「お経の動画が人気です」YouTubeを通して見えてきたものとは|武田正文さんインタビュー<後編>
浄土真宗本願寺派の僧侶であると同時に、臨床心理士としてもご活躍されている、島根県高善寺の武田 正文(たけだ・まさふみ)さんは、お坊さんYouTuberとしても精力的にご活動されています。武田さんが運営される「武田正文の仏心チャンネル」では、動画を通して日々多くの方に仏教を伝えています。
インタビュー後編となる今回は、武田さんのYouTubeでの取り組みについてお話しいただきました。YouTubeでの活動を通して得られた意外な結果、そしてその可能性とは?
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仏教と心理学。似て非なるものを組み合わせた結果とは?|武田正文さんインタビュー<前編>
「膝が痛くてお参りにいけません」YouTube活用を後押しした深刻な事情
YouTubeチャンネルの様子
ーー武田さんといえば、お坊さんYouTuberとしても有名ですよね。どういった背景で始められたのでしょうか?
武田 正文さん(以下:武田):お寺へお参りに行けないご門徒の方へ、なんとかしてみ教えをお伝えできないかと考えたのがきっかけです。いつもご法座にお参りされているご門徒の方のお顔が見えなくて、どうしたのかなと思ってお話を伺いにいったところ、膝が痛くて階段を登れない、腰が痛くて長時間座っていられないといった事情でご法座に参れないことが分かったんです。身体が元気なうちしかお参りへ行けないのは、寂しいことですよね。
それで、色々と考えて、インターネットを通した動画配信サービスであるYouTubeを活用した情報発信や伝道を思いつきました。YouTubeであれば、パソコンや携帯電話などの情報機器があれば自宅から視聴できますし、高齢者施設でもいずれテレビで視聴できるようになるかもしれません。
同時に、YouTubeを通してなら、若い世代の方々へも情報発信ができますよね。若い世代の方々も、決して仏教に興味がないわけではなく、お仕事や生活サイクルの問題でご法座に行きたくても行けないという事情があるようです。YouTubeは、そうした方々のニーズも満たせるのではないでしょうか。
ーーなるほど。YouTubeをはじめられた背景には、そのようなご門徒の方への配慮があったんですね。では、YouTubeへ動画を投稿される上で、ご苦労されたところはありますか?
武田:開設初期の、チャンネル登録者数が1000人になるまでの時期が本当に大変でした。2020年の1月にチャンネルを開設して、登録者数が増え始めたのがその4月ごろでした。世間は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言真っ只中の時期ですね。
YouTubeの特性上、最初にどれだけ多くの動画を投稿できるかがその後の分岐点なんです。ですが、最初は投稿しても投稿しても全然注目されません。この、アクションを起こしてから結果が出るまでの停滞期がすごく辛かったですね。
ーー頑張っても結果が出ない、というのはつらい期間ですね。YouTubeではどういった内容の動画を配信されているのでしょうか?
武田:浄土真宗のお経や、み教えについて話した動画、他にはご法名のいただき方を解説した動画も投稿しています。当初は浄土真宗に関連した内容の動画を中心に投稿していましたが、今後は臨床心理士やカウンセラーの経験も活かし、悩みや苦しみに応えた動画も投稿しようと思っています。
ーー武田さんが投稿された動画の中では、どのような内容のものが人気ですか?
武田:意外にも、一番視聴回数が多かったのは浄土真宗のお経を取り扱った動画でした。心理学の動画が人気かと思っていましたが、仏教の動画が人気だったのが印象的です。
活動実績から見えた、仏教の話を聞きたくても聞けない人たち
動画収録の様子
ーーどのような方々が武田さんの動画を視聴されているのでしょうか?
武田:私のチャンネルでは、視聴者の平均年齢は65歳です。意外とご年配の方もYouTubeを活用しておられるのがわかります。性別は男性が6割です。所属寺でのご法座は女性が6割くらいなので、これも意外な結果でした。男性の方は学びたい思いからYouTubeへアクセスされているのに対し、女性の方は仏法だけではなく、情緒的な繋がりを求めてお参りされているのかなと分析しています。また、海外からの視聴も少ないながらあります。
ーー海外からの視聴ですか。それはどうしてでしょうか?
武田:おそらく、海外に住んでおられる日本の方ではないでしょうか。ご法座に行きたくても、海外からはなかなか行けませんよね。そうした方々のニーズもあるんだと思います。
ーーインターネットならではですね。YouTubeで動画投稿を始められてから、他にはどのような効果がありましたか?
武田:社会からの注目度が高まりましたね。僧侶のこうした取り組みはマスメディアからも取り上げられやすいようで、私も地方紙や地方テレビ局から取材を受けました。メディアに露出することで、チャンネル登録者数もさらに増えるという、良いサイクルを得られています。このような取り組みが浄土真宗の僧侶内でももっと広がれば、教団としてより力強い情報発信ができるのではないでしょうか?
ーー他にも、お坊さんYouTuberはおられるのでしょうか?
武田:浄土真宗本願寺派だけでも、既にたくさんいらっしゃいますよ!本山や教務所の公式チャンネルを含めますと、およそ20チャンネルほど開設されています。
ーーお坊さんYouTuber同士のつながりや交流もあるのでしょうか?
武田:Facebookでお坊さんYouTuber同士の有志コミュニティを作り、情報共有やノウハウの共有を行っています。中には、チャンネルを開設されて間もない方もおられます。おそらく最初のうちは、私と同じように「誰からも見向きもされない」状態が続くかと思われます。そうしたときに支え合うことができれば、その方にとって心強いですよね。
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