子どもから外国人まで過ごせる高齢者施設のお話|はっぴーの家ろっけん、首藤義敬さんインタビュー<前編>

トラブルは「お題」

 
ーーしかし、これだけの新しい取り組み、ご苦労もたくさんあったのではないでしょうか?
 
首藤:そうですね。特にお金の面では苦労しました。
銀行は20行くらい回って、ようやく地方の信用組合が融資してくれて……。そもそも、銀行から理解を得られなかったんですよね。なので、まずはこの事業は経営が成り立つと銀行員の方に納得していただかなければいけなかったんです。
 
ただ、この取り組みをすんなり受け入れてくれる人はそう多くないと思っていましたし、お金の問題の他にも、それは介護施設で行うべきことなのかという疑問もたくさんいただきましたし、反対もされました。
ですが、そもそも僕はそういったトラブルを「トラブル」と捉えていないんですよね。「お題」と言い換えていて、そうした問題や制約に対して、いかに切り返していくかを大事にしています。
 
ーー「お題」ですか。それは今も変わらずそのように捉えられているのでしょうか?
 
首藤:もちろんです。そうしてようやくオープンの日を迎えたのですが、当日は全国から400人ほど遊びに来てくれました。オープニングパーティは翌日のあさ3時くらいまで続いたのですが、あまりの騒ぎに近所のおっちゃんが怒鳴り込んできたんです。「お前これ介護施設できるんとちゃうんかー!」って(笑)。
 

オープニングイベントの様子

 
ーー近所ですと今後の関係性が心配ですね……。
 
首藤:いえ、クレーマーは絶対にファンになってくれると僕は思っていました。なので、その後も怒られては謝ってと、向き合い続けていたんですね。すると、新型コロナウイルスによる感染症が流行りだした頃に突然「マスク足りてへんやろ?」って、マスクを1000枚くらい寄付していただいたんですよ。
こんな感じで、トラブルはあるのですが、それに対してどう向き合って、ポジティブに変えていくかを、大喜利みたいに楽しみながら対応しています。
 
ーー日常でもトラブルが少なからずあるのではないでしょうか?
 
首藤:そうですね。例えば、いろんなお店や団体に因縁をつけてしまい、地域から嫌われた挙句、行政までもが何とかしてほしいと頼み込んでくるくらい、困ったおばあちゃんがいました。困りごとを「お題」としたときに、このおばあちゃんがはっぴーの家ろっけんに住んだらどうなるだろうって興味を持つようにしたんです。
 
でも、いまの社会の中でこのおばあちゃんが幸せになるのは難しそうでした。ならば、このおばあちゃんだけが幸せになることをいったん諦めて、「関係する人物を増やしてみんなが幸せになる環境は何なのか」を考えるようにしました。幸せの総量が増えれば、その人の幸せも増えるはずだ、という僕の考えです。
 
結果、このおばあちゃんもすごく表情が穏やかになって、子どもたちのお世話もしてくれるようになりました。
 
ーーはっぴーの家ろっけんは色々な立場の方が集う、まさに「ごちゃまぜ」な場所だと思うのですが、不思議と違和感が全然無いんです。それは何故なんでしょう?
 
首藤:確かに「はっぴーの家ろっけん」では、走り回ってる人はいるし、お酒を飲んでる人はいるし、認知症を患っていて、いきなり殴ってくる人だっています。もうごちゃまぜで、違和感なんてかき消されてしまうのだと思います。
そんな中であっても、良い関係性をデザインするのが僕の仕事であり、そこに医療と介護のプロフェッショナルが協力してくれているのが「はっぴーの家ろっけん」なんです。
 

<編集後記>

介護も、子育ても、仕事も諦めたくない。そんな首藤さんの思いから始まった「はっぴーの家ろっけん」。「子どもたちも高齢者も、日常における登場人物を増やすことがとても大切なんです」と話されます。しかし、多くの方が集まれば集まるほど、トラブルは増えるもの。そうしたトラブルも「お題」と言い換え、前向きに捉えられる首藤さんだからこそ、「ごちゃまぜ」の空間が成り立っているのかもしれません。
 
たくさんの出会いがある「はっぴーの家ろっけん」。しかし、出会いがあれば別れもつきもの。そこで人生を終えられる方もいらっしゃるといいます。続いては、この「はっぴーの家ろっけん」で執り行われるお葬式について、首藤さんからお話を伺います。
 

   

Author

 

他力本願ネット

人生100年時代の仏教ウェブメディア

「他力本願ネット」は浄土真宗本願寺派(西本願寺)が運営するウェブメティアです。 私たちの生活の悩みや関心と仏教の知恵の接点となり、豊かな生き方のヒントが見つかる場所を目指しています。

≫もっと詳しく

≫トップページへ

≫公式Facebook

掲載日: 2021.09.13

アーカイブ