは急にできるものでも無いと思います。日頃から災害発生時を想定しておくことや、SNSであれば日常的に他のユーザーと繋がっておくことで、いざというときに素早く支援していただけるきっかけになります。
テレビのインタビューに応じ、お寺や地域の現状を伝える舛田さん(画像提供:舛田さん)
――確かに、舛田さんのご活動を振り返えると、翌日から支援活動に臨むことができたのは日頃からの備えがあったからと言えるのではないでしょうか。
黒田:舛田さんの場合、特に早い段階で発電機を確保できたことが、防寒や通信等の面で役に立ったということでしたね。改めて、事前の備えの大切さを教えていただきました。
2004年新潟県中越地震の事例では、余震が続くため建物内で避難することができない状況の中、震源近くの地域では集落の誰がどのようなものを持っているか互いに知り合っており、調理機材、食料、毛布などを持ち寄って助け合い、数日間の道路上での避難生活を何とか乗り越えていたという話をよく聞きます。
10月下旬の山はとても寒く、ほとんど眠れなかったという当時の教訓を活かして、今では集落の防災倉庫に発電機や暖房器具などをしっかり備えているそうです。(*1)
また、東京都では、帰宅困難者の受入協定を締結する民間一時滞在施設を対象に、帰宅困難者のスマートフォン等を充電するための環境整備に対する補助事業を実施していますね。
東京都中央区のある地域では、大勢がスマホを充電することを想定して複数のコンセント口がある電源延長タップが備蓄品としてたくさん用意されているのを実際に見せていただいたことがあります。(*2)
――通信手段の確保は大切ですよね。発電機や電源延長タップの用意であれば、お寺でも手軽に始められる災害対策かもしれません。
舛田:そうですね。北海道では、千島海溝地震の発生による津波が想定されています。そして、法城寺があるむかわ町は海の近くにあります。先日、保険会社が行った危険度調査では「Sランク(一番危険)」と判定されました。津波対策において、情報伝達手段の確保は欠かせないと思います。「情報弱者」をいかに少なくするかが鍵となってくるのではないでしょうか。
北海道胆振東部地震の時は、大きな揺れが来て、津波が来るかもしれないからと、とりあえず山に逃げる人も多くいらっしゃいました。でも、実際はご存知の通り山のほうが震源地に近く、被害も深刻でした。正しく情報を得られなかった結果、山の方向に逃げたことで、損傷した道路や橋に衝突して、車が大破するといった二次災害があったと聞いています。
情報が得られないことによる二次災害を発生させないためにも、速やかに電力を確保して、情報の入手手段を失わないようにすることが大切です。
また、お寺で高齢者向けのスマートフォン講座を企画しました。防災の情報自体の勉強会ではなく、スマホという情報を使いこなすツールについて、日頃から楽しく勉強できるところが大きな特徴です。防災では、地域の人をいかに情報弱者にしないかが大切だと思います。