生き方に悩む青年がカフェテラスのお坊さんになった話|木原建さんインタビュー

 

東京・神谷町の光明寺では、2005年から境内の一部を「神谷町オープンテラス(以下、テラス)」として、平日の日中に開放。オフィス街の憩いの場となっています。木原健さんは主に接遇を担当。テラスは「お寺カフェ」、木原さんは「店長」という愛称で親しまれています。

 

◆お坊さんが店長に?店長がお坊さんに?

――木原さんは「お坊さんから店長」ではなく「店長からお坊さん」になったそうですが、どういった経緯でそうなったのですか?

大学を卒業して公務員を目指して勉強していて、人、社会の役立つような仕事、文化的な仕事がしたいと考えていました。しかし、ずっと「どうやって生きていこう」と悩んでいたんです。そのとき友人の紹介で光明寺を訪れました。24歳くらいだったでしょうか。

また、学生時代に音楽イベントサークルに所属していたこともあって、光明寺で開催される音楽イベントにも顔を出すようになって。

 

———では、そのときはお坊さんという選択肢はなかったのですね。

そもそも家は一般家庭ですし、お寺に親しんでいたわけでもないので。お寺もお坊さんもやはり別の世界のものってかんじでした。職業としても、リクナビのどこを見ても「お坊さん」は載っていませんよね。

 

――それがいつのまにか、得度してお坊さんになろう、と。

自分なんかがなっていいのかという気持ちは強くありました。

お坊さんとは「気高い方だ」というように思っていましたし、厳しい修行をされているんじゃないかとも思っていました。

 

――禁欲的なイメージが?

そうですね。しかし、テラスやイベントでの活動に関わるようになって、様々な僧侶の方にお会いしました。そのなかで、大事なのはかくあるべきイメージを固守することよりも、お坊さんがそれぞれの持ち味を活かして目の前の人と関わることかなと考えるようになりました。

おかげさまで現在は僧侶として、いろいろな方のお話を聞かせていただいております。

 

――「お坊さんに話を聞いてもらおう」とお寺を訪ねた木原さん自身が、今度は話を聞く側になった、ということですね。

はい。不思議なご縁です。

 

 

◆お坊さんがお話聴きます

――お寺カフェでの傾聴活動では、どのような相談があるんですか。

就職活動をしている学生さんや、お孫さんのことで悩んでいるという声もありますし。

 

――若い女性が多いということですが、恋愛相談ってあるんですか?

案外少ないんです。なかなか仏さまの前で恋愛の話というのはしづらいんでしょうか(笑)もしかしたらそういった話は昼間日光が当たるオープンテラスよりも、夜にお酒を飲みながら聞いてもらう方が話しやすいのかもしれないと。

 

――印象的なエピソードはありますか?

雨の日、テラスに来られた方が「お坊さんなんだから、雨を止めたりとかできませんか?」と言われまして。そのとき僕は「雨を止めることはできませんが、雨を気にしないことはできますよ」とお答えしたんです。そのあと考えたんですが、素直にお寺の傘をお貸しするのが正解だったのかもしれません。

 

――寄り添うってむずかしいですね(笑)

 

――常連さんもいらっしゃるんですか?

そうですね。6年ほど前から寄せ書きのようなものを置いてまして、お寺に来られた方に書き込んでもらっているんです。

結婚されるとか、お子さんができたので連れてこられるとか、ずいぶん前にお寺に来られていた方がお孫さんを連れて来られる。お寺のテラスにいることで、人が生きていく何十年という時間の流れに私も立ち会える。もともとこのお寺の血縁のものでもないのに、そんな豊かな時間と関われるのは本当にありがたいことです。

 

――必要とされて、慕われて、もうやめられないですね。(笑)

はい。続けていく責任は感じていますね。8年間やってきたものとして。

 

 

――最後に、お寺だからできることってなんでしょうか?

お寺だからできることって「昔からやってきたことをそのまま続けてできる」ということでしょうか。長い伝統の中で地域に活かされてきたものだと思うんです。形は変われど、精神はそのままですよね。テラスもライブもその精神は持ち続けたいと思っています。

――ありがとうございました。

 

【神谷町オープンテラス】

・平日9〜17時に参詣、利用可能

・水金11〜14時無料でおもてなし(予約制、詳しくはテラスブログwww.komyo.net/kot/ から)

・休日・土日祝(臨休あり)

   

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掲載日: 2012.12.13

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